88話 騎士団と見回り
日が沈んできた夕方、見回りを行う騎士団は屋敷前に集まるようになっているので、何回かもう行った事あるし、慣れた動きで待機場所まで歩いていく。騎士団の見回りは正直あまり意味が無いけど楽しみもある。こいつらは街を軽く見て回るだけで街から出てまではやらないので、本当の意味で警備の役割を果たしてはいない。
だけど言い換えれば街中を歩くのだ。グレンダンに来てからというのも基本的にマラカスの屋敷から出る事はほとんど無いので、この見回りで街中を歩くというのが楽しみだったりしている。
屋敷前に到着するとまだ騎士団は来ていない。これも俺からしたらというか仕事してる者からしたら舐めてるよね?普通は10〜15分前には待機しておくものだろ仕事なら…俺はあまりに暇だったから20分前に来ちゃったし、まだそんな目くじら立てるような時間では無いんだけどさ…。どうせ今までの経験からいってあいつら集合時間に遅れてくるだろうし。先んじて怒ってもいいはず…。
そんな事を思っていたら………。
(あれ?話し声が聞こえてくるな…しかもこっちに近づいてきてる?まだ15分前ぐらいだぞ?まさかシュナイゼルにやられて奮起した奴がいたのか?)
いやいや!下手に期待すると落胆も大きいからやめよう…。きっと通り過ぎたり、別の場所に向かっている奴らってだけだ。頭に浮かんだ期待を振り払って再び待つ。
(ふぅ〜、今日も夜空が綺麗なこと。この澄んだ空を見れるのも異世界の良いところかもな〜…いやまあ、地球にだって綺麗に見える所はあるだろうけどさ。行った事無いから最初は異世界のこの空に感動したものだ…)
夜空に思いを馳せながら見上げていたら、さっきの話し声が近くまで来て止まり、代わりに人の気配がした。不思議に思い視線を空から下ろすと……。
「セ、セシリア様、お疲れ様です!早く来たつもりだったのですが、お待たせして申し訳ありません!!」
…えっ!?騎士団の奴だよな?ちゃんと早く来るだけでも信じられないのに、キチンと敬礼して謝罪までしてきたぞ?……これはもしかして思ったより効果があったのか?
「え、ええ。まだ集合時間ではありませんし、気にする事はないわ。見回り、頑張りましょう」
「「は、はい!!」」
とりあえず無難な返事をして動揺を誤魔化す。でもその後も少しずつ人が集まってきた。遅れてくる奴も結構いたけど…早く来た奴らはもしかすると期待できるのかもしれん。顔と名前をしっかり覚えておかないと……!
全員が集合して、班決めがされようとしたときに声を上げて早く来た奴らと組めるようにお願いした。一悶着あるかと思って言ったが、そもそも見回りに興味が無いのだろう、遅れて来た奴らは「それでいいんじゃない」という態度だった。もしくは女である俺がいると不都合な場所にでも行くつもりなのかもしれない。
グレンダンは城塞都市という体だから、最前線に立つ兵士を労う目的で歓楽街が存在する。普段の勤務は屋敷内が多い騎士団には街に繰り出せる見回りは都合がいいのかもな。どうせマラカスは騎士団を真剣に統率しようとは思ってないから、見回り中に多少ハメを外したところでお咎め無しだろう。だが、そこにマラカスと同じ将軍であり女である俺がいると行きづらくなるだろうからな歓楽街には。
(まあ真意は後を尾けてでもみないと分かりようがないが、そんな事はどうでもいい。今は早く来た奴らの心根が変わっているのかの確認だ)
それから街へ出て歩いている間、警戒を軽くはしながら色々と話した。みんなそれぞれシュナイゼルとの模擬戦で思うところがあって、見回りの集合に早く来たらしい。
(正直あまり期待していなかったが、騎士団にもまともな奴はいたらしい。ボンボンの息子って一括りで判断してた自分に反省しきりだ。特に……)
ずっと俺の後ろにピタッとひっついて話しているこの子。名前はジェラールというらしい。少し成人してるにしては線が細く童顔だが、シュナイゼルとの模擬戦で唯一少しはくいついていたのを覚えている。
(ジェラール、か…こいつは使えるかもな…….)
思わぬ収穫に内心喜んでいたら、子供が風船を飛ばしてしまい泣いているところに遭遇。
(あるある。男の子は風船にハシャぎ過ぎてそうなってしまうんだよな〜)
幸い風船はまだそんなに高くまで上がっていない。俺は男の子に「大丈夫だよ」と声を掛けて、近くにあった木箱に飛び乗りそこから更にジャンプする。風船をキャッチして地面に着地したときに少し舞い上がりかけたスカートを抑えてそのまましゃがみ、男の子に風船を渡してあげる。
「ありがとうお姉ちゃん!」と言って親の元に戻っていく背中を見つめながら………。
(思わず子供の為だからとスカートで飛んでしまった…騎士団の奴らに見えただろうな…。まあもしこのままこいつらが使えるようになってくれたらそれも良いことかね…)
おそらく見えてしまった事を気にしてないよう振る舞いながら見回りの夜は過ぎていった。




