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転生して主人公付のメイドになりました。  作者: 三つ猫
攻略対象たちとの出会い
15/38

15章 初日の役持ち会議

 初日に出された課題は学園生活への抱負の作文だった。

 先に終えた私は、お嬢様の邪魔にならないよう図書室にでも行こうと部屋を後にする。


「あ、いたいた。マリィ」


 廊下の向こうから歩いてきたソリア様が私に声をかける。

 咄嗟に周囲を見回したが、近くには誰もいないようだ。


「そんなに気にしなくても、ミレア様の前でだけしっかりしておけば大丈夫だって」

 ソニア様があっけらかんとした口調で言う。

 

「そんな事、声に出して言わないでください」

「ごめんごめん。これからどこへ行くの?」

「お嬢様はまだ課題をしていますので図書室で時間を潰そうかと」

「あなたも行かないのね」

「?」


 首を傾げていると、目の前まで歩いてきたソリア様が、耳打ちする。


「今日、役持ちで集まろうって事になったみたい」

「いつですか?」

「今、とりあえず一人で出られる人だけで。

 私の部屋にもついさっきメモが届いたから、あなたが部屋を出た後で届いたんじゃない?」

「集まって……、何をするんですか?」

「さぁ、私は行かないつもりだし」

「え?」

「今、なんて呼び出されて、誰が行くかってのよ」


 彼女が手に持っているメモ、差出人はレオ様だ。


『今から役持ち同士で情報共有を行う。西校舎、三階の談話室Bへ集合しろ』


「俺様だか、王子様だか知らないけど、来てほしいなら頼み方ってもんがあるでしょ」

「まぁ、確かに。命令口調ですね」

「あなたはどうするの?」

「私は……」


(情報共有なんて。台本は他言無用と言われているのに、何を話すつもりなんでしょう。

 もう攻略対象の方とは、お嬢様抜きで関わりたくないのですが)


(しかし、ここで無視してレオ様を怒らせるわけにはいかないでしょう。

 好かれる必要はありませんが、嫌われて険悪になっても困ります)


「一応、行こうと思います」

「え、行くの? マリィが行くなら私も……、いいえ!

 命令されてほいほい行くなんて、私のプライドが許さないわ!」


 迷った後にそう宣言した彼女に苦笑を返す。

「何か有益な情報を得ましたら、お伝えしますので」

「そう。じゃ、お願いするわ」


 そうして私は西校舎、三階の談話室Bへ。

 ドアを開けたとき、室内にいたのはレオ様とキルス様だけだった。


「こんにちは」

「どうぞおかけ下さい」

 私が声をかけると、キルス様が席を促す。

 

 室内には大きめの丸テーブルが一つ、周りに八脚の椅子が並べられていた。

 その中の手近な席に腰掛け口を開いた。


「ソリア様はご欠席されるそうです」

「あぁ、レオの書き方が良くなかったですから、仕方ないですね」

「うるせぇ。お前が書けばよかっただろ」

「俺は談話室を利用するための申請を行っていたんですから、レオも多少は働いて下さいよ」

「多少って、紙を飛ばしたのも俺だぞ」


(なるほど、教室でも生徒を器用に持ち上げていましたが、レオ様がメモを飛ばしたんですね。

 魔法のレベルが高そうです)


「ナーニャ様も今はご両親と電話中で来られないそうなので、今回は三人だけかもしれませんね」

「ラント様とクリフト様は?」

「ラント様は欠席の連絡はありませんでしたが、彼の性格上集まりには来ないでしょう。

 クリフト様は部屋にいなかったようです。そうですよね、レオ」

「ああ、というかお前にもメモは届いてないはずなんだが」

 と、私を見る。


「私は廊下で、ソリア様に伺ったので」

「廊下だ? 何でそんな人に聞かれる場所で話してんだよ。何のためにメモを飛ばしたと思ってんだ」

「誰も、近くにいらっしゃらなかったので。申し訳ありません」

 

 舌打ちをした彼は、立ち上がり私の元へ歩いてくる。


(もしかして凄く怒っていらっしゃるのでしょうか?)


