二十四話「協力」
トニーとボクが魔物を抑え始めてから約三十分。
現場に駆けつけた騎士数人の手によって。
抑える作業は騎士へと引き継がれた。
街に魔物が漏れた事は本当に先程知ったらしく。
急いで馬を走らせてきたらしい。
だが、そこでまた問題が発生するのだった。
「先程連絡を受けたから街に急いで走ってきたのだが。
私達の力では、街中で魔物の止めを刺すのが出来ないんだ」
一撃で魔物の核を潰すのは至難の業らしく。
慣れていない者には到底不可能だと言っていた。
だから、数の暴力で騎士は魔物を追い詰め。
暴れながらも核を刺すのがいつもの定石らしいが。
ここは街中、人もいれば建物もある。
ここで核を潰すために、この魔物を暴れさせるのはリスクが大きかったのだ。
「これをお食べ」
「これは……?」
「王都で栽培している魔力や体力を回復させる木の実だよ」
茶色く、2本指で挟めば持ち上げれる程度の大きさの実。
ボクはそれを口の中で噛むと。
口の中で広がる魔力が体に染み込んだ。
見る見ると全身の力が戻っていき、戦う前の状態にボクは戻った。
「ありがとうございます」
「礼はいらない。君たちのおかげで救われた命があるんだ」
「………はい」
そこから、流れでボクとトニーも参加することになった。
これからの会議がその場で始まった。
「まずは名乗ろう。
我々は『王都・近衛騎士団、第十三部隊:隊長 サニー・ドード』様の部下であり。古畑後にて司令塔で待機していた数人だ」
「今の状況はなんですか?」
そうボクは真剣な顔で聞く。
あ、こうゆう場面で子供が喋っちゃいけないんだっけ?
「魔物が街に向かって進行中。
第四防衛ラインまでの建設が進んでいるが、未だに苦しい状況が続いている。
君たち街の人間への説明が遅れた理由の一つとして、『時間が無かった』が一番の理由だ」
「時間が無かった?」
「もしあの場で数人が街に残り、街で事情を説明していたら。
第一防衛ラインの建設も第二防衛ラインの予定地も今より遅めに決まっていた」
「なるほど、その少しの時間ロスで街に魔物が溢れたかもしれないと」
「そうだ、だから最善を尽くした……のだが」
騎士はガクンと分かりやすく凹んだ。
気持ちはわかる。
ここまで最善を尽くしたのに、結局は街に魔物が漏れてしまっているのだから。
「すまない。力不足なばかりに」
「いいえ、今も前線で戦っている方がいるんですから。変に責められませんよ」
今、街の先では戦争が起きている。
その戦争の熱をボク達は見ることも感じることも出来ないが。
その戦いは、熾烈な物だと容易に想像できた。
「では、今後の説明をする」
その騎士が立て直すように声に力を入れた。
「漏れた魔物が一匹ならいいのだが、報告では『数体』が逃げているらしい。
なのでその捕獲を最優先。魔物を見つけ次第、煙弾魔法にて位置情報を空に撃ち出せ」
煙弾魔法と言うのを教えられた。
手軽で詠唱さえ覚えれば簡単に使える魔法であり。
空に向かって打ち上げる事で街のどこに居ても位置情報を知らせることが出来る魔法だ。
それをボクやトニーも覚えた。
ボクやトニーは、子供の出る幕ではないと思ってたんだけど。
人手が足りないし魔物に長時間反抗していた二人なら大丈夫だろうと騎士達が許してくれた。
僕達も戦えるなら、喜んで戦おう。
「人死は出すな、俺たちは、子供も含めてもう立派な王都の騎士だ!」
「はい!!」
「……何グズグズしてる?解散だ!ここからは、魔物とのお遊戯の時間だ!」
その騎士のセリフにより。
数人の騎士が街へ走り出した。
ボクもトニーも走り出す。
「人死出すな、か」
「頑張るけど……正直不安だよね」
「だよな。俺たちは子供だから、まだそこらへんの経験とか無いしな」
「………」
「まぁ大丈夫さ、お前と俺ならなんとかなるだろう」
ボクとトニーは、街へと繰り出した。
――――。
数々の煙弾が空に上っていた。
その一個一個に魔物がおり。
街中だったり街の端だったり。
その恐怖の印が、走っているボク達にも見えていた。
騎士は言っていた。
『我々と君たちが作戦を話している間に、二人の騎士が今の現状を簡潔に書いた紙を配っている』
