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転生して主人公付のメイドになりました。  作者: 三つ猫
攻略対象たちとの出会い
13/38

13章 自己紹介と魔法石

 ソリア様の席を見ていたとき、ナーニャ様の後ろの席の男性と目が合った。


(こちらの方は存じ上げません。オリジナルの方ですね)


 栗色の髪は癖がついていて、あちこち跳ねているようにも見えるが柔らかそうで、顔つきは幼く見える。

 子犬のような雰囲気があった。


(……格好いい方、ですね。攻略対象の方々が圧倒的なオーラを放っているので霞んでしまいますが、

 普通のクラスであれば、一位、二位を争うくらい人気がありそうな)


(ゲームであれば、攻略対象とサブキャラ以外は顔がない場合が多いですが、

 実際の世界となるとそうもいきませんし、顔が素敵な方がいてもおかしくはないですけど)


 ついまじまじと眺めてしまい、視線に気づいた男性が私の方を見る。


「どうしたの?」

「い、いえ。申し訳ありません、不躾に見てしまって」


 二人で話しているナーニャ様とお嬢様の方へ視線を戻した。


(クラスの方とも交流するのは、大切なことと思いますが、

 第一優先はお嬢様と攻略対象の方の交友を深めるお手伝いをすることですから、

 見とれている場合ではありません)


(そういえば、まだお一方、お嬢様とお話されていない攻略対象の方がいますね)


 席はちょうど、私が今座っているウィルム様の後ろの席。

 先ほど目が合った彼の隣の席だ。

 

(席が隣とはいえ、通路を挟んでいますから授業中の交流はあまりなさそうですね。

 今日のうちに向こうから何かアクションがあるでしょうか)


 鐘の音が鳴り、私たちは自席へと戻った。

 先生が指示して窓際の一番前の席から始まった自己紹介。


(一応、内容をメモしておきましょうか。どんな情報が役に立つか分かりませんし)


 前の世界でもゲームをしているときはどんな会話が役に立つか分からないと、必要以上にメモを取っていた気がする。


(あまり細かいことは、もう覚えていないのですが)

 

 プレイしていた乙女ゲームのことや、その他のゲームやアニメ、流行っていたことなどは覚えているが、自分が生きていたころにどのように過ごしていたか、どんな友人がいたかは、実はもうほとんど覚えていない。

 

 そうして、最後の攻略対象、クリフト様の順番が回ってくる。


「クリフト=ダバステです。

 特技はスポーツです、といっても乗馬とか弓矢とかはあんまりなんで。

 サッカーとか、球技系で興味ある人がいれば一緒にやれればと思います。

 苦手なことは……、細かい作業っすかね。よろしくお願いします」


 他の生徒ほどは丁寧ではないお辞儀をしてから座った。

 

 髪と瞳は黒、こちらの世界に日本という国はないが、攻略対象の中で一番日本人らしい見た目をしている。

 長身でほどよく筋肉がついている。スポーツマンタイプ。

 彼の説明文はこう。


『クリフト=ダバステ。魔法適正は大地。

 魔法石を開発したダバステ魔法研究所、所長の息子。

 スポーツ全般が得意、快活な性格で友人が多い。』


(文章が短いですが、説明だけみれば身体を動かすことがお好きなお嬢様とは気が合いそうです。

 しかし、ナーニャ様のご婚約者様というのが……) 


(ナーニャ様は運動が得意ではないとは言っても、運動好きな方が必ず運動好きな女性を好きになる

 わけでもないでしょうし、王女との婚約を破棄するという部分が、かなり難易度が高そうです)


 ちなみに魔法石はこの国の生活の基盤となっている重要なアイテム。

 12色あり、それぞれ異なった性質の魔法が使える。使える魔法の種類は、人の魔法適正の種類と同様。

 

 魔法石の色と用途の例は、以下のようになる。

 ・料理や暖炉用に使う赤の魔法石(火)

・簡易的に魔獣の思考を読み取るために使用する桃の魔法石(生物)

 ・空を飛ぶ馬車や船の操縦、台風の軌道を畑から逸らすことができる橙の魔法石(風)

 ・夜を照らす明かりとして使う黄の魔法石(光)

 ・地盤沈下の補強や田畑を耕す茶の魔法石(大地)

 ・弱った野菜の回復や花壇の手入れに使う緑の魔法石(草花)

 ・冷やして食材の腐敗を防ぐ紺の魔法石(氷)

 ・料理や掃除、洗濯に使う青の魔法石(水)

 ・他人が自分に好意を持つように誘導できる紫の魔法石(魅力)

 ・怪我や病気の回復に使用する白の魔法石(治癒)

 ・任意で数日後に死ぬ呪いや、不幸を呼ぶことができる黒の魔法石(呪い)

 ・魔法石を含む、全ての魔法を無力化する国の防衛に使われる透明の魔法石(魔法無効)


