第13話
淹れたてのコーヒーの香りが華やかにただよう。
本日のケーキはザッハトルテ。
お口にいれると、すぐにとろける。
あんずジャムとチョコの素晴らしいハーモニー。
甘さをうっとりと堪能した後、ゆっくりとコーヒーを口に含む。ケーキに負けないその深い味わいでいったんお口の甘さをリセットする。
ああ、何度でも新鮮に甘未を楽しむことができる無敵の無限ループ!
なんて幸せなのかしら。
前世ではインスタントのコーヒーしか口にすることがなかったが、こちらにきてから手間暇かけていれたコーヒーを覚えて、味の違いに目から鱗。
香りも苦みも酸味もこれほど違うとは!
流れる時とともにコーヒーが酸化することによってうつろいゆく豊かな味わい。この繊細な変化を楽しむのもまたおつなもの。
おほほほ!
贅沢、万歳!
この世界は乙女ゲームなだけあって、色々とご都合主義。前世との大きな祖語もなく、とても便利で快適な毎日だ。なんたって、名門ですもの。勝ち組ですわ。
おほほほ!
「お嬢様、高笑いしているところ、水をさすようでなんですが…。」
「あら、マリリン。いかがしましたか?」
「学園に、本日は登校されないおつもりですか?」
「そうね。(マリリンに朝からしこたま怒られたので)今日はもう疲れてしまいました。
登校は明日からに致しますわ。」
「確かに、学園での本日の予定は新しい学年のクラス発表に、ホームルームだけではありますが…。
いいのですか?ただでさえボッチなのに。本日登校しないと…ますます孤立してしまいますよ?」
「おほほほ!
マリリン、誤解があるようですわね。
私、決してボッチではなくってよ?
あえて表現するならば、孤高と言ってくださらない?
私、有象無象と群れるのを好みませんの。
学友などできなくても、全くもって問題ございませんわ。」
はい。うそでーす。
本当は私だって、お友達が欲しいのです…。
ですが、なぜだか皆様に…いつも遠巻きにされてしまうのです。
私だって学園に入りたてのころは、色んな方々とお近づきになれるように、たくさん努力をしたのです。
公爵令嬢って普通は取り巻きがたくさんいる設定ですわよね?
是が非でも、たくさんの取り巻きに、これ以上ないくらい、ちやほやとされてみたいです。
できることなら私だって大いに人を侍らせたいですわ…。できることなら。(大事なことなので2回言いました)
本当になぜでしょうか…。
そもそも人と人は、どうやってお友達になるのでしょうか…。
学園に通う貴族の子弟の皆さまは、容姿端麗で優秀な方ばかり。
やはり、私のようにどこまでも平凡な人間は相手にされないのでしょうか…。
そもそも、私が養子という事実がネックなのでしょうか…。
でも、よいのです。
マリリンさえそばにいてくれれば寂しくなんて(悲しくなんて)ありませんもの。
食べ終わったデザートの美しい繊細な模様の入った食器を引きながら、かわいそうな子を見る目をしたマリリンが告げた。
「そうですか。では明日は座学の学力考査がありますし、今からお勉強されてはいかがでしょうか?」
学力考査ですって!?
はぅ。
そういえば、そのようなものが…新学期早々にいつもあっていましたわね…。
きれいさっぱり、忘れておりました。
いつものごとく全く勉強しておりませんわ…。
どうしましょう。
リアム様には「人を蹴落とすぐらいなら、己を研鑽すべきだ」というようなことを言われてしまいましたし…。
ここは一つ、めいいっぱい努力をして良い成績をおさめ、リアム様に私を見直してもらって、たくさん褒めてもらいましょう!
「そうですわね。これから、私、本気で勉強いたします!」
顔をキリっとひきしめて、私は高らかに宣言した。
この時私は、己の華やかに成功した結果を確信して、リアム様とラブラブになることを夢想するあまり、かなりのやる気に満ちていた。