76話 先を見越して…
シュナイゼルが走り込みを始めて15分。兵士団では任務の無い者は毎朝1時間走るのを義務付けている。本当は2時間にしたいんだが、いつ来るか分からない任務や城の警備に回る事もある為、時間的に厳しい事と、仕事が割り振られたときに体力が減り過ぎていては差し支えると苦言され、1時間と定められた。
(15分走れば十分かな?1時間は無理だし、体力の少ないシュナイゼルにはきついだろう)
実際、走っているシュナイゼルの顔を見ればもう疲労が限界にきている。本当ならせめて30分走って欲しいが、それをシュナイゼルに求めるのは酷だろう。少しずつ時間を増やして無理なく鍛えていくのが成長の為でもある。そう思い外周を丁度1周して俺の前にきたシュナイゼルに声を掛ける。
「シュナイゼル君。そこまでで大丈夫です。身体をほぐす柔軟をしながら息を整えて下さい」
「はぁ…はぁ…わ、わかり、ました………」
息が絶え絶えのシュナイゼルがなんとか返事をして柔軟を行う。
「シュナイゼル君、これから15分の走り込みを訓練前に行い、柔軟をして息を整えた状態で訓練の開始時間に待機出来るよう調整しておいて下さい。走り込みでの体力の上昇と、柔軟をして身体を柔らかくしていく事はとても大事です」
「この2つを毎日ちゃんとやっていけば、体力もつき、柔らかくなった身体はケガをしにくくなり、身体の成長にも繋がります。実感出来るほどの効果は見えにくいこれらは、いつか必ず貴方の力となります」
「は、はい!」
「柔軟が終わったら筋力を鍛える鍛錬をします。これも自分で行ってもよいのですが、走り込みと同じく無理をしたら身体の成長を妨げる事もあります。自分で行うとしても絶対に無理をしてはいけませんよ?」
「分かりました!」
「これも訓練前にやっておいてもらいたいところですが、それは正しいやり方をしっかり体が覚えてからです。正しくやらないと筋力は上手くつきませんし、違うところを痛める可能性もありますからね?」
「はいっ!……あの、セシリア様もこのような鍛錬を行っているのですか?」
ん?…そうか。見てるばかりでやってみせていなかったな…。口で言うばかりでは信用は得られないもの、自ら手本を見せてこそ師匠というものだろう。
「ええ、私も毎日の日課としています。ですが私は筋力は重視していません。もちろん鍛えていないわけではありませんよ?この理由が分かりますか?」
「筋力は重視していない…ですか。………いえ、僕には分かりません」
まあそりゃそうだよな。答えられない事にめっちゃへこんでるみたいだが分からなくて当然だ。俺も本来はそうしたくはないんだがな…女だからと舐められそうだし。だがそれも生き抜くには割り切らないと自分の命が危険に晒されるから諦めたけど…。
「分からなくて当然なのだからそんなに悲しい顔をしないで。…そうですね、まず第一に女性がどれだけ筋力を鍛えようと、同じく鍛えた男性には勝てません。身体強化の魔法を使えばその限りではありませんが、素の肉体の差は覆しようがないのです。ならば筋力は剣を振るうに十分な程度でいいのです」
「そして走り込みは足腰を鍛える為のものですが、こちらも男性には及ばないでしょうけど、足腰というのは何をするにしても大事な身体の中心といえます。男性には勝てないとしてもしっかり鍛えておく事が必要です」
「最後の柔軟については私個人、ひいては女性である事が理由です。私の剣はその柔軟を生かした柔らかくも鋭い、相手を殺す事に特化したもの。身体のいたるところの柔軟を活かして瞬発力を引き出す特殊な剣術です。この点においては女性が男性を上回ります。簡単に言えば私は女性の長所とそれに合った剣術を選ぶ事で男性に劣っている部分を補うやり方をしています」
「………す、凄いです!!僕は剣とは振るえばいいものだと思っていました。そんな考え方があるなんて…自分の知識の浅さに恥じるばかりです…」
「ふふっ…そんな深く考える事ではありません。さあ、息も整ったようですし、筋力強化を始めますよ?まずは腹筋からです。やり方は注意していくのでやってみましょう」
「はいっ!」
良い返事をしたシュナイゼルが地面に仰向けになり、手を頭の後ろに組んで腹筋を始める。俺もやりやすいようにとシュナイゼルの足を手で抑えながら、正しいやり方を教えていく。
(セシリア様は本当に凄いお方だ!僕はこの人を師匠にもてて幸運なんだ!!)
足をセシリア様が抑えながら正しいやり方を教えてくれる。それが楽しくて、ひたすら腹筋をしていると…足を抑えているセシリア様のスカートの奥が腹筋で起き上がったときに見えてしまった。
本来なら教えてあげるのが当然なんだけど…僕はその光景をもっと見たいと思い言わなかった。そして腹筋で起き上がる事が、その光景を目に焼きつけられる手段だと浅ましくも考え、頑張ってしまう。
(今までこんな事思わなかったのに…セシリア様のものだと思うと見たくてしょうがない。足と足の間の空白部分。光が無くて奥までは見えないけど、かすかに紫色が見える」
僕はその見たいという気持ちが昂って、体が鍛錬とは別の意味で熱くなる理由をまだこのときは知らなかった……。




