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今日は本を買って帰った

作者: 須玖漠雨

 できるだけ時間のかかることがいいと思った。小説は途中で飽きてしまうし、図説や辞書はまあ割といいけれど、今はあまりぴんとこない。だからと言って、楽してお金を稼ぐ方法、とか、ありのままの自分で生きていきましょう、とかの本を読んでも仕方がない。それだから、とりあえず数学書にした。それも、できるだけ社会の役に立たなそうなものを選んだ。役に立つものだと、これはもう本当につまらない。


 帰りにコンビニに寄って500mlのビールを一本買った。それだけ買うのも気が引けて、しばらくお菓子の棚を眺めたけれど、食べたいものは一つもなかった。だからそのままレジに向かった。店員は特に何も言わなかった。当たり前だけれど。


 コンビニを出るとすぐに脇道に入る。国道を通れば一回曲がるだけで家に帰れるけれど、車の音がうるさいから私はいつもこの細い道をくねくね通って帰る。人一人がやっとのことで通れるくらいの道もあったりして、両脇には自分の背丈くらいの木々が並んでいたりする。あとは、誰が借りているのか分からないコンテナが大量にあるエリアと、薄暗い市民密着型の神社の前を通り過ぎる。


 アパートに帰ってくると、まず夕飯を軽く済ませた。冷凍ご飯をレンジで温めて、レトルトのルーをかけただけのものだ。栄養バランスのことを考えるのは去年までで終わりにしている。何かきっかけがあったわけでもなく、その時期がたまたま年の境目だっただけだ。でも最近のレトルトカレーはけっこうおいしいし、おいしいものだけ食べていれば死ぬことはないと思っている。


 食べ終わると食器はすぐに洗ってしまう。めんどくさいけど先にやった方がいい、と思っている。たぶん、めんどくさいことの中で唯一後回しにせずにできることがこの食器洗いだ。ぎりぎりこれで自己肯定感を保っていられる。


 それから洗った食器を拭いて、お風呂に入る。今日はシャワーだけでいいや。お湯を溜めても良かったけれど、ご飯を食べるときに溜めていなかったし、これから溜めると、よく分からない十分間が生まれてしまう。無駄は必ずしも悪いわけではないけれど、お湯の溜まるまでの空白の十分間に限っては許容できない。


 お風呂から出ると、すぐに髪を乾かし、保湿の液を一応体に塗ったりして、冷蔵庫からさっき買ったビールを取り出す。机の前に座ると、買ってきた数学書を開く。さっき買う前も思ったけれど、数式よりも文字が多いと思った。そういうもんなんだろうか。


 私は今日、会社を辞めてきた。

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