十四話「大魔法図書館」
「ご主人さま!!あれを見てください」
そうはしゃぎながら、サヤカは大きいお城、王城に指をさす。
もうそろそろ暑くなってきた時期だ。薄着を買ってやってもいいかな。
と俺は考える。
親父が死んでから、二週間が経過した。
いま俺たちは、二人で王城近くまで来ている。
理由は息抜きにもなるし、サヤカが楽しめそうな物が多そうだなと前回感じたからだ。
まぁその前回は、俺が大魔法図書館へバーモク病を調べに行った時だがな。
「そう言えばサヤカ」
「はいなんでしょうか」
「お前あの時、親父に俺のことをご主人さまじゃなく『お父さん』と言ったよな?」
二週間前、サヤカと俺は屋敷に侵入(正面突破)し、親父の最後を看取った。
他の兄妹は仕事やいる場所によって手紙が届くのが遅れるので、まだ誰も来ていない。
だがその間に、親父は荼毘に付された。
そして、親父がすでに埋まった墓石が俺の家の近くにある。
あの執事が気を利かせてくれたのだろう。
「ええっと、空気的にそう言ったほうが良いかなって思って」
「そうか、なら褒めなきゃな」
と、サヤカの頭を撫でてやる。
嬉しそうにウヘヘと笑ったので、今後も問題なく継続していこう。
さて、後日談だ。
まず、ジャック家の跡継ぎだが。
どうだと誘われたが断った。
それだけだ。
しつこく聞かれることもなく、それだけで終わった。
詳しいことは今後決めるらしいが、まずは他の兄妹の反応待ちだと言う。
親父が死んだ事は、跡継ぎが決まってから発表するらしい。
俺の予想では、跡継ぎはカール兄さんか、エマ姉さんになると思っている。
あの二人は優しいからな。
カロスには親父の最後の言葉を伝えられなかった。
カロスは今、この街に居ない。
どこを探しても居なかった。
親父との関係をもっと詳しく知りたかったんだが、ま、いいか。
あい、後日談終わり。
今はそんな事を考える暇はない。
せっかくここまで馬車を借りたんだ。
うんと楽しむぞ。
「ここの町並みは、ボク達が住んでいる場所とは全然違いますね」
「そうだな。毛色もそうだし、建物の雰囲気とか、地形の凹凸さも変わっているよな」
王城の周りに存在している街、王都。
そこの雰囲気を説明するのは難しいが、強いて言うなら凝っている建物が多い。
坂道も多いし、色んな出店があるし、そして全部の建物がオシャレなお店となっている。
入れば圧巻、サヤカが目をキラキラとし。
ご主人さま、スケッチしたいです。
と言い出すこと間違い無いだろう。
「そう言えばサヤカ、最近暑いだろう。夏場の服を買ってやろうか?」
「えぇ、いいですよ。ボクはこの服がお気に入りなんです」
「じゃあ防熱効果のある魔石とか買っていくか?今はまだこんなんだが、後々もっと暑くなるだろうし」
「そうなんですね。じゃあ買いましょうか」
魔石屋で、俺らは水の魔石を購入した。
水の魔石は常に冷たく、迷宮に入らなきゃ取れないが、一度の収穫量が多いため格安だ。
「ご主人さま、お腹すきました」
「それはそうだな、よし、あれを買おう」
王都ならではの食べ物もあった。
俺らの家の近所では、酒場とかしか無く、あまり食べ歩きできるような物を売っている店は無かった。
だが、ここは王都だ、魔法大国グラネイシャの王都なのだ。
だからこそ、旅行業なども盛んなはず!!!
