五十二話「フローラの旅」
空、空だ。
青空。雲の上ってこんなに美しいんだと思わせるような。
そんな快晴だった。
そしてその場所で、俺とサヤカは。
――赤竜の背中に乗りながら、約二週間の旅が始まった。
竜の背中は案外快適ではあった。
ごつごつとした背中を想像していたのだが。
なんと背中にリュックサックみたいな感じで小屋があり。
その小屋の中で俺たちは過ごしていた。
竜の大きさで言うと、横幅だけで15メートルくらいあるんじゃねーかって思うくらいでかい。
でかい、どころじゃない。超でかい。
大きすぎる。
初めて見た時の圧巻さはいまだに覚えてる。
唸る空気、圧迫するような緑の目がぎろりとこちらを睨んできた。
思わず漏らしそうなその威圧感と強大さに腰を抜かしそうになったが。
「空の青色が綺麗ですね。
今はまだグラネイシャ上空ですが、数日後にはグラネイシャを出て、高野の上空を飛行します」
「マジでドラゴンって流暢なんだな……」
俺らは小屋の小窓からドラゴンに話しかける事が出来る。
ドラゴンは前を向きながら、口を少しだけ開けて喋っているようだ。
うわっ、どうやって喋ってんだろ。
忘れていた少年心がくすぐるぜ。
「お客様なんですから、丁重に、そしてお支払い頂いた料金にはサービス精神も込みですよ」
「三桁は痛い出費だったがな」
「あっはは、ご利用ありがとうございま~す」
うわこいつ、流しやがったぞ。
こいつの名前は赤竜フローラと言うらしい。
ちなみに、俺が働き始めてからそこまでお金を使わなかったのもあり。
それプラス、実は騎士団から戦闘に参加してくれた一般人に報酬をと言う事で貰ったまとまった額込みで。三桁ギリギリたまっていたが。
今回三桁をすべて叩いた為、俺の残高はゼロに近い。
サヤカを買った後に戻った感じだ。
くっそ、このドラゴン、笑ってやがる。
「まぁまぁ、お客様の急な用事とやらも。私でなかったら不可能でしたものね」
「そうだな。カンシャシテルゾー」
「やけに心が籠ってないですね。やはり人間は感情豊かだ」
「前向きか!」
フローラのイメージは。なんというか、話しやすい。
気さくですぐに打ち解けるような性格だ。
ドラゴンと言うのはみんなこうゆう物なのだろうか?
「フローラさん。質問良いですか?」
「はい。何なりと」
と、サヤカが話しかける。
ほいっと、サヤカが小窓から顔を出すと。
「トイレなどがこの小屋にはついてるようですが、それってどうゆう……?」
あ、それ俺も気になった。
竜の背中なんだから、そうゆうトイレとか食べ物……。
「排泄物は目的地到着と共に処分します。空での衛生面は心配する必要はありません。
その小屋には高級な宿屋と同じような機能が多数あり。
キッチンもついていれば、食材も十分乗せられています。
お客様自ら料理を作ってくださり、それをご飯としてください。我々ドラゴンは空中の魔力で十分です」
え?食事の事は口に出してないんだが……分かりやすかったかな?
空中の魔力?
あぁ、そういえば聞いた事があるな。
上空の魔力は、地上から近い魔力より純度が高く。
その魔力があるだけで、魔力を取り込める人間や魔族ならご飯などはなしで過ごせると。
つうか、こんなに上空を飛んでるから。
今までドラゴンが飛んでいる場面を見たことなかったのか。
「フローラさんは、今までどんな場所に行った事があるんですか?」
とはサヤカの問いだ。
「そうですね。珍しいで言えばですが、ノージ・アッフィー国ですかね」
確かに、珍しいで言えば珍しいんだろうな。
ノージ・アッフィー国。
ノージ・アッフィー国はグラネイシャを含めた四大国の一つであり。
四大国を順に。
北部、魔法大国グラネイシャ。名産品は『魔法』
東部、サザル王国。 名産品は『魔道具』
南部、イエーツ大帝国。 名産品は『果物』
西部、ノージ・アッフィー国。名産品は『拳銃』
と言う並びだ。
上から三つの国は主に産業が盛んで、互いに取引などを頻繁に行っているらしいが。
ノージ・アッフィー国と言う場所は、この三つの国より面積がある癖。
いる住民ほとんどが魔族と言う特殊な場所だ。
だからか、他の国とあまり仲が良くないらしい。
元々、大昔の戦争時に、魔族側のテリトリーだったのがノージ・アッフィー国らしいが。
……これ言いにくいな。ノージ国にするか。
ノージ国は砂漠の国であり、物資が殆どないのと。
強力な魔物の群生地である。
そして何より、人間が居ないからか治安が最悪らしい。
ギャンブル、薬、暴力の何でもありの国と。
そんな恐ろしい国に行った事があるのか。
まぁドラゴンだし、そこまでお願いされれば行くのか。
「その時は激しい砂嵐でした。
着地と共に、奇抜な服装をした数人の魔族に取り囲まれまして」
「奇抜とはどうゆう感じなんですか?」
「ええ、髪の毛が真っすぐ上に伸びてる人もいれば、下着を頭に履いているやつも居ました」
「あ、そのベクトルの奇抜なんですね」
サヤカよ、多分違うぞ。
サヤカの納得したベクトルと、その国の治安的に違う。
サヤカ……多分それはただの変態だ。
「その方々に取り囲まれ、まさか竜狩りかと思いましたが。
……なんとその方々、私にお酒をくれたんですよね」
え?飲み仲間探してただけの変態だったの?
取り囲む必要あるそれ?
