断罪される未来が怖い。
実は本当に記憶がなくなっているわけでも無い。熱にうかされている時には記憶の混濁もあって随分チグハグな受け答えもしたのだろう。
こうして意識がはっきりした後の診察で何もわからないフリをしてもわりと簡単に信じてもらえた。
よっぽど、そうだよね。そうであってもおかしくは無い、そんな発見のされ方だったんだろうと今にしてもそうおもう。
ほぼ半裸に近いずたぼろになった衣装。ところどころ焼け焦げたようなそんな衣装を纏っているにもかかわらず、わたしの身体には傷一つ残っていなかったのだという。
そんな状態でこの修道院の前に倒れていたって、ほんと良く生きてたなって感じ。
意識がわりとしっかりしてきてからはどうしてこんな事になったのか、ずっと考えてた。
あっちの世界の記憶は救急車で運ばれるところまで。やっぱり熱に浮かされて意識が混濁してたからその後のことまでは思い出せないのだけれど。
でもってそんな記憶が蘇った夜。わたしはベッドの中で困惑していた。
だって、ね?
クローディアってほんと意地の悪い悪役令嬢だったんだよ。まあちょい役だったしマクシミリアンルートでしか出てこないキャラだから印象も薄いけど確かそう。主人公を虐めまくるイジワル令嬢で……。
主人公のあまりの可愛らしさに、そしてその純真さに王子マクシミリアンにも好かれるようになったその状況に、クローディアは嫉妬し、そして激怒した。
その怒りのまま主人公を虐めまくるのだ。平民の聖女である主人公はマクシミリアンに庇われ、そして。
クローディアは公爵令嬢の、貴族の地位を剥奪され幽閉される事となる。たしかそのまま何者かに暗殺されるという悲惨な最後を遂げるはず……。
イヤイヤ、そんなの嫌。
そんな悲しい最後のムービーを思い出し、わたしは……。
心の中の奥底から感情がみだりに乱れ、そして暴発したのだった。
もともと貴族の女性は魔力量が多いとされる。その血筋が影響し、血が濃ければ濃いほど潜在的にその身に宿る魔力が多くなるのだ。
わたしも一応公爵令嬢として王家の血筋にも近く、そのぶん魔力も多かったんだろう。制御する術を習う事なく育ったそれは、感情の高まりとともに膨らみ止まらなくなって。
爆発、した。
寝ていた部屋がそのまま爆発したのだ。
覚えているのはそこまで。その後どうやってこの王都の隣町の修道院のそばで倒れていたのかはわからないけど、緊急避難的な空間転移魔法でも発動したのかも? そんな風にも考える。
で。
なんとか意識が戻った状態なわけなのだけど……。
どうしよう。
思わず記憶が無いふりをしちゃったけど。
なんとなく、このままお屋敷に帰るのが怖い。
断罪され、幽閉されるのは嫌。
無惨に殺される未来なんてまっぴらだ。
クローディアはもう十五歳。社交界にデビューしたての御令嬢でそろそろ結婚とか考えなきゃいけない時期。
いとこのマリアンヌとマクシミリアンの婚約が解消された今なら、わたくしがマクシミリアン王子の妃におさまるのも可能だってそう思っていた筈だった。そう、あの時までは。
前世の記憶が戻るあの時まではマクシミリアンと結婚する事がわたくしの幸せ。そう1ミリも疑っていなかったのに。
今ではそれが、怖い。
マクシミリアンに近づくことが怖いのだ。
いつか現れる主人公に恋するマクシミリアンに、断罪されるのが怖い、のだ……。
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