黒猫のドラこ。
黒い弾丸のようなものが目の前を飛んで行った。
え? っと思ったけど、その弾丸はベビーハウンドを弾き飛ばして、そしてそのまま跳ね返るようにわたしの目の前まで飛んできた。
ちらっとこちらをみたそれは、どう見ても猫?
黒いもふもふな毛皮の上にちょんもりとかわいい耳がのっている。
弾き飛ばされたベビーハウンドが体勢を持ち直しこちらを睨む。
はう。どう見てもベビーハウンドの方ががっしりしてる。同じような小ささだけどやっぱり猫と狼じゃ狼の方が強いのかも。そう思ってちょっとハラハラしていると、しばらく睨み合ったのちにベビーハウンドの尻尾が垂れた。
きゅううん
そう鳴いて逃げていくベビーハウンド。
胸を撫で下ろし目の前の猫をよく見てみると、耳の間に小さいツノ見たいのが見える?
ってことはこれ、普通の猫じゃ、ないの?
「ドラこー!」
がさがさっと音がして女の人がやってきた。この猫の飼い主? かなぁ。
後ろからついてくるのは騎士様。ということはこの女性は聖女様かな? なんだかそんな感じ。
騎士様は男性一人に女性がふたり。っていうかこの男性騎士様、なんだかマクシミリアンに似てる? マクシミリアンをもう少し美男子っぽくした感じ
「にゃー」
ってその黒猫がその女性の聖女様に飛びついた。はう。もふもふと撫でられて気持ちよさそうだ。
「お怪我はないですか? お嬢さん方」
男性騎士様がそうわたしたちを気遣って声をかけてくれた。
「いえ、あの黒猫の子が助けてくれましたから。ありがとうございます」
「おにいさん、ありがとうございました」
わたしとカリナがそうお礼を言うとその騎士様、「えらいね、怖くなかったかい?」と、カリナの頭を撫でてくれた。
濃い茶色? そんなこの辺りだと珍しい黒っぽい髪の聖女様もこちらを見て。で、何かに驚いたように目を丸くして。
「クローディアお姉様!」
そう叫んだ。
☆☆☆☆☆
え? え?
この子、わたしのこと知ってるの!?
今のわたしはクローディアをしていた時とはかなり違って見えるはず。
髪も洗い晒しだし着ているものも町娘風のエプロンドレスだ。
シスターたちみたいに黒づくめじゃないけどそれでもとてもじゃないけど貴族には見えないだろうって容姿なはず。
一応公爵令嬢していた時は髪もしっかりセットして巻紙縦ロールに整えてたし、人前に出る時は必ず薄くでも化粧をしていたから。
こんなスッピンざんばら髪でわたしだと見抜くなんて普通の知り合いには無理なはず!?
そう思っていたのに!
「貴女、誰?」
思わずそう口走ってた。
「そっか、あたしのことわからないか。そうだよねごめんね」
その聖女様、なんだかそんな訳のわからないことを呟いたと思ったら、
「ちょっとこっちに来てお姉様。そこの木陰まで」
そうわたしの手を引っ張って、人目をはばかるように少し離れた場所まで行こうと言う。
わたしも。
カリナにはわたしが公爵令嬢だなんて聞かせたくないかな。そう思ってその場は大人しくその聖女様に手を引かれるまま、ついて行くことにした。