92話 グレンダンでの一番の幸運
今日は訓練を終えた後、見回りには行かずシュナイゼルの部屋に来ている。魔物相手ではあるけど、軍を率いて実戦経験をそこそここなしている俺が、騎士団に所属してはいるが実戦の経験が一度も無い自分には良い教訓が得られる。と本人たっての希望で家庭教師みたいなことをやることになった。
一応王国最強なんて言われている俺。そして国のトップである王族として高い教養も身に付けているつもりだが、でも人に教えたことなんてない…。騎士団に行っている訓練だって兵士団の皆と試行錯誤しながら作り上げたものを使っているから、俺の功績とは言えない。
(つまり、俺は一人で人に何かを教えた事がないのだ…。まあ王族が誰か個人を教えるなんてこと、普通は無いんだけどさ…)
だが俺の心配は杞憂だったらしい。元々シュナイゼルはまだ幼いとはいえ聡明で礼儀作法は完璧。頭の回転も早いから、一を教えたら十を知る賢さ!
(俺よりカイルと話が合いそうだ!)
武術に関しては訓練中に色々教えているし、これ、家庭教師の必要あったのか?と違う心配になってしまう…。
(まあでも本人はめっちゃ笑顔で楽しそうなのが救いだな…)
そんな感じで和気藹々と家庭教師役を務めていると、一息ついてから真面目に顔付きになったシュナイゼルが小声で喋り出した。
「セシリア様、首尾はどうなのでしょうか?」
質問の意図は無論父親と騎士団についてだろう。
(それにしても…うんうん!何処に間者が潜んでいるかと警戒して話すのはとても良いことだ。ホントあの父親と同じ血が流れているとは思えない優秀さだね!)
「まだ手探りの段階でしょう。無いとは思いますが、気付かれては厄介ですから。あまり表立って動くわけにもまいりません。手応え程度であるなら騎士団の中に見所のあるお方もいるということ。いずれシュナイゼル君が引き継ぐ騎士団があまりに弱体化しては王国にとって損害になります。それを防ぐには完全に解体するのではなく、信頼出来る者は重用しなくてはなりません」
父が失脚するだけならそれは親族のシュナイゼルにも害が及ぶ。だがシュナイゼルは父を断罪してでも騎士団を正すというヒーロー役だ。その時に国民に受け入れてもらい、更に騎士団は正した事で良くなったのだと思わせなければならない。
「特に人脈を頼ってなどいない者達は貴重な人材です。彼らは愚かな方法で騎士団に入った者達に心無い罵詈雑言を浴びせられながらも、訓練に励む実に素晴らしい者達です。そしてそういう者を重用する事は民の信頼回復にも繋がります。ですからシュナイゼル君もかような者には真摯に接して、自分は父上とは違うと示して下さい」
「…分かりました!僕もそうしたいです」
(短い言葉だが、覚悟を感じる良い声だ…)
「ふふ、貴方は本当に優秀な子です。私がグレンダンに来て貴方を見出せたのが一番嬉しい事だったと断言出来ます」
シュナイゼルのその言葉に照れながらも嬉しそうに「はい!」と元気良く返事をしてくれた―――
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