「んっっっまい!んまいですよご主人さま!!」
「これは美味いな」
口を大きく開けなきゃいけないのが欠点だが。
その代わり全ての食材を口に入れ、何度も咀嚼をすると溢れ出す濃いめの旨味が口に広がった。
その触感も多種多様で、柔らかかったりしゃきしゃきしていたりと、味の宝箱だと思うほど美味しかった。
その名は、サンド・ウィッチと言うらしい。
不思議な名前だな。
俺とサヤカは食べ歩きをしながら、どんどんと足を進めていった。
噴水を見ながら、脇道を通りながら。
地竜の馬車に乗せてもらったり。
サヤカは初めて見る魔族と出会ったり。
サヤカにとっては、全てが新鮮だったと思う。
だが、これが今回の目的地。
「サヤカ、ここが――」
「ここが!!大魔法図書館って言うのですか!?」
サヤカの目が大きく丸くなる。
早く入りたそうだった為、俺はサヤカに「じゃあ二時間後に集合な」と告げ。
サヤカは驚くべきスピードで図書館に滑り込んでいった。
思わず俺も走り出し、滑り込んだサヤカを確保しながら。
「図書館で走るな、静かにしなきゃ追い出されるぞ」と伝えたら。
サヤカは少ししょんぼりしながら、トボトボと図書館に入っていった。
「全く、落ち着きがないな」
そう言いながら、受付のお姉さんに一礼しておいた。
なんだか恥ずかしいな、前回に引き続き似たような事をしてしまって。
相手も俺の事を覚えていたようだ……全速力で走ってきたおじさん。とかかな。
だが、改めて見るとこの場所はすごいな。
気持ちが興奮して走り出すのもわかる。
一見は大聖堂。だが、その中には万を超える歴史や現代や魔法の本が寄贈されている大図書館だ。
特にここ、魔法大国グラネイシャでは。
魔法に関しての研究書物、魔族の歴史、魔法動物の起源など。
魔法と単語が入っている本は大体置いてある。
正直、こりゃすげぇ。
俺はそのまま足を進め、地下三階に入った。
そしてそのまま、俺は奥に進み。
「世界の病気、か」
この本は、バーモク病について俺が調べた本だ。
分厚さはピカイチ。
何だって四百ページもあるからな。
持つのも一苦労だが、前回の俺は焦りすぎてこれを普通に持って開いていたのか。
それは腕痛めるわ。
巨大な本を胸に抱え、俺は近くにあった席へ座り。
その机に、本を広げた。
幸い地下という事があり、あまり人は居なかった。
「久しぶりだな、ケニー」
前言撤回。懐かしい声がした。
それも、随分昔に聞いた声だった。
あぁ、そう言えば。王城近くに勤務しているやつが居たな。
「ケニー、兄さんって呼べばいいかな?」
「お前、王族の護衛はどうしたんだよ」
「いやいや、僕は職務怠慢じゃないさ。ただ僕は、特別な力を使ってここにいる」
「その名前は」
「有給」
「ばーか」
振り返ると、俺が知っている騎士が居た。
と言うか、騎士と言えるのだろうか、この身なりは。
すこしやんちゃだよな。
「久しぶりだな、ゾニー・ジャック。親父の事は聞いてるな?」
ゾニー・ジャック。俺の弟だ。
まぁ弟だが、他の兄妹とは違い、あまり俺と面識がない。
なぜなら、弟は。俺を覚える前に俺が引きこもったからだ。
「聞いてるよ。だけど、まだ王都を出れるほど長期休暇は貰っていないんだ」
「そうか、時間掛かってもいいから墓には顔出せよ」
ゾニーの見た目は、一言で言うならちゃらい。
宝石のネックレスを付け、イケメン顔のせいで実は女性人気が凄まじく、私服は露出が多めだ。
鎖骨が見えて、半袖で、浴衣のような服だった。
のくせに、宝石のネックレスだ。
こいつ、どんなけ着飾りたいんだ。
「兄さんがここに来てるって、どうゆう風の吹き回しだい」
「あぁ、そうか。お前は俺の最近を知らないんだな」
「知らないに決まっているだろう兄さん、僕はこれでも忙しかったんだぜ」
ゾニーは王族の護衛をする近衛騎士団の一員だ。
何でも、団長はカール兄さんで、その部下にゾニーが所属しているって感じだ。
「カール兄さんは親父のことを知っているのか?」
「知っているよ。だけど、忙しいから会いに行けないみたい。行きたそうだったけどね」
「そうか」
「まぁカール兄さんは、ケニー兄さんが父さんの近くに入ればいいと思っているよ。と言うかそれしか出来ないしね。噂に聞くけど、改心したって本当なの?」
「改心か……まぁ変化はあったな」
この一ヶ月で色々あったのは事実だ。
俺もサヤカも、環境の変化ばかりで色々疲れている面がある。
だからこそ、王都旅行をしているんだがな。
まぁ兄弟たちにサヤカを紹介するのは、まだまだ先になりそうだ。
長男次男三男。
長男カール・ジャック。
次男ケニー・ジャック。
三男ゾニー・ジャック。
と言う並びだ。
で、女は。
長女エマ・ジャック。
次女ケイティ・ジャック。
の二人だけ。
兄妹が多いって、説明が難しいな。
二人は今はこの国に居ない。
各地で、魔法学校の教師をしていたり。ある貴族に嫁いだりしている。
いずれ親父の事は伝わるだろう。
その時に会えれば、嬉しいかな。
「あぁ、そう言えばケニー兄さん」
「あ?なんだ」
とゾニーは言うと。
俺の耳元に近づいてきて、耳打ちをした。
