第1話 異世界転生
気軽に頑張ります!
"それ"は突然だった。
俺は朝起きて、学校に行き、帰ってきてから寝る。それが俺の日常である。というか、この世のほとんどの高校生の日常だろう。
だが、今日に限っては違った。
俺がいつも通り1人寂しく、ボッチで下校してると、"そいつ"はいた。
「死ね死ね死ね死ねぇ!ギャハハハハ!!!」
狂ったような笑い声に本当に人間なのか、と思うほどにおぞましい表情。
(……とりあえず、ここは足音を立てずに去るとするか)
今までで一番危機的状況だというのに、何故か俺は冷静でいられた。
「……さすがに逃げないとまずいよな」
俺は元来た道を引き返そうとしたその時、
「いやあああああ!こ、来ないでぇぇぇ!」
"そいつ"は狙いをつけたかのように、10歳にも満たないほどに幼い少女へと迫っていった。
「へ、へへ。こんなにも可愛いお嬢ちゃんを殺すのもたまには悪くないよな」
……流石に見過ごせないな。ん?俺は今なんて思った?流石に見過ごせないな、だと?この俺がそんな事思うなんてな。まぁいい、俺みたいな何の目標もなく生きるてる人間よりあの娘みたいな可愛い子が生きていた方が世の為である。
そう思い次の瞬間、俺は足に力を込めて駆け出した。
"そいつ"がナイフを少女に向かって振り下ろそうとする。そこに強引に俺が割り込むと、俺の胸にナイフが深く深く突き刺さる。
「ぐっ!がはっげほっ!」
俺の口の中に血の味が広まっていく。それを一気に吐き出す。
(ヤベェ……ガチで死ぬわ、これ)
俺はゆっくり振り向きながら言う。
「さっさと……逃げろ!こっちを、振り、返らずに、行け!」
最後の力を振り絞ってそう伝えると、少女はハッとしたかのようにその場を逃げ出していった。
(あぁ、そんでいい。そのまま足を動かして、コイツからどんどん離れていけ)
そして、俺が前を向くと、"そいつ"は怒声を浴びせてきた。
「てめえのせいで!あの子を殺し損ねちまったじゃねえか!どうしてくれんだよ!クソが!クソクソクソクソ!」
そう言いながら"そいつ"は俺の体に何度も何度もナイフを突き立ててきた。
(最後に見たやつの顔がこんな殺人鬼の顔だなんて俺不幸すぎるだろ。最後ぐらい好きな人に看取って欲しかったな……)
俺はそのまま深く深く意識を落としてくのだった。案外、死ぬってのもあっけないもんだな。そうして俺の短い生涯は幕を閉じた。
☆☆☆
…………………ん?俺死んだはずだよな?何故何もない真っ白な空間で俺は寝ていたのだろうか。
うーむ、全く記憶にない。
それに俺の目の前で美しく微笑んでいる美女はどちら様でしょうか?
「あら、ありがとうございます♪自己紹介をさせていただくと、私の名前は美と愛の女神、アフロディーテと申します」
なっ!?心を読まれた!?いや、そんな事より、美と愛の女神アフロディーテだと!?俺でも知ってるギリシア神話の神様じゃねーか!
にしても、改めて見てもやっぱり美女だよな。綺麗な桃色の長髪に大きく開かれた碧眼。それに、巨乳と言われるほど大きい胸をしてらっしゃる。これは目の保養になるな。まぁ、神様だからなのか身体中から少し光が漏れ出てる気がするけど……。
「……んで、その女神様が俺に何のようですか?」
「ええーとですね。時間が限られているので簡単に説明させていただきますと、あなたは私たち神の手違いによって死んでしまったのです」
神の手違い?それってあれか、アニメや漫画でよくあるお詫びとして異世界に転生させてくれると言うやつか?
「まぁ!よくお分かりで!理解が早くて助かります♪」
「いや、ちょっと待て。俺はあの殺人鬼の野郎に殺されたんだ。神の手違いでも何でもねえだろ」
「いえいえ、私たちの責任ですよ。元々あの男はすぐに警察が飛んできて取り押さえられるはずでした……ですが、私の後輩に当たる神が余計なことをしでかして、あなたの考え方を変えたのです」
考え方を変えた?どういうことだ?