口で伝えるより、紙のほうが正確な情報が確実に回ると騎士は言っていた。
だからか、街の人は全員。
魔物襲来を理解している様に見えた。
ボク達が走っていると。
通り過ぎるのは子連れの人や年寄だった。
逃げているのだろう。
最初、人々に街から出るなと騎士は言ってたんだけど。
それは魔物を防衛ラインで止めれる保証が無く。
変に街を出て魔物と遭遇する事を避けるのが目的だった。
騎士は防衛ライン建設に時間を裂きたかった。
だからこその決断らしい。
時間が無かったのだ。
今ですら増援待ちであり、予期していない事態に騎士ですら焦っている。
そんな中、街の人間の中には戦おうとする人間も居た。
「バリケードを作れ!魔物に屈するな!」
この国は魔法大国だ。
だから魔法使いが多い。
魔法使いが杖を構えながら、今か今かと魔物の襲来を待っていたのだ。
『せめてもの時間稼ぎをしてやるよ!』
と意気込んでいた。
そこの地域はその人達に任せよう。
「――っ」
すると、ツンッと刺すような嫌な予感に苛まれた。
ボクとトニーは背中を撫でられた様な感覚に。恐る恐る、後ろに振り返った。
――路地裏だ。
「おいおい、また路地裏かよ」
「仕方がないよ。行くしかない」
トニーはため息をしながら、嫌々とついて来てくれた。
路地裏の中を勢いよく走る。
曲がったり真っすぐ行ったりとジグザグとした道だった。
すると、しばらく走った先に見えてきた場所に、人影があった。
そこには、見覚えのある人物と、巨大な魔物が対峙していた。
「逃げろサーラ、ここは俺がこいつの気を――」
「モールスさん!?」
知っている背中だった。
金髪のその男は、モールス・ダリックと言う。ご主人さまの友達だ。
モールスさんの前には巨大な魔物が威嚇していた。
そしてその後ろでうずくまっているのは。
「うっ……」
「おい!大丈夫!?血が……」
トニーが急いで近づいて『ヒール』を掛ける。
その怪我人の名前は、サーラと言う。
この二人にまで危害が及んでいるなんて。
「もう大丈夫です!――【魔法】煙弾!!」
刹那、空高く打ち上がったのは赤色の煙弾だ。
これで魔物がここにいることを知らせることが出来た。
そして、結界魔法でボク達が閉じ込めれば。
二人一組で動いている理由。それは。
「トニー、回り込んで」
「わかってるよ!」
モールスさんを挟むようにボクとトニーは左右に展開した。
杖を上に掲げ、そして叫ぶ。
「世界のマナよ、人界に降りし悪魔の生物を閉じ込め給え」
そう言うと、トニーとボクの杖の先端から眩い光が空に伸びて。
「――【魔法】結界!!」
「――【魔法】結界!!」
上空に高くあがった光の線が一直線になり。
それは天高くから魔物の背中に直撃した。
比較的この場所が広かったからだろう、上手く結界に閉じ込められた。
二人でしか使えない魔法。それが『結界』なのだ。
「モールスさん!!」
「君は……サヤカちゃんかい?久しぶりだね」
金髪のモールスさんは急いで駆け寄ってくれた。
だが、駆け寄っている途中でハッとし。
「サーラは?」
「あ?んだよ」
唐突な声がけで、トニーは思わず声を出す。
あれは別に威嚇してるわけじゃなく、流れが掴めないまま自分に目線が向けられたからびっくりしただけだ。
すると、トニーの膝下に居た人影が言う。
「モールス様、私は大丈夫です。モールス様も怪我を治し、回復してください」
トニーにヒールをかけられた使用人サーラはそう言う。
あれ、でも今日は前みたいな正装じゃないんだ。
普段着なのだろうか?白と黒のフリフリがついた服を着てる。
サーラさん。美人だから何でも似合いそうだなぁ。
「トニー、どう?」
「完治だ。だが、体力は休んで回復させなきゃ」
「わかった。ここで休ませよう」
ボクはモールスさんに目線を合わせた。
「モールスさん」
「連れてってくれ」
「……え?」
「俺も戦う。あいつら俺たちの……デートを邪魔しやがって。
街は壊させない。やっとありつけた仕事を失うわけにいかねぇしな」
そう言えば、モールスさんは最近(ご主人さまより前だけど)仕事を見つけて。
そのお金でサーラさんを雇ったらしい。
え、デート?
二人って……そうゆう関係だったのかな?