「――今王都に序列や騎士が集められている。近々、大きめの災害が起こるかもしれないから気をつけて」
「は?」
それを言い終わると、ゾニーは俺の肩を強く叩き。
そのまま足速に去っていった。
去り際に「それはつくしの下に隠しておいてね」と。言葉を残して。
「…………久しぶりに聞いたな、その隠語」
『つくしの下に隠しておいて』
それはジャック家の兄妹が良く使っていった隠語だ。
意味はこうだ。
『誰にも言っちゃ行けない秘密』
つまり、俺は今、口止めをされた。
序列や騎士が集まっている。
不穏な雰囲気が流れているのだろうか。
この国の情勢は、大丈夫なのだろうか。
正直、俺が知ったことでは無いのだろう。
だが、注意をしておけと言う意味なのだろう。
近々災害がある。
「自分の安全くらい、自分で守れるさ」
これでも俺は魔法が使えるんだ。
大丈夫だ。
……あ、そう言えば魔病の症状で魔力が使えなくなるのか。
……あー。もしかしたらサヤカに頼るかも。
その後、サヤカが色んな魔法の本を持っていこうとしたので。
図書館の本は貰えないぞと言うと、サヤカは凹んだ。
なので、最後に本屋に寄ることになった。
――――。
「やぁあんた。男前だね」
「お世辞はいいよ、魔法学の参考書を買いたいんだがあるか?」
俺は青髪の色白魔女にそう聞く。
すると不満そうに、ダルそうな態度で。
「奥の戸棚に本はまとめてあるさ。ここは雑貨屋だ、何でもあるんだよ」
――雑貨屋『イヴ』
本屋が無かったのと、あっても高いものしか売っていなかったのでここに来た。
雑貨屋と言うのは、意外となんでも売っているからな。
実際、本もあったし、サヤカが喜んでいる。
「あんた、どこから来たんだい」
「俺か?」
店員なのか店主なのか、青髪の色白魔女は俺にそう聞いてきた。
「まぁ、北の街だよ」
「そうかいそうかい。そうゆう顔だもんな、私にはわかるさ」
なんだぁ、こいつ。
王都にいるやつは変人しかいないのか。
いいや、個性が輝ける場所とでも言っておこうか……。
俺はサヤカが本を選んでいる間、他の商品を見て回った。
案外色々あった。
例えば料理系の本だ。
これは使えそうなので買うとする。
おっ、畑の作り方って本があるぞ、買うか。
おっ。なんだこれ、金髪少女の人形?どんなものまで売っているんだよここは。
他にも色んな雑貨があった。
魔石もそうだし、なんなら杖もあった。
取り敢えず俺は、『王都の料理』『畑の作り方』『イブと金髪少女の記録』と言う絵本を買うことにした。
最後の本は、買うと金髪少女の人形が付いてくると言う謎特典に目を惹かれた。
内容が面白くなかったらただじゃおかないぞ。
「ご主人さま」
「お、なんだ」
サヤカが本を抱えて話しかけてきた。
その本がほしいのだろうか。
「杖を買ってもいいでしょうか?」
「杖?もうあるじゃないか」
「ありますが、あれは少し古くって。デザインがあまり好きじゃないんです」
「そ、そうか……」
それはなんだかショックだな。
俺が昔使ってた杖だから、愛用してほしかったぜ。
まぁサヤカが一番喜ぶ物にしよう。
するとサヤカは、そのまま後ろに隠していた杖をすっと出し。
「この杖を買ってもいいでしょうか?」
と、聞いてきた。
取り敢えず俺は値段を見る。
「……うん、安いからいいよ」
「ありがとうございます!!」
サヤカが持ってきたのは白い芯に黒の持ち手の上品な杖だ。
白髪のサヤカには似合っている。
まぁ、杖は最近の物を使ったほうがいいって聞くしな。
「おっ、かっこいいデザインもあるもんだな」
と、俺はそこである杖に目を奪われた。
綺麗で真っ直ぐなフォルム、シンプルなデザインが俺好みだった。
思わず気になったので材料を見て見た。
芯:ドラゴンの鱗。
持ち手:白樺の枝。
皮:ドラントオークの皮。
文面だけ見るとめちゃくちゃ高そうだが、値段は案外安い。
だが俺は、どのみち半年で魔力が使えなくなる。
杖なんて買っても、意味は……。
「…………」
だけど、まぁ、気に入ったから買うか。
杖として使えなくても、飾りとして置けるしな。
「あんた、杖に自分の名前を掘れるんだけどどうする?」
と、店主に聞かれたので。
俺はケニー・ジャックのイニシャル。
『KJ』を掘ってもらった。
ついでにサヤカは『AJ』と掘ってもらっていた。
イニシャルで無いことは確かだが、まぁそこはサヤカの好きにさせようと思う。
これでまた一つ、俺は階段を登った気がした。
「あっ、そう言えば買わなきゃ行けない物があるんでした」
「ん?なにか買い忘れたか」
「はい!」
「なんだ?」
「ご主人さま、一ヶ月前の事を忘れたのですか?」
「一ヶ月前?」
「はい!!」
嬉しそうに微笑んだと思えば、次の瞬間には意地悪そうな笑いになった。
イヒヒと可愛く笑いながら、サヤカは振り返る。
サヤカは自信満々に、あの時の事を言った。
「スポンジの寿命、一ヶ月でしたもんね。買い替えましょう」
余命まで【残り313日】
第二章 貴族編 ―終―
今回サヤカが購入した物まとめ。
『杖』
『魔法教本』
『魔石』
『青色のローブ』
(↑思ったより文字数が増えそうだったので描写なし。多分図書館行く前に買った)