「そうですね。元々あなたはあの男が暴れてるのを確認してから逃げる予定でした。なのに、私の後輩が少しばかりあなたの心の中をいじって、あなたを立ち向かわせたのです」
……そういうことか。だから、あの時の俺は俺らしからぬ行動をしたと。にしても、神って人の心の中にまで干渉できるんだな。
「はい。それぐらいなら朝飯前ですよ」
まぁ、神の手違いということは理解した。
「……続きを話してくれるか?」
「はい!勿論です!それでですね。お詫びの印としてあなたには異世界転生の権利を授けます。あ、ちなみに先に言っておきますが、あちらの世界は剣と魔法の世界です。だからといって別に何かしろというようなものはありません。二度目の人生を気軽に過ごしてくださいね」
「あぁ、分かった。んで、神の手違いというのなら何か特殊なスキルとか特典みたいなの貰えたりするのか?」
「はい、後でステータスプレートをお見せしますが、その前にスキルというものについて説明させていただきますね。スキルには大まかに分けて3つあります。まずは通常スキル。これは基本誰しもが持っているものです。中には取得しようとすれば取得することができるものもありますが、努力ではどうにもならないものもあります。魔法系のスキルは才能がほとんどですが、武術系や職人系のスキルなら誰でも簡単に取得できます。次に特殊スキル。これはその人しか持っていない、その人限定のスキルです。世界でも数えるほどしか持っていないので、使い方には気をつけてくださいね。特殊スキルはどれも強力なものばかりなので、できれば特殊スキル持ちとは関わらないことをおすすめします。そして、最後の加護スキル。これは神が人に与えたスキルです。ユニークスキル以上に希少で強力なものです。ぜーったいに大っぴらにしないでくださいね。大騒ぎになってしまいますので」
ん……?その言い方だとまるで……。
「お気づきになりましたか。あなたには特殊スキルと加護スキルの両方お持ちです。扱い方には気をつけてくださいね。ということで、待ちに待ったステータスを確認してもらいます。確認が終わったら顔をあげてくださいね。そしたら、すぐにあちらの世界に送りますから」
「あぁ、わかった」
んじゃ、ステータスを確認させてもらうとしますか。どんなスキルがあるのかな……。少しワクワクするな。
俺は、アフロディーテからステータスプレートを受け取り、その内容に目を通す。
カイン
年齢:0 位:平民(転生者)
HP:∞ MP:∞
通常スキル
鑑定(超)
特殊スキル
重力魔法
加護スキル
死神タナトスの加護"不死"・魔神ヘカテの加護"魔力無限"
称号
転生者・死神の寵愛を受けし者・魔神の寵愛を受けし者
称号というのもなんとなく分かるけど、目の前の女神様からは称号貰ってないんだな。そこだけ少し残念だ。だけど、全体的に見たらこれはなんというか、チートすぎじゃないっすかね。加護スキルが2つある時点でおかしい気がするし。
……それにしても本当に人生再スタートって感じなんだな。0歳からスタートって……最初の方は苦労しそうだな。それに、生まれる前から名前が分かるってのもなんか面白い。
俺がステータスプレートを凝視していると、プレートの上に文字らしきものが浮上してきた。
──鑑定(超)──
あらゆる人・物などの詳細が分かる鑑定(上)の上位互換。隠蔽(超)のスキル持ち以外には通じる
──重力魔法──
重力を自由自在に扱うことができる魔法。
あーうん。この2つは予想通りのスキルだな。なんか文字通りのスキルだったしさ。
……本番はここからだな。加護スキル2つはどんなものなんだろうか。
──死神タナトスの加護"不死" ──
全ての状態異常無効。HP無限。ただし痛覚は感じる。八つ裂きにされた場合、時間は要するが再生する。不老ではない。
チートすぎでしょ、これ。痛覚は感じるからできれば傷つきたくはないけど、それでも死なないってことだろ?もはや俺このスキルだけで無敵だろ。
──魔神ヘカテの加護"魔力無限" ──
魔力に制限がなくなる。また、魔力を少し放出するだけで、一定以下の実力の生物には恐怖を与えることができる。
これは、あれか。戦わずして勝つことができるのか。このスキルがあるだけで雑魚敵なら一掃できるな。
よし、一通りスキルを確認できたし、もうそろそろいいかな。俺は顔を上げてアフロディーテに向かって少し頷いて、ステータス確認が終わったことを告げる。
「もうよろしいのですね。分かりました。それではあなたに幸あらんことを。異世界での生活を楽しんでください」
俺は身体中が暖かい光に包まれるのを感じながら目を閉じる。
さて、俺にどんな生活が待っていようとも2度目の人生なのだ。精いっぱい楽しんでやろうじゃないか。