 紫、黒、透明の魔法石は生活に必要がなく、国を混乱に貶めるため生産停止となっており、倉庫に厳重に保管されているそうだ。

 桃の魔法石は一見害はなさそうだが、こちらも魔獣の乱獲に使用されたため生産が停止されている。


 12色の魔法石が全て完成したのは、先代所長のタイミングで、魔法石のお陰で他国に比べればこの国は小さいながらも豊かだ。

 魔法石は貴重だが、赤と黄と青の魔法石はどんな家庭にも小さくとも一つは支給される。

 小さければ威力も弱くなるが、魔法石は半永久的に使えるので飲み水に困ることや凍死などはほぼなくなったという。


 そのため他国に狙われているが、そこで登場するのが同盟国のメハウェス。

 魔法石の輸出を条件に、他国の進軍を妨害してくれている。


 今や国にとってダバステ魔法研究所はなくてはならない存在なので、貴族階級ではないクリフトもAクラス所属となっている。


(ナーニャ様が許嫁となったものも、おそらく政治的な意味合いが強いでしょう)


「ミレア=マレディスです。魔法適正は、今のところ不明です」


 いつの間にか自己紹介がお嬢様の番となっていた。

 はっきりと言い切った彼女の言葉を受けて、教室内が軽くざわつく。


「魔法適正がないなんて、聞いたことがないわ」

「それでAクラスって……」

「金を積んだんだろ。クラス対抗行事があるのに、そんな出来損ないが一緒なんて最悪だ」

「授業についていけなくて退学になるんじゃない?」


(そんなことをよくもまぁ、聞こえる距離で口にできるものですね)


 机に両手をつき、立ち上がろうとした私だったが、先に強い突風が教室内に吹き荒れる。


「わ……っ」

「きゃー」

「ちょっと、いきなり何よ」


 振り返ると数人の生徒が小さな竜巻によって宙に浮いていた。

 竜巻は生徒たちを教壇近く、レオ様の目の前まで運んで床に落とした。


(これはもしかして、ひそひそ話していた方々でしょうか?

 レオ様は全く後ろを振り返っていなかったというのに、

 聞こえる声だけを頼りに、ピンポイントで複数人を同時に持ち上げたというのですか)


 尻餅をつき、痛みに顔を歪めた生徒達をレオ様が座ったまま見下ろす。


「今の、もう一回、こいつに向かって直接言ってみろよ」


 後ろ手でお嬢様を指して言うと、彼らはバツが悪そうに視線を左右に泳がせた。


「いや、別に俺は何も……」

「私も何も言っていないわ」

「私も……」


「そうかよ」

 呟いて立ち上がった彼は一番近くにいた女子生徒の胸ぐらを掴み、その鋭い眼光を向ける。


「面と向かって言う度胸もねぇくせに、聞こえるようにグチグチ言ってんじゃねぇよ」

「……は、はい。すみませんでした」


 レオ様が手を離すと、そそくさと自席へ戻り他の生徒もそれに続いた。


「もめ事、終わったぁ? じゃあ、ミレアさん続きをお願い」

 静まり返った教室で、口火を切ったのはジョエル先生だった。


(先生、レオ様が掴みかかったときは何も口を挟みませんでしたね)


 その後は先ほどまでよりどこか淡々と自己紹介が続き、先生の話と明日までの課題が配られた後に終了を知らせる鐘が鳴った。


 すぐに席を立つ者、座ったまま周辺の生徒と会話する者、ここで済ませて仕舞おうと課題のプリントに記入する者、皆が思い思いに動く中、お嬢様は立ち上がり、レオ様の前に立った。


「さっきはありがとう」

 レオ様は視線だけを上げて、お嬢様を見る。

「さっき?」

「だから、私がいろいろ言われているときに……」

「お前のためにやったつもりはねぇ」

「でも、私も魔法が使えないのは変だと思ってて何も言い返せなかったから、凄く救われたっていうか。

 だから、お礼は言っておきたくて」

 

「俺がむかつくから言っただけだってのに、礼なんて言われてもなぁ」

 レオ様はそっけない口調で言って立ち上がり、廊下へ歩き出す。

「行くぞ、キルス」

「でも、まだ話している途中じゃ……」

「早くしろ」


 構わず歩を進めるレオ様を見て、キルス様はため息を一つ吐く。

「すみません、レオの態度が悪くて」

「いいえ、私が言いたかっただけなので」

「そう言っていただけると。では、また明日」

 そう言い残して、彼はレオ様の後を追った。


 二人がすでに廊下へ出て言ったドアを眺めながらお嬢様が呟く。


「レオ様っていい人なのかしら?」

「いい人かどうかと言われると……、どうでしょう。口調はあまり良いとは言えませんが」

「確かにね、アレじゃ不良と同じだもの」


 そう言ってクスクスと笑う。   


「ですが、芯は通った方のように思いました」

「そうね、私もよ。第一印象じゃ人は分からないものね」

「はい。同い年といっても、いろんな環境で育ったいろんな方がいますから。

 そういった方と多く接せられるのも学園生活の魅力ですね。是非たくさんのご友人をお作りになってください」

「また、人ごとみたいに言うんだから。あなただって同じ生徒なのに」


 呆れたようなお嬢様の目を見返しながら私は思った。


(主人公とサブキャラは、同じではありませんよ)

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