 怯えながら彼を様子を伺う私の前で立ち止まり、音を立てて空のティーカップを置いた。

 大きな音が響き、思わず肩に力が入る。


 そんな私を冷めた目で見下ろしながら、レオ様が口を開く。


「紅茶、何でも良いか?」

「え……? はい」

「待ってろ」


 ぽかんとして彼を眺めていると、用意してあったポットを持ってきて今置いたカップにお茶を注いだ。


「すみません、このようなことをしていただいて」

「謝んなよ、お前は俺が配役で王子になっただけで、偉いわけでもなんでもねぇって知ってんだから」


(王子だからというのもありますが、

 雰囲気が怖いので、何かしてもらうと申し訳ない気がしてしまいます)

 

「いちいちびくつかれると、苛つくんだよな」

 言いながら、私の隣の席に腰掛ける。


(その苛ついている仕草が、余計に周囲を怖がらせるのではないでしょうか。

 ……というかなぜ隣に? 確かに遠くて会話しにくくはありましたが)


「以後気をつけます……」

 言葉を選んでそう答えた。


「ふふっ。怖がっていますよ。可哀想なので離れてあげては?」

 言いながら、キルス様はレオ様の隣ではなくなぜか私の隣に腰掛ける。

 

「あ゛? 茶、出しただろうが!」

「そうやって怒鳴るから、あなたは駄目なんですよ」


(なんでキルス様もこちらに、というか私を挟んで会話するくらいならレオ様の隣に座って下さい)


 口を挟んでいいのだろうかと考えながら、二人の会話を見守る。


「駄目ってどういう意味だよ」

「コミュニケーション能力が全然なっていません。それで次期国王候補とは笑ってしまいます」

「上等だ、今ここで力の差を教えてやろうか」


「あのー!」


 いたたまれなくなって大声を上げた。


「お二人で喧嘩なさるなら、私は帰ってもよろしいでしょうか?」

「駄目に決まってんだろ」

 レオ様が即答する。

 

「えっと……、そもそも本日はどのようなご用件だったのですか?」

 私の問いに答えたのはキルス様。

「レオは情報共有なんて書きましたが、言ってみればただの顔合わせです。

 多少は面識があった方が、お互いの台本を演じる上で協力し合えるのではと思いまして」


「それは一理ありますが。演じることを意識するより、なりきってしまった方がよろしいのでは?

 役持ち同士であまりなれ合うのは、シナリオ上の距離感と乖離するので避けるべきかと」


 私が意見を述べると、一瞬キルス様の笑顔が引きつった気がした。


「あなたは役の通りに主人公を慕っているようなので、演技は不要かもしれませんが

 こちらは、好きでもない方に好意を持たなければいけないのですから、そうはいきませんよ」

「…………」


 思い切り心臓を掴まれたような心地がした。

 鼓動が早くなり、自然と拳に力が入る。


「今は、そうかもしれませんけど、これから心から好きになるかもしれないじゃないですか」

「ありえません」

「どうしてそんなことが言い切れるんですか?」


「考えてみてください。この世界の許嫁とも俺たちの立場は違います。

 行動が指示され、選択肢によって彼女を好きになることが義務づけられている。

 同じような立場の男性が複数いて、好きに決めるのは彼女。

 こんな状況では多少彼女の良い面を見つけたとしても、本心から好意を抱くことはありえませんよ」


「でも、それはお嬢様のせいではないです」

「ええ、分かっていますよ。だから彼女を責めるつもりはありません。

 私が彼女を好きになることはないと言っているだけです」

「そんな……。では、お嬢様があなたを選んだらどうするのですか?」

「シナリオ終了が宣言されるまでは、良き恋人や夫でいましょう。もちろん演技ですが」

「…………」


(そんな関係、お嬢様が可哀想です……!)


