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転生して主人公付のメイドになりました。  作者: 三つ猫
学園入学前
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05章 役持ちの友人たち

「お兄様ったら、昨日もマレディス家に馬車を向かわせたみたいなのですけれど……、

 きちんとミレア様と台本通りにできる距離感を保っているのでしょうか?」

「へー。設定だけじゃなくて、本当にチャラいわよね。ウィルム様って」

「さすがに台本は演じてくださるのではないでしょうか?」

 

 私はアヴェリテリス王家の方々が住まう城の一室にお茶をしに来ていた。

 同席しているのは、女性の役持ちである二人。

 ここはナーニャ様の部屋。

 私はソリア様のお付きのメイドという体で、頻繁にこの部屋にお邪魔していた。


『ナーニャ=アヴェリテリス。魔法適正は光。

 ウィルム=アヴェリテリスの双子の妹。

 おしとやかで優しい性格で、いつも笑みを絶やさず怒鳴るようなことはない。

 クリフト=ダバステの婚約者。』


 彼女は純白のふわふわの巻き毛に赤いリボンを巻いている。瞳の色はウィルム様と同じ暗い金。私の方が背は低いが、はかなげで消え入りそうな彼女の雰囲気は実際よりもずっと小柄に見せた。

 攻略対象の婚約者なのでお嬢様のライバルに当たるが、彼女が妨害する様子は全く目に浮かばない。


(純粋にダバステ様がどちらに強く好意を抱くか、という意味合いのライバルでしょうか。

 もしくは実は腹黒で、影で嫌がらせをするとか?)


 これまで何度もお茶会をしてきたが、彼女がそういったことをするとはとても思えなかった。


 もう一人は。


『ソリア=ミトゥラル。魔法適正は火。

 ミトゥラル侯爵家のご令嬢。兄が一人いる。

  思ったことをはっきり言う性分で誤解を受けやすい。

 レオ=バルティケルの婚約者。』


 赤みのあるブラウンの髪には強めにカールがかかっている。

 口元にあるほくろが色っぽく、身体の成長も良く私でも大きめの胸が揺れるときに視線が向いてしまう。

 直接言い合いをすることになるのはこちらだろうと思う。

 逆に裏工作のようなことはこういったキャラクターはやらなそうだ。


 彼女は三人でいるときはよく、こちらの世界では使わない言い回しをするので、それを他でも言っていないか内心ひやひやしている。

 

 ちなみに彼女のお兄様は、眼鏡をかけた真面目系。

 今回の攻略対象にはいないが、他のキャラクターと性格が被らないので神様が学園の二年の後に続編を作るつもりならオリジナルからの攻略対象の追加があり得るかもしれない。


 他の役持ちは乙女ゲームに詳しくないらしく、二年を終えれば自由だと信じているので下手に不安にさせないように言っていないが、人気の乙女ゲームなら続編やファンディスクがあるのが普通で、「恋色の魔法の書」の最終イベント終了時に続編について知らされることも、十分あり得ると私は考えている。

 

 だから、あまり役目を億劫に思わない方がいいと思うのだが、他二人は婚約者を勝手に決められているのでそうもいかないのだろう。

 

 婚約者について話す二人の声に耳を傾ける。


「ナーニャはどう? クリフト様への好感度は上がりそう?」

「私はまだ……、クリフト様はとても素晴らしい方だと思いますが、

 あちらからは会いに来ていただけず、

 こちらから会いに行くのも、迷惑になってしまうかと思いまして」

「まぁ、向こうはこっちの好感度を上げる必要はないものねぇ。

 イベント前に学園で勝手に上げてくれって思っているのかもしれないわ。

 レオ様も一回、舞踏会で会ったきり。そのときもただ偉そうな男だったし、

 アレを好きになる自信ないわ」

「でも嫌なところに目を瞑れば、レオ様もお顔は素敵ですし、二年の辛抱ですから」

「お、ナーニャも言うじゃない。私も顔はいいと思うのよ、顔はね。

 あー、さっさと学園卒業したいわぁ。

 婚約解消して、もっと大人しそうな優しい男を旦那にしたぁい」

 

(二年で本当に解放されるのかもしれませんし、嫌な思いはさせたくありませんし、

 やはり余計なことは言えませんね)

 

「お互い頑張りましょう、マリィ様も」


 両手を差し出してきた彼女の手の平に自分の手を重ねた。

 

「はい。でも公の場で様は止めてくださいね、ナーニャ様」

「マリィも貴族だったら良かったのにねぇ。あなた一人だと私たちの家に行けないから不便よね」

ソリア様が頬杖をついて、スプーンで紅茶を混ぜながら言う。

 

「いえいえ、社交界は面倒ですし、主人公のサポート役であるからこそ、許嫁もいませんし」

「あぁ、そっか。あなたは攻略対象以外だったら自由に恋愛できるのね、いいなー」


(攻略対象の方以外と、恋愛……。

 とりあえずはお嬢様のサポートをしなければと思っていたので、考えたこともありませんでした)


 そんなことを考えている、ソニア様がテーブルに突っ伏して続ける。

「あー、許嫁って面倒だわ。

 解消するのにいちいち親同士の話し合いが必要なんて、元の世界からすると信じられないわよね」

「ですね。魔法の存在の方があり得ない部分ではありますが」

 私が同意すると、続けてナーニャ様も。

「そうですよね。もう慣れてしまいましたけれど、始めは驚きました

 そう言って、三人のティーカップに順に手をかざした。


 光の粒が生まれて紅茶の中で踊るのを眺めながら、私はうっとりと呟く。

「綺麗ですね」

「いいわよね、ナーニャの力は女らしくて、私なんか火よ。

 キャンプで魚を焼くのくらしか役に立たないじゃない。あとは……、何かしら?

 キャンプファイヤー?」

「キャンプ関係ばかりですね」

 私がそう言うと、ソニア様が大きく頷いた。

「そうなのよ! 下手に使うとどこかを燃やしてしまうかもしれないし、全然使う機会がないの!」

 

 そんな彼女を見ながらあのー、とゆっくりと手を上げるナーニャ様。

「日常ではありませんが、花火はいかがでしょうか? この世界では見たことがありませんが、

 空も澄んでいますし、きっと綺麗ですわ」

「それ、アリね! 綺麗だし、目立つし! ナーニャの光魔法も合わせて豪華にして」

「では、私は水魔法で飛び散った火の消火活動に努めますね」

「ちょっと! 飛び散る前提? ちゃんと操作するわよ!」


 三人で声を上げて笑う、この時間はとても楽しい。


(二人はお嬢様と入学前に面識がない設定でしたから、一緒に来ることが出来ませんでしたが、

 入学したら四人でこのようにお茶が出来たらいいですね)

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