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07章 ラントの気持ち
談話室のドアが閉まった音を耳にしてから、顔を上げ誰も居ないことを目でも確認する。
(先ほどのは失言だったが、気にもとめていなかったな)
それだけ自分が眼中にないのは、今の時点では有り難いような、少し寂しいような。
紅茶を静かに口に含み、頬を緩めた。
淹れるのが上手いだけではない、俺が自分の屋敷で好んで呑んでいる銘柄のアッサムティー。
それを当たり前に調べて何も言わずに出すのだから、謙虚なものだ。
あの子は昔から気を遣ってばかりいた。
今の自分の状況に満足するための努力はするが、自分の幸せのために誰かに何かを求めることはしない。
主人公付きのメイドはあの子にはぴったりの役回りだろう。
人を無視しても何も心を痛めない、俺にこの役目が似合っているように。
おそらく神様は適当に配役を決めたのではないのだと思う。
幼くして薬を完成させた天才というのは皮肉以外の何者でもないが。