意外とちょろいのかノージ国……。
「貰ってしまったので、私はお酒を飲んだんです。
本当にただ竜の話を聞きたいと言う方々でしたので、遠慮なくその場に居座ったのですが……」
「何かあったんですか?」
「……いや、気づいたら誰も居なくなってて」
「え? ……ノージ国は不思議な国ですね」
「その通りです。あの場所は不思議な場所でした」
…………。
え? 多分違うぞ?
ノージ国のやつら、あまり小説とか絵本を読まないな?
竜って、確か酒を飲むと酔っぱらって。
……あ、あぁ。無事を祈ろう。
「どうして手を合わせているんですか?」
「あ、いや。特に意味はないぞ」
サヤカにはまだ早いな。
おん。いずれ知ることになるだろうし。
とりあえず。
「サヤカさんや」
「は、はい?」
「お酒を飲ませる相手は選ぼうね」
大人になるサヤカへ、この教訓を覚えさせるとしよう。
――――。
そこから数日たった。
意外と竜の背中も飽きないもんで。
食材も多彩にあるし、
何なら上空の魔力と言う事で少し変わった魔法を使える事に気が付いた。
「もしあれだったら、小屋の外に出てもらっても構いませんよ?」
「え? 出たら吹き飛ばされません?」
「いいえ、その小屋には魔法が埋め込まれており。
それの力で背中の上なら空気の圧などを受けずに活動できますよ」
「あぁ! 王都の馬車にもあった感じですかね?」
多分そうだな。
あれは暗視の効果を馬に付与していたが。
風を跳ねのける魔法もあるのか。
そんな部分的な魔法なんて聞いた事はないが。
そういえば、今から行くサザル王国は魔道具が名産だったな。
迷宮がたくさんあって、一獲千金を狙った冒険者が毎日戦っていると聞くし。
魔道具なら、そうゆう魔法などを持っているのかもしれないな。
「そうですケニーさん。魔道具の効果ですよ」
「え? 俺なんも言ってないけど」
うわ、エスパーかよ。
あれ?この感覚どっかで体験したことあるな。
えーと。なんだっけ。
わすれた。
「我々竜族には、心を読む術があるのですよ」
「術?」
「はい。術です。人間流に言葉を変えるなら魔法ですね」
「その術ってやつは、魔法と違うのかよ?」
「全然違いますよ。竜の一族しか使えない、特別な技です」
術か、初めて聞いたな。
人の心を読む術、便利そうだ。
「あ、そういえばフローラさんって世界中を旅してますよね?」
「えぇ、そうですが。何かご質問でもあるのですか?」
「知らないなら結構なんですが、サザル王国で四年前何かあったのでしょうか?」
「あら? ご存じないでしょうか?」
四年前、サザル王国で起こった事。
俺は知らなかったが最近聞いてから気になる事だ。
死神対策会議とやらで序列四位の男モーザックがサザル王国の王様と会話した内容。
『四年前は世話になったな』の言葉の意味を知りたかった。
まあ行っちまえば興味だ。
「四年前、サザル王国内部で反乱が起こったんですよ」
「反乱?それまたどうしてだ」
「どうやら、一部の魔族が嫌いな人間が街で反乱を起こし、魔族を数人殺してしまったと」
「はぁ?それだけで殺すのかよ」
なるほどな……そんな事があったのか。
もしその反乱とやらをたまたま居合わせたモーザックが止めたという事なら。
サザル王国の王様が感謝するのも理解できるな。
「ふふ」
「あ?」
ふと、聞こえてきた声があった。
それはサヤカとかではなく、このフローラと言う竜の笑い声で。
「やはり人間は面白いです。
感情豊かで、我々の叡智を持っていても行動が予測できない。見ていて飽きません」
…………はぁ。
「……そうかよ。俺としちゃ、死人が出てる事件を笑いたくはねーがな」
「……不快にさせましたでしょうか?」
「人間と竜の違いだろ。特に気にしてないさ」
別にいいさ。
これは俺のプライドだからな。
竜と言うのは、そうゆう賢い生き物なんだ。
賢い生物からしたら。人間の想いも笑いごとだもんな。
「それで、その反乱はどうなったんだよ」
「そこらへんが謎に包まれているのですが。
サザル王国の王様が収めようとしても収まる気配がなかったらしいです」
「ほぉ? つまりそれほどデカい反乱だったと」
「ですが、なぜか結末だけは曖昧なんですよね。いつの間にか終わっていたと言う感じで」
「……なるほど。ありがとな」
「いえいえ、サービス精神ですから」
まあ多分、フローラは笑っていた。
その結末に、あの序列四位モーザックが関わっているってことか。
ま、あの性格からして無理やり収めたりしたのだろうか?
俺には関係ない事だが、
気になった事は聞けるタイミングがあるなら聞いておかなきゃな。
いつか序列達に手を貸す時、な。
――――。
こうして俺たちは約二週間の旅を終えた。
後半は流石に小屋生活も飽きていたのだが。
サヤカはいつも使っている魔法の威力がなんとかで終始小屋の外で楽しんでいたようだ。
ま、雲の上の魔力はやはり特別なんだろうな。
つう事で、俺たちは降り立った。
感想を言うなら、荒れている。
門番はどこかの蛮族と言わんばかりの恰好で、そんな二人が槍を持っており。
そこをくぐると、どこか灰らしい空と共に。
昼の鐘が鳴り響き、俺らを歓迎しているように夕日が雲から現れる。
そしてそこら中を歩いているのは、人間ではない魔族。
ここは人間と魔族が共存している世界。
来てしまったのだ。
サザル王国に。
――現地情報――
国 :サザル王国
座標:東部、サザル王国首都サーゼル
場所:南門入口にて
余命まで【残り186日】




