修道院のマリア。
「ああマリア、そこの籠取ってもらえる?」
「はい、マリーベルさん」
洗濯機から脱水された洗濯物を取り出して籠に詰め、運ぶわたし。マリーベルさんと二人で屋上まであがる。
たしかフーデンベルク家のお屋敷ではこういう力仕事は自動人形がやってたかなって思ってたけど流石にあれは大貴族のお屋敷だからだったのだと納得して。
っていうかこの程度の階段の昇り降りでももう膝がガクガクだ。甘やかされて箸より重いものなど持ったこともなかった令嬢生活で、わたしの筋力はほとんど育って無かったらしい。
ああでも? ドレスが重かったからその分だけは良かったのかな? それが無かったらほんとひ弱すぎてどうしようも無かったかも、だ。
結局わたしはもう一週間ここでマリアとして暮らしてる。
マリアって名前はなんだか従姉妹のマリアンヌみたいで気が引けるけどそれでもマリーベルさんがつけてくれた名前だし、大事にしようって思ってる。
本名を明かしてお屋敷に戻る、って選択肢はどうしても選べなかったわたしはあの後もずっと記憶喪失のふりをしていたのだった。
に、してもね?
気さくなマリーベルさんはそんなわたしの事を邪魔にするでもなし、こうして一緒に生活してくれている。修道院と言っても老齢のシスター、フラム様と、ちょっと気難しいマイヤーさん、そして一番若いマリーベルの三人しか居ないこぢんまりした院だ。そして数名の孤児がそこに住んでいる。そんな場所。
孤児院というわけででは無さそうだけどこの街には他に孤児を育てる施設が無いのかこの修道院がその役割を担っているらしい。
一番小さい子はまだ三歳になったばかり、上の子でもまだ六歳、学校にも通えていない子なのだという。
この国では七歳になる全ての子供は教会で洗礼式を済ませ、魔力の多寡が調べられる。それは貴族でも平民でも変わらず、だ。
そして初等教育の場でその能力が伸ばされ、特に平民の子であっても能力の高いものは聖女や魔導師への道が開かれる。
洗礼式の場で特にその能力の才が認められた子供には、その出自を問わず優遇される制度もあるのだ。
だからかな? 孤児であっても、いや、孤児であるからこそその制度のおかげで普通の家庭の子供よりもより教育の機会に恵まれることも多い。
ハングリーさが違うから?か、孤児の子は自分自身の才で身を立てようと努力するからなのか。
まあ初等教育の間は寮もある。学費は孤児であれば国費で賄われるとあって、孤児院というものも就学年齢に達するまでのあいだの施設だという認識だしね。
12才で初等科を卒業すればあとはその才にあわせ職業も斡旋される。ハイスクールに通い専門課程に進む者もいるけれどそれはそれでやっぱり本人の才能次第なところがあるらしい。
あ、貴族の子供は別ね? 貴族の子供だけはこの就学プログラムからは除外されてたっぽい。わたし、この世界で学校とか通った記憶がないもの。
まあ貴族の子弟の場合、こうした学校での生活はある意味危険が伴うからって理由もあるんだろうけど。
屋上で真っ白なシーツを干し終わって。
ふうとため息をついたらマリーベルさん、
「手伝ってくれてありがとね。マリアのおかげで早く終わったわ」
と、満面の笑顔でそう言った。
わたしも身体はガチガチに疲れていたけど顔だけは笑顔になって。
「ありがとうございます。こうして身体を動かすのって、気持ちいいですね」
そう、強がりではなくて本音で。
そう。真っ白なシーツが澄み渡る青い空に映えて。ほんとうに気持ちが良かった。
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