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転生して主人公付のメイドになりました。  作者: 三つ猫
学園生活開始
18/38

18章 学食での出来事

 ラント様と話す機会を設けようと思ったものの、授業の合間はお手洗いに立っているか、席で話しかけるなオーラを出しながら読書をしているために声をかけられず、放課後はすぐに帰ってしまうのでどうにもできず。

 そんな状態で三日過ぎ、昼休みの時間となった。


「お昼の時間ね、今日は何を食べようかしら」

 弾んだ声で言いながら席を立つお嬢様。


「学食の味がお気に召したようで何よりです」

「ええ、でも日替わりランチが五種類あるのが厄介よねぇ。

 マリィと二人じゃ他の二種類しか食べられないし。

 そうだ、ラント、今日は一緒に学食に行かない?」

 後ろをの席のラント様の方を振り向きながら告げた。


(おお! お嬢様からお誘い頂けるなんて)


 教科書を仕舞い席を立ったラント様が、眉をひそめてこちらを見る。

「声が大きいから聞こえていたが、それは俺に別の日替わりを注文させて

 自分にも分けろと言うことか?」

「あはは。そんな見るからに嫌そうな顔しないでよ。もちろん、私の分もあげるから。交換しましょ?」

「お前、貴族の癖によくそんな庶民みたいなことできるな」

「貴族とか関係ないでしょ。それに食事は誰かと一緒の方がいいし、他に食べる人がいなかったら

 一緒に行きましょうよ。ご飯は分けてくれなくてもいいから」

「俺は一人で静かに食べたいんだ」


 静かにそう言い残し、お嬢様の返事は待たずに行ってしまった。

 後ろ姿を見ながら、彼女が唸る。


「うーん」

「残念でしたね、お嬢様」

「ねぇ、マリィ。ラントが誰かと話をしてるのって見たことある?」

「後ろの席なのでよく分かりませんが、見たことはないですね」

「そうよねぇ。私たちより二歳年下だし、馴染みにくいんじゃないかしら。

 従姉弟として何とかしてあげたいんだけど……」

 

(もしかして、食事のくだりはラント様を誘う理由のためだったのですか!?

 純粋に全種類食べたいだけなんだと思っていました……。すみません)


「それに、ラントが三人友達を作れば、五種類制覇できるわ」


(え、結局そこに繋がるんですか?

 そしてラント様のご友人からも分けていただくつもりなんですか?)


「とりあえず、私の分はいくらでも食べて頂いて構いませんので……」


(お嬢様が色気より食い気、花より団子になってしまわれないか少し心配です)




 食堂へ移動すると、すでに多くの席が埋まっていた。

 ABCクラスと、そのほかのクラスでは食堂も別になっていて生徒数に比べて席の余裕はあるはずなのだが、空いているのが二人分ばかり。

 来る途中にナーニャ様と同流し、三人でまとまって座りたい私たちは先に席を探して食堂内を歩くこととなった。


「あそこなら空いて……、あ」


 お嬢様の指さす方を見ると、そこにはレオ様とキルス様が座っていた。

 向かい合わせに六人掛けの席に座っているため、四席も空いているのに誰もそこに座ろうとしないのは、昨日レオ様が男子生徒を吹っ飛ばしたことが知れ渡っているためかもしれない。


 他の席を探そうとした私たちの前を、上級生の女子生徒四人が通っていく。


「あの二人すっごい格好よくない?」

「お名前、伺いしたいです」

「放課後にカフェにもお誘いしましょうよ」

「いいですね!」


 意気揚々と歩いている彼女たちを横目で見守る。


(レオ様に噛みつかれなければいいのですけど)


「すみません、こちらの席座っていいですか?」

 上級生の一人が声をかけると、キルス様が優しい笑顔で応答する。

「どうぞどうぞ」


 レオ様は彼女の方を見もせずに無視を決め込んでいる。

 

(意外ですね、すぐに追い払うのかと思いました)