「ダメです」
「っ……なんでだよ!ならどうしてお前らは戦えるんだ」
「ボク達は……騎士からお願いされて」
「俺達はこの街の人間だ。街を歩くのも眺めるのも、守るのも自由だろ?」
……そう言われると。ボクはなんとも言えない。
その通りだ。さっき街の人間が戦うのを見逃したばかりだったし。
だから、拒否する理由も意味も無くなる。
でも、ご主人さまの大事な人に怪我をさせたくない。
すると、ボク達が向き合って話している斜め下から。
その女性は叫んだ。
「いけませんモールス様――!」
「え?」
「だめ、ダメですよ!私も行きますから。私も、貴方と一緒に!!」
「お前は……だめに決まってるだろ!怪我してるし、体力だって」
「治りました。だから、大丈夫です!!」
サーラさんはなぜか必死だった。
何か、モールスさんを行かせたくないのだろうか。
それとも、戦うなら一緒に戦いたいのだろうか。
そう言えばだが、ご主人さまの元居た家に侵入する時。
サーラさんは自分の役割が無いことに少しだけ落ち込んでいるように見えた気がした。
もしかして、自分が何もしずに物事が進むのを、嫌がっているのかもしれない。
置いていかれたくない。一緒に居たい。隣に並びたい。
主にボクが、ご主人さまに抱いている感情だ。
「……わかりました。一緒に行きましょう」
結局。ボク、トニー、モールスさん、サーラさんの四人で行動することになった。
――――。
「魔法が得意とは聞いていたが、魔物を抑えるくらい使えるとは」
「ご主人さまのおかげですよ」
「いいや、ケニーにそんな力はないさ。教え方は上手いかったかもしれないが、そこまで魔法を高めることが出来たのは君自身の力だよ」
「……ありがとうございます」
路地裏から抜け出し、街を走っていた。
サーラさんも回復し、ボクとトニーが戦闘で後ろにモールスさんとサーラさんと言う陣形だ。
このまま今の目的は魔物を探すこと。
だけど、モールスさんとサーラさんはあまり戦力にならない。
だから実際の戦闘では、ボクとトニーが前に出ることになった。
「足手まといにはならねぇようにするさ」
「モールスさんも、ヒールくらいはかけれると思うので。ヒーラーとしてお願いします」
「任せな」
街中を走り。ボク達は魔物を探す。
まだ襲われた人間などを見ていないから、早めに逃げることは出来ているのだろう。
人が死ぬのはもう見たくない。
最近見たばっかりで、精神が削れる。
…………。
昔、考えた事がある。
もしご主人さまが死んでしまったら。
家に帰ったら、ぱったりと死んでしまっていたら。
グラルさんみたいに、死んでしまったら。
嫌だ。
そんなの、あんまりだ。
だけど、運命は、いつも残酷だとボクは知っている。
「――がァ!」
「っ!!トニー!?」
轟音と共に、壁を突き破ってきた影が居た。
ひと目見たらわかった。
魔物だ。
そしてその魔物は、運悪くトニーに激突した。
目にも留まらぬ速さでトニーは反対側の壁に煙を立ててぶつかり。
その唐突な魔物の登場に、全員は騒然としながら目を疑った。
「――【連鎖魔法】砂嵐!!」
「グガアアアッ!」
咄嗟にボクはそう唱え、周囲に砂が巻き上がった。
魔物の目線は少し人間より上だ。
そこらへんに砂を舞うように風を調整し、魔物が砂に目を潰されている間にトニーを抱えた。
そしてボク達は来た道を戻るように走る。
「逃げましょう!!」
「くそが!!」
魔物が大きな咆哮を轟かせる。
まずい、暴れだした。
トニーを抱きかかえて走るのは無理があった。
砂で目が潰れて、魔物は凶暴化した。
「ガアアアアアアアアアアアア!!!」
「せ、迫ってくる!?」
やばいやばいやばい。
急いで杖を……。
杖、杖?
トニーを抱きかかえてるから腕が使えない。
やばい。
死ぬ。
本当に……死んじゃ――。
「――【禁忌】黒死波動」
黒い衝撃波が魔物の背中を叩き、その衝撃で魔物はボク達の頭上を飛んだ。
遅れて鋭い音がした。
そして、魔物が飛ばされた後。
魔物の後ろに立っていたのは。
「……なぁネェちゃん、あいつケニーの旦那の子供じゃねぇのか?」
濃い茶髪をし、上半身半裸で。イケメンな顔の男が立っていた。
その体は一言で言うなら、筋骨隆々であり。
腹は割れ。その手には、杖を携えていた。
「あなたは……?」
どこかで聞いたことがある声だった。
だけどその姿は初めて見たものだった。
そして、ご主人さまの名前を知っている人。
その男は、すぐに名乗った。
「俺ぇか?俺はロンドンだ」
ロンドン。ロンドンって確か……。
「ご主人さまの仕事場の……?」
「あぁ、料理人だよ」
「あんたら!!大丈夫かね!」
そう叫んで走ってきたのは知っている人物だった。
エプロン姿で、少しふっくらした女性。
モーリーさんだ。
「もう大丈夫さね、私達が来た。状況は知っている。
ロンドンが時間を稼いでるから、その子を回復させてあげな」
モーリーさんはトニーに指を指しながら言う。
その急展開に思わずボク達は見惚れるように止まってしまうが。
「動きなさい!!仕事だよ!!」
その声に、全員がハッとした。
そして、ボクはトニーをモールスさんに託して。
「ボクも戦います。結界のやり方は?」
「あぁ?俺ぇぁ知らねぇよ。早くガキを起こせ、起きるまでの時間は稼いでやるよ」
「ボクも、助太刀しますよ」
ロンドン・ティザベルと、サヤカは共闘を始めた。
「俺ぇぁはこれでも料理人だ。舐めてもらっちゃー困るぜ、魔物様よぉ!!」
「行きますよ!!!」
余命まで【残り286日】




