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転生して主人公付のメイドになりました。  作者: 三つ猫
学園入学前
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03章 ゲームの主人公

 ドレスを抱えて走って戻ると、お嬢様はこちらに背を向けて地面に腰掛け夕日を眺めていた。


「遅れてしまい、申し訳ありません!」

「大丈夫よ、ちょうど出来たところだから」


 顔を上げたお嬢様が夕日に負けない目映い笑みを浮かべながら、自身が作った綺麗に編み込まれた花冠を私に見せる。


「綺麗に編めたと思うの。あなたの部屋に飾ってもらえない?」

「是非飾らせていただきます」


 遅れたことを咎めないだけでなく、私が気にすることもないようにとすぐに話題を変えてしまった。

 そんなことを、いつも当然のようにやってしまう。


 受け取った白い小花の花冠は、傍の川で洗ってから編んだのか土が少しもついておらず、花屋に置いてありそうなほど綺麗な仕上がりだった。

 彼女は運動神経が良い他に手先がとても器用で、訪れた客人が連れてきた幼い子によく折り紙で魔獣などを折って喜ばせていた。


「助かったわ。またお母様に小言を言われてしまうところだったから」

 小屋の影で着替え終えたお嬢様が私に服を手渡す。


 山へ私のみを連れて外出することは奥様には話していない。もちろん、旦那様には許可をいただいているが。

 その上、野外の物陰に隠れて着替えを行ったことが奥様に知られれば小言では済まないだろう。

 

 私は衣服を受け取り、持ってきた袋に詰めながら答えた。

「お嬢様のことを思っておっしゃっているんですよ」

「それは分かっているんだけど、二言目には『だから未だに縁談が決まらないのよ』ですもの。

 毎回だと聞き飽きちゃうわよ」

「実際はお嬢様が断って欲しいとお相手にお願いしているのですけどね。

 ……そちらの魔獣は他の子と同じで、飼育園にお渡ししてもよろしいでしょうか」

 今日助けた魔獣は、お嬢様にすっかり懐いて足下にすり寄っている。

 

「そうねぇ」

 お嬢様がしゃがんで魔獣の頭を撫でた。


 この世界には犬や猫など前の世界にいた動物はいない。

 ペガサスやドラゴンなど元世界では空想上の存在であった生物は存在しているが、それらをひとくくりに魔獣と呼んでいる。

 ペガサスなどは名称があるが、固有名詞がない魔獣も多く、このスフィンクスのように毛がなく、背中だけが羊のようにもこもこしている生き物の名を私は知らなかった。


「閉じ込めたりするもは可哀想だけど、親が傍にいないみたいだし

 大きくなるまでは飼育園にお願いすることにしましょう」

「かしこまりました」


 お嬢様が助けた多くの魔獣が飼育されているの飼育園は、子供たちに大人気だった。

 彼女の指示で、飼育希望者が現れれば譲り渡し、一匹で生活できるようになれば山に返すことになっていた。

 今日は、山に返した魔獣が問題なく生活できているのか見に行っていたのだ。

 

「お帰りなさいませ」

「ただいま」


彼女が通れば、屋敷の使用人全員が手をとめて満面の笑みを向ける。

 多少おてんばでも、明るい彼女のことを皆が慕っていた。


 部屋に戻る廊下を歩きながらお嬢様が言う。

 

「夕食前は何か仕事はあるの?」

「いいえ、本日の夜は何もありませんよ」

「じゃあ、私のお部屋でおしゃべりしましょう」

「承知しました。夕食前ですので、お菓子はなしでお茶だけお持ちしますね」

 

 夜にドレスを洗濯するため、自室に一時的に隠してお茶の用意をした。

 厨房は下の階で遠いので、簡単なティーセットは自室に備え付けてある。

 お嬢様の希望で、私の部屋は彼女の隣の部屋。

 元々客間だった部屋なので、作りや家具の豪華さは彼女の部屋と変わらず身分不相応であった。


「お茶をお持ちしました」


 ノックをしてドアを開けると、ベッドに大の字になって横になっていたお嬢様がぱっと上体を起こす。


「ありがと」

「いいえ」


 ワゴンに乗せたティーセットを部屋の中央に運びながら、私が口を開くと。

「いつ奥様が入ってきてもいいように、お気をつけ下さいませ、でしょ?」

 先に彼女が口にして、悪戯っ子のような笑みを見せる。


「私の言葉を覚えておいででしたら、実践していただきたいのですが」

「だって外でも淑女でいなさいって言われるのだから、自分の部屋の中くらいゆっくりすごしたいんだもの」

「ご結婚されれば、寝室はお相手の方と同室になります。今から癖をつけておいた方が良いと思いますよ?」

「あら、あなたまで早く婚約しろって言うの?」


 椅子に腰掛けたお嬢様が頬杖をついて窓の外を眺める。

 夕日は沈み、空に星が瞬き始めていた。


「婚約、そろそろしないといけないわよねぇ。お母様も最近は毎日のように言うもの」

「お嬢様のご年齢であれば、婚約者がいる方の方が多いですから。奥様も焦っておられるんですよ」

「一人娘だからかしら。私だってお父様やお母様を早く安心させてあげたい気持ちはあるんだけど……、

 一度くらい、恋ってものをしてみたいのよね」

「学園に入れば、同年代の異性の方がたくさんいらっしゃいます。

 お屋敷にいるよりも話す機会が増えるでしょうから、きっと素敵な出会いもあると思いますよ」

「そうだといいわ……」


 少し寂しそうに口角を上げる彼女の横顔は美しい。

 もちろん見た目だけではなく性格も明るく強く、とても優しい。


 きっとどの攻略対象も彼女を好きになるだろう。

 そうして彼女が、自分が一番好きな人を攻略対象の中から選ぶのだ。


(それがこの世界のあり方です)

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