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悪夢から覚めるとそこには人間の女性がいた

「それで・・・次は”お嬢さん”の番だね。」


「また、殺してしまった・・・。私のせいで、私のワガママで、また・・・。」


 魔族には目もくれず、トロールが纏っていた濡羽色のローブをエンジュが拾い上げると、ほんのりと獣臭い匂いだ鼻を突いた。それは先ほどまで確かに、一匹の獣が生きていた証だった。


「どうして・・・私はこうなんだろう・・・これから先も・・・」


{ッピキ}


音もなく生まれ、音もなく対象を焼き尽くす一筋の炎から初めて音が聞こえた。


「ずっとこうなの? それならいっそ・・・。」


エンジュが魔族に向き直ると、その目は恨むようで、そして嘆くような悲痛な色を携えていた。


「ここで・・・しー」









<それ以上は言わないで。>










{ピキピキ}





発光する光の筋には気づけば無数のヒビが入っており、まるで溶岩が固まる時のように徐々に褐色に黒ずんでいくように見えた。そしてひび割れた隙間、微かにできた穴からは緑色の指が突き出ていた。




「え?・・・アスナロ?」


「私の火から、再生する・・・?まちなさい、それはあり得ないことだ!」



ヒビはやがて光の筋を超え、目の前の空間いっぱいに広がり、中から緑の腕が一本ニョキッ現れた。そしてそのまま、エンジュの持つローブを掴むと、ヒビの中に、黒い隙間に再び消えた。



「付き合ってられない・・・!くそ、女、こっちにー」



 ヒビが完全に剥がれおちると同時に、真っ暗な空間のむこうからこちらを見つめているのは、ローブをまとったトロール・・・アスナロだった。そして、魔族が話終わらぬうちに、首根っこを掴むと、空間の間に引きづりこむ。



「なっ・・・!!」



 とっさに魔族が魔法を発動しようとするも、一瞬で首が引っこ抜かれ体が脱力する。アスナロはその隙に魔族の体を”断絶された”空間に押し込み、自分は外に出た。そして、エンジュの手を優しく掴んで、空間のひび割れに触るように諭した。



「え?何?私が、ここにさわればいいのかしら?」



アスナロが頷くと、エンジュはためらいながらもヒビ割れに触れる。その時アンジュは気づいた。日々だと思っていたものは沢山のバツ印。空間の描写を否定する、記号の集積だった。



「無駄なことです、私は何度でも・・・ん?そこの娘?何をしてる?その黒いばつ印はなんですか?一体なにをー」


 エンジュがヒビに触れた瞬間、そこにはまるでなにごともなかったかのように元どおりの空間が現れた。すなわち普通の空気が満たされたいつもの山頂の一角のままだった。エンジュは目を丸くしてアスナロに(にじ)り寄る。



「えっと・・・アスナロさん・・・これは?」


「ふがふが。(僕じゃなくて、エンジュがやった。)」




 アスナロはエンジュを指差して、自分の体が再生したことや、空間にヒビが入ったこと、そしてそれを閉じたのがエンジュの力であることをジェスチャーした。とはいえ、それが正確に伝わったかは定かではない。アスナロは何事もなかったように、落ちている荷物や腕輪、そして槍を拾うと再び歩き出そうとする。

全てを見に纏った時、火で焼けた箇所さえなく、本当に何事もなかったかのように錯覚するほどだった。


「え、ちょっとまって、全然わかりません!色々おかしくないですか?ねえ?ねえ、アスナロさん?」


 アスナロはのんきそうな目でエンジュを一瞥しただけで、再び歩き出してしまった。エンジュは慌てたようにアスナロに近づく。アスナロはエンジュをちらりと見ると、なんだか嬉しいような恥ずかしいような気になって前を向いた。


 「ふんがふんが。(今日からはもう嫌な夢、見なくても済むむかもしれないな。)」



完結・・・?

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