 しかし。


「お名前お伺いしてよろしいですか?」

「え、メハウェスのご出身なんですか?」

「あちらの国は、貴族でも幼い頃から戦闘訓練をするんですよね」

「それならお強いんでしょうね。格好いいです!」

「……え、それも王子なんですか!?」


 質問にはキルス様が答えていたのだが、レオ様が王子だと知った彼女たちは彼を質問攻めにし始め……、


「うるせぇ! 目障りだ、うせろ!」


 案の定、テーブルを叩く音と共にレオ様怒鳴り声が響くこととなった。

 女子生徒三人はお盆を持って、そそくさとその場を後にする。

 

(あれは……、まぁ。王子だと知った途端に明らかに目の色を変えていましたから。

 誰でも多少は気分を害するかもしれませんね)


 しかし、一人の女子生徒はまだその場に残っていて、少々顔を引きつらせながらも笑みを見せていた。


「そんなに怒らなくてもいいじゃない?」

「あ?」

「怒りすぎ、それにずっと無視してるし。顔が良くて王子だからって何でも許されると……」


 レオ様が女子生徒の腕を掴んで立ち上がる。


「言っても分かんねぇみたいだな」


 止めようと立ち上がったキルス様より、先にレオ様の腕を掴んだのは、お嬢様だった。


(いつの間に……)


「暴力は止めなさいよ」


 レオ様が手を離したので、掴まれていた女子生徒はその場を逃げ出した。

 そうして怒りの矛先がお嬢様に向けられる。


「……俺に命令すんなって、言っただろ」


 手の平をお嬢様に向け、橙の魔方陣を展開した。

 そうして魔方陣から風の塊を発生さる。


(お嬢様……!)

 

 しかし。

 そんな彼の頭上に、滝のような大量の水が落ちてきて魔方陣は消失、風も消えた。

  

 水が全て落ちきった後、それが自分の魔法だったのだと私は気づいた。


(やってしまいました……)


 殺気が込められた鋭い視線が自分に向き、身が竦む。

 周囲からも複数の視線が向いて、いたたまれない気持ちになった。


 静まり返った学食内には、食器が触れる音だけが響く。

 そんな沈黙を破ったのはキルス様の笑い声だった。


「あはは、頭が冷えてちょうど良かったですね、レオ」

「んだと?」

「悪目立ちしないように、昨日も言いましたよね?

 毎日こんな調子じゃ、いつメハウェスに送り返されてもおかしくないですよ?」


 舌打ちをした後、レオ様が席に座ると食堂が先ほどまでの喧噪を取り戻した。

 ようやく冷静になった私はたった今無礼を働いてしまった彼の元へ走る。


「申し訳ありませんでした、レオ様」


 頭を下げながら言うが、彼からの返事はなかった。

 顔を上げて確認すると、食事にはかかっていないものの、彼の髪からも制服からも水が滴っている。


「本当に申し訳ありませんでした。今、乾かすものを持って参りますので」


 走りだそうとした私の肩に手が置かれる。

「それなら私がやってあげるわよ」

 声の主はソリア様の声だった。


(そうか、ソリア様は火の魔法が使えるから)


数歩レオ様に近づき、にっこりと微笑む。

 

「ごきげんよう、レオ様。お願いするなら、乾かして差し上げてもよろしいですよ?」

「あ?」

「ソリア様……。これは私がしてしまったことですので、どうか乾かしていただけないでしょうか?」

「ふふっ。冗談よ。そのつもりで来たんだもの」


 ソリア様が手をかざすと、赤の魔方陣が展開され、手の平に収まる程度の大きさの火の玉が現れレオ様を中心に回り始めた。

 彼は自分でも風を起こして、温風として髪や制服に当てる。


(見事なコンビネーションです。やっていることは、乾燥機と同じですけど)


「では、私は床を……」

「もう拭いておいたわよ」


 そう言ったのはお嬢様、モップを持つ彼女の隣には同じく、モップを持つキルス様。


(いつの間に……)


「お二方とも、ありがとうございます」


「料理は選んで運んでおきましたので」

 ナーニャ様の言葉通り、傍の机に四人分の食事が置かれている。


(私、迷惑をかけただけで、何もやっていないです……)


