マリアンヌ。
もう充分皆から離れたかなと思ったところで止まり、こちらをじっとみるその聖女様。
っていうか基本聖女服なんだけど所々騎士服が混じってる? そんな服装のその娘。
こちらを見るその茶色の瞳に吸い込まれそうになる。
「お姉様、おじさまもおばさまも大変な取り乱しようだったのですよ。どうして身を隠したりしたのです?」
ああ。お父様、お母様……。
「ああ、このあたしには話しにくいですよね。ちょっと待っててください」
両手を上に掲げる聖女様。そして。
ブーンとその聖女様の周囲に金色の膜のようなものがかかったかと思うと。
その幕がカーテンのように開かれた時、そこに居たのは従姉妹のマリアンヌ?
金色のふわふわの髪に碧い瞳。左目だけが金緑になってるのは以前病気をしてからだったか。
そんな従姉妹、マリアンヌの姿がそこにあった。
「え? どうして!? マリアンヌ、あなた……」
わたしの母の兄の娘、ヴァリエラント公爵家のマリアンヌ。
そんな彼女がどうしてここに?
「わたくし、例の病気の後、それを治す為に聖女修行をはじめたのです。今は先ほどの姿、聖女マリカとして騎士様のお手伝いをしておりますわ」
はう? って、聖女マリカ?
それってこの間の大厄災でも大活躍したという、伝説の大賢者ラギレス様の再来とも噂されている聖女じゃなかった?
まさか、その聖女マリカがマリアンヌ!?
てっきりマリアクエストの大本命の主役の平民の娘だと思ってたのに!
「マリカって、マリアクエストの主役の平民聖女だと思ってましたわ……」
「え?」
「はう、ごめんなさい。こっちの話で……」
「って、どうしたんですかクローディアお姉様! 以前のお姉様とはまるで別人じゃないですか! それに、マリアクエストってどういう事です!? まさかお姉様、あのゲームの事知ってらっしゃるの!?」
「え?」
今度はわたしが驚く番で。
「知ってるのって、まさかマリアンヌも知ってるの? マリアクエスト」
「うーん、どうしよ、ま、いっか。あたし、地球ってところの日本人、本城茉莉花って名前だったの。クローディアお姉様?」
えー?
「まさか貴女も転生者ですか!?」
「うーん、あたしの場合は転生とは違う、かな。あの次元の茉莉花と今のあたしマリアンヌが重なったっていうかね? そんな感じなのだけど……。っていうことはクローディアお姉様はまさかの地球人の転生者なんです?」
はう。
「わたしは前世、久能貴子っていう名前の日本人だったんです……。っていうかついこの間そんな前世の記憶が降ってきて……」
「前世が日本人なだけなら大丈夫ですよ! この世界、そういうのにわりと寛容ですから。急にそんな異世界の記憶が戻ってきたら混乱することもあるかもしれませんけど、あたしもサポートしますから。帰りましょう? お姉様」
そうにっこりと笑う彼女。
サポートしますって言ってくれているのも本心からだとそう感じる。ほんとその気持ちは嬉しいんだけど……。
「マリアンヌ、貴女は……、マリアクエストを何処までプレイしました?」
「え? あたしは、買ってきてさあはじめようと思った所までですけど……」
「じゃぁ知らないのも無理ないわね……。マリアクエストの中で、クローディアっていうのは主人公を虐める悪役令嬢として断罪され、悲惨な最期を遂げるキャラなんですよ……」
「えー? なんですかそれ!」
「この世界はあのゲームと似てるとかそういうレベルじゃないんです。マクシミリアンだって攻略キャラの一人だったんですからね」
「はう、世界は似てるなって、ここってゲームの世界なのかなってそういう風には思ってたけど、まさかそこまで……」
「わたくしは……、怖いのです……。あのままクローディアでいる事が……。将来主人公に心を奪われたマクシミリアンに断罪されるのが……」