94話 出兵準備と思わぬ誘い
それから数日後、兵士団から準備が整ったという手紙が届いたので部屋で読んでいた。
(さすが準備が早い。カイルが上手く取り纏めてくれたんだろうな)
ホント流石だ。…こっちの準備もほぼ完了している。まだ不安要素もあるにはあるが、兵の動員が済んだのなら動くべきだろう。時間を掛けると兵の動きを察知される可能性が高まる。
(シュナイゼルに話を通して、こちらも最終確認をしないとな。それまでちょっと返事は保留か…)
いきなりシュナイゼルの部屋に行くわけにはいかない。だが今日は丁度見回りが無くて家庭教師の日だ。その時に確認して、夜に返事をするとしよう。
―――それから訓練を済ませ、シュナイゼルの部屋に訪れた。知らせが届いた事をシュナイゼルに話すと…。
「いよいよ、なんですね…」
「ええ。シュナイゼル君の返事を聞いてから返事を送るつもりです。…覚悟はよいですか?」
いくらあんな親だとしても、肉親であるシュナイゼルに簡単に覚悟を決めるのは難しいだろう。今も悲痛な表情を浮かべている。
(でもこの子なら出来る。俺はそう信じている――)
「セシリア様、ありがとうございます。本当なら僕の返事なんて待たなくても裁く権利があるのに…こうやって最後の確認を僕にしてくれるそのお優しさに感謝します。そして、僕はそんなセシリア様の為にも王国の為にも動くと改めて覚悟が決まりました。どうかお返事をお出し下さい」
「分かりました。では部屋に戻ったらそのようにするとしましょう」
決意を秘めた瞳。この子はきっと将来騎士団を背負うに足る人物になってくれる。
(思えば自国で信頼出来る人間が少ない俺とカイル。親族を除いたら、軽薄そうに見えても筋の通った生き方で、部下にも慕われるダラスぐらいしかいないと俺達は思っていた。それが一人増えるということは実に心強いものだ)
その後は今まで通りに家庭教師役としての務めを果たし、俺はシュナイゼルの部屋を後にした。
シュナイゼルの覚悟が決まった事に意気揚々で部屋に戻り、一週間後にグレンダンに着くよう行軍して欲しいと返事を送る。行軍時間に余裕を持たせたのは万が一戦闘になった際に、兵士団の気力を万全にしておくためだ。これでもしそうなったとしても騎士団に押し返される事はないはず…。
そして今日やる事も終わってので着替えそうと机から立ち上がったときだった。コンコンとノックの音がなる。
(この音はシェリル達ではないな。こんな夜に誰だ?)
「王女様、マラカス将軍から晩酌を共に如何でしょうか?とのお誘いにまいりました。突然の事で大変申し訳ないのですが、ご出席して頂けるとでしょうか?」
―――何?返事をしたこのタイミングで、しかも当日にいきなり晩酌の誘いだと…。普通王族である俺を誘うなら数日前から話を通しておくものだ。なのにこんないきなり?
(まさか…!こちらの動きに気付かれたのか!?当日に招待する無礼をしてまで呼ぶんだ…。その可能性は無いとは言えない。ここはいちかばちか、だな…)
どういった意図なのか探るにもここで断るのは得策じゃない。それにもし怪しまれているという段階なら、ここで拒否したら余計な勘繰りをされる。ここは―――。
「分かりました。準備を済ませたら向かうとマラカス将軍に伝えなさい」
「はっ!それでは失礼いたします」
返事をした騎士団の足音が遠ざかる。俺はシェリルを呼び、晩酌の誘いが来たから着替えを手伝ってくれとお願いするのだった。
―――呼ばれて来たシェリルが、当日に王族を招待する無礼にこれでもか!と怒り顔を真っ赤にする姿を見て……。
あぁ、そういえば信頼出来る者はここにもいたな…と心が満たされ、それに気付かせてくれたマラカスの無礼にちょっと感謝してしまう俺がいた。
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