「皆さん、申し訳ありません! ありがとうございます!」


 ひたすら平謝りをすると、無反応だったレオ様を除いては皆気にしなくていいというような返事をくれた。

 レオ様の制服も乾いたので、私とお嬢様とソリア様とナーニャ様四人が、レオ様たちの隣に座る。


(流れで一緒に食事をすることになってしまいました。レオ様が不機嫌にならなければいいのですけど)


 彼の様子が気になって仕方なかったが、視線を向ければ怒りを買いそうだったのでそちらを見ないようにした。


「それにしても、マリィがいきなり魔法を使うと思わなかったからびっくりしたわ。

 助けてくれてありがとう」

 お嬢様は明るく言ってくれるが、私の気分は晴れないまま。

 

「いえ、それよりも皆さんにご迷惑をかけてしまったので……」

「迷惑なんて誰も思ってないでしょ。

 ただ、『頭をお冷やし下さい!』とかバシッと言ってやったら、もっと格好よかったのに」

 ソリア様の言葉にお嬢様が同意する。

「それいいわね!」

  

(お二人はまだ、話をしたことがなかったはずなのですが……、普通に仲良くなっていますね。

 二人とも人と打ち解けやすい性格ですし、気が合うのでしょう)


(それにしても、こんな風に普通に話すと言うことは、

 ソリア様はお嬢様と険悪な雰囲気のライバルにはならない、ということなのでしょうか?)


(お二人とお嬢様が揉めるのは嫌ですし、お互い頑張りましょうという感じで

 済んでくれれば有り難いです)


 自分の中で考えを結論づけた私は、おかずが乗った皿をお嬢様に差し出す。

「そういえば、お嬢様、私の分もお召し上がりになりますか?」

「ありがとう、私のも食べて良いわよ。これ、美味しいから」

 おかずを取ったお嬢様は、空いたスペースに自分の分を乗せた。


「あ、いいわね。私のも交換しましょ。ナーニャも」

 ソニア様が言うと、ナーニャ様も同意した。

「はい、そのつもりで別々のメニューをお持ちしていたので」


(そういえば、来る途中の廊下でもお嬢様がその話をしていまいたね)


 私たちがそれぞれ自分の皿を前に出すと、なぜかキルス様も自身の皿を近づけてくる。


「それでは私もいいですか? ちょうど皆さんと違いますし、楽しそうなので」

 背景に花が飛んで見えるような素敵な笑みを浮かべて告げた。


「ええ、ぜひ。これで今日の分は全制覇だわ!」

「ミレア、喜び過ぎ」

 嬉しそうに声を上げたお嬢様を見て、ソニア様がくすくすと笑う。


 そんな二人の様子を見て、キルス様もふふっと声を漏らした。

「可愛らしい女性方と一緒に食事をするのはとても楽しいですね。

 でも、レオは私と同じものを頼んだから交換できなくて残念ですね」


「あ、私のでよろしかったら、お召し上がりになりますか?」

 咄嗟にそう言ってしまったのだが、あ゛?という言葉と共に思い切り睨まれてしまった。

 

 そんな様子を見て、お嬢様とソリア様とキルス様が笑っている。


(うぅ、怒らせなければと意識するあまり余計なことを言ってしまいました)


昼食を終え、席を立とうとしていたときにナーニャ様が口を開いた。

「とても楽しかったので、よろしかったら、また明日もこのメンバーでお昼にしませんか?」

「いいですね。そうしましょう、レオ」

 すぐさま同意するキルス様。

 

「俺はいい、やかましい女らと食べるくらいなら一人で食う」

「そんなこと言って……、私以外と普通に話せないようじゃ孤立しますよ?」

「どーでもいい」

「ご存じですか? 評価書には交友関係の欄もあるんですよ?」

 レオ様が、キルス様を忌ま忌ましげに眺めなら言う

「……女と飯食ったからって良くなんのかよ」


(評価書は悪いと困るんですね)


 レオ様の言葉に、私たちは顔を見合わせて笑った。

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