「もう止めとけ、キルス」


 レオ様が私の肩を掴んで、自分の方を向かせる。

 彼の目を見返すと、私の頭に手を置き俯かせた。


「悪いが俺もキルスと同意見だ。ただ、先のことなんて誰にも分からないねぇ。

 普通に惚れる奴だっているかもしれねぇし、今は先のことは気にしない方がいいんじゃねぇの?」

「……ありがとうございます」


(なぜこんなにショックを受けているのでしょう。

 役持ちは台本通りに演技しなければならないのだと、始めから知っていましたのに)


(始めは演技でもいずれ心から好きになるだろうと、信じて疑っていませんでした。

 しかし、台本を強制されることで反発心が生まれているなら、

 最後まで好きになることはないのかもしれない)


(そうでなくても絶対に好きになるなんてあり得ないものだったのに。

 性格も感じ方も人それぞれなのですから)


(ここはゲームの中じゃない。感情も言動も本当は作者の思い通りになるものじゃない。

 神様、乙女ゲームはやはりフィクションだから成り立つ世界なんですよ)


 レオ様の手が離れたので顔を上げて、二人の顔を交互に見た。


「できる限り、お二人が台本通りつつがなく終えられるよう、サポートさせていただきます。

 お二人の気持ちも知らず、考えを押しつけてしまい申し訳ありませんでした。

 今日のところはこれで、失礼いたします」


 一礼をして談話室を後にした。

 足早に廊下を歩いていると、ぽんと肩を叩かれる。


「おう、もう話は終わったのか?」

 立ち止まり、声の主を見上げた。


「クリフト様……」

「お前も大変だよなぁ。俺たちがミレアと話せるように気を遣ってんだろ?」

「いえ、大変だなんて思っていません」

「そうか? 確かに、俺がミレアと話してるときのお前すげぇ嬉しそうだったもんなぁ。

 気をつけろよ? 役持ちは分かってるだろうけど、知らないやつが見たら

 お前が俺のこと好きみたいに見えるから」

「分かりました、今後、気をつけます」

「……どうした? 元気ないみてぇだけど」


言いながら屈んで不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む。

 

「クリフト様、一つお尋ねしてもいいですか?」

「ああ、いいけど」

「クリフト様は……」


(いいえ、止めておきましょう。

 確認するより、他の方はそうではないはずだと信じていた方が良い気がします)


「おーい、大丈夫か?」

 つい黙り込んでしまった私の目の間で、クリフト様が手をひらひらと振った。


「すみません。何でもありません。話、というより顔合わせのようです。

 欠席される方が多いようで、レオ様とキルス様のお二人が談話室にいらっしゃいます」

「おう、そうか。ここまで来たから一応寄ってみるかな」

「では、私はこれで」

「あ、そうだ」


 歩き出そうとした私の手を、クリフト様が掴む。


「日曜のサッカー、お前も来るだろ? 主人公が来るんだし」

「行きますが……、私は物陰から見ていますので、お気になさらないで下さい」

「いや、なんでだよ。物陰って。

 興味がないなら、参加は強制しねぇけど、見るなら普通に見てればいいだろ?」


「私はお嬢様が攻略対象の方と接せられるときは、邪魔にならないよう遠く離れた場所で見ていたので」

「邪魔なんてことねぇだろ、仲いいんじゃねぇの?」

「それとこれとは別です。私はそういう役回りなので」

「変わってんなぁ。ま、好きにするのが一番なんだろうけど。

 でも今回は台本で誘ったわけじゃねぇし、お前も気が向いたら参加したらいい。

 可愛い子が多く居た方が、俺の友達も喜ぶからさ」


 そう言って冗談めかして笑った。

 

(台本じゃなくても、普通に関わって下さる方もいるんですね)


 クリフト様と別れて、寮に向かって歩いた。


(もしかしたら、レオ様とキルス様は他の方と違って、攻略対象同士で長く一緒に居られたから

 二人で話すうちに、先ほどのような考えに至ったのかもしれません)


(レオ様の言うとおり先のことなんて誰にも分からないのですから、

 心から好きになる可能性は十分にあるはずです)


 寮に戻り、自室のドアの前でネックレスを握り絞めた。


(ノートは置いてきてしまいましたけど、問題ありません。

 だって、お二人は今日始めてお嬢様に会ったのですから、

 これからお嬢様の魅力に気づけば変わるはず)


 ノックをしてからドアを開けた。


「ただいま戻りました」

「おかえり、マリィ。良い本は見つかった?」


(あ、そうでした。図書室に行くと言って出てきたのでした)


「いろんな本があったのですが、後ほどお嬢様と一緒に行こうと思いまして、借りてはきませんでした」

「あら、そうなの。

 さっき課題が終わったところだけど、もうすぐ夕食の時間だし、図書室は明日行きましょう」

「はい、お嬢様」

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