01章 神様からの提案
十七歳の夏、私は死んだ。
突然意識が遠のいていき、最後に真っ暗な世界となって終えた。
終えた、はずだった。
目を覚ました場所は空。
頭上に空が見えるということではなく、前も後ろも一面澄んだ青に包まれ、座っているのは綿のように白くふかふかな、おそらく雲ではないかと思われた。
雲に座れるはずはないから、これは夢の世界だろう。
死んだと思ったのは勘違いで、私は夢を見ているのだ。
そう考えた私の目の前に、一人の少女が現れる。
白い髪、白い肌、白い目……。全てが白に包まれた少女は、大きな白い翼を背中から生やしていた。
天使?
呆けたまま見上げる私に、少女は笑いかけた。
「私が作る乙女ゲームの登場人物になって下さいませんか?」
「へー。神様も乙女ゲームやるんですね」
「はい! 物語の本はお父様がよく取り寄せて下さっていたんです。
新しい世界作りの勉強に、と。
先日、たまには趣向を変えた物をと買ってきて下さった乙女ゲームにはまってしまって」
少女は天使ではなく、天界に住まう神様の一人だった。
神様と聞くと遠い存在のようだが、話してみれば乙女ゲーム好きな普通の女の子のようで、入院中こっそり布団にもぐって夜通し乙女ゲームをやっていた私とは話が合った。
「ですから、今度、課題で作る世界を私の思い描く乙女ゲームのようにしようと考えているんです!」
課題で世界作るんだ……。
相手は神様だし、私の常識とはズレているんだろうな。
「住人は全てオリジナルで作ってしまってもいいのですが、素敵な世界を作る予定なので、
下界で……、不運な死を遂げられた方に少しでも楽しんでいただこうと思って、
気になった方をお誘いしているんです」
明るく話していた彼女が、後半は怖ず怖ずとこちらの顔色を窺いながら告げた。
そうか、私はやっぱり死んだんだ。
ショックではあるが、こうして話が出来るなんて私の想像していた死とは違う。
「乙女ゲームのような世界ってどういう世界なんですか?」
「星の始まりや原始時代のようなものは終えていて、すでに文明が築かれている状態で作る予定です。
魔法が存在する素敵な世界で……、私が考えている世界の設定資料がこちらになります!」
そう言って手渡してくれたのは、数ページのみの薄い冊子。
表紙には「恋色の魔法の書」という文字と中心に綺麗な女性、その周りにイケメン数人が描かれている。
まるで乙女ゲームのパッケージだ。
もの凄く絵が綺麗だから、売っていたら買うだろうな。
デザインも凝っているし、豪華版のパッケージっぽい。
そんなことを考えながらページを捲ると、1ページ目と2ページ目には世界観と登場キャラクターの説明、3ページ目にはシステムの説明、4ページ目には舞台となる学園で行われるイベントの説明が記載されていた。
「こういう乙女ゲームが売っていたら、面白そうですけど。
えっと……、神様が作るのはゲームではなくて世界なんですよね?」
「はい、乙女ゲームの世界です!
主人公には成れませんが、ゲームで見ていたような世界観の中で実際に生きることが出来ますよ。
参加していただけませんか?」
嬉々として語る彼女の提案に、私は乗ることにした。
得体の知れない相手に、よく分からない世界。
不安はあったが、それでも死んで全て終わりとなってしまうよりはずっとマシだったから。
そのときはまだ、この世界「恋色の魔法の書」で生きるためのノルマについて何も聞かされていなかった。