0 退屈な終末
感覚は一線を越え、痛みを感じなくなった。
腕を伝う血の生温かさ。もはや命令しても指先ひとつ動かない。
「終わりか、つまらぬ」
諦めの意思を言葉にしたつもりだったが、声にならない。
意識はあるが、本能が理解している、死の感覚。
生命が終わりを迎える感覚。魂が消滅する予兆。
目の前の男は死の間際にある私を睨みつけていた。恨みか、憤りか、様々な感情が入り混じる瞳だ。
彼は私を許さないだろう。そして、私も彼を許すことは無いだろう。
一面焦土と化した周囲には、何も残っていなかった。生命の気配を感じない。
視界を遮る物は何も無く、黒ずんだ空と地平線の中に彼は一人立っていた。
世界は終わったのだろうか。私は、役目を果たせたのだろうか。
もう何も分からない。知覚出来ない。途切れ途切れの思考は、この結末に至る過程すら忘却してしまった。
私は有りったけの力を振り絞り、彼を見下ろした。視界を動かすことが私の限界。
「悪く思うなよ」
ああ、助かる術はないことは分かっている。
私はそう呟いたつもりだったが、漏れるのは吐息だけだった気がする。しかしそんなことはどうだって良かった。
「――ッ! おい! やめろ! これ以上の――」
彼は眼を見開いて一歩踏み出した。しかしもう遅い、私の身体が強い光に包まれる。
彼は何かを叫んでいたが、途中から何も聞こえなくなった。
世界の終末とは、思いのほかつまらないものだ。