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主人公が死んだので閑話休題のようです


一匹のトロールが生を受けたとき、本来は泣かないはずの種族にも関わらず、彼は物凄い声量で泣き喚いた。何故なら・・・


「ぎいや!ぎぃぃぃぃ!(ちょ待って!なんか目の前にトロールがいるんだけどぉぉぉぉ!)」



彼はトロールが嫌いだったからである。そのトロールは不運なことに前世の記憶を持っていた。不運というのは、彼の人間としての価値観がトロールとしての生を強固に否定していたことだった。彼はそれでも自分が人間だと思いたかったのだ。例え、彼の20年にも満たない人生が言うにも及ばないつまらないもの・・・忘れたい類のものであったとしても。


 そして彼が初めて、ヌルマユに浸かった日、すなわち水面に移る自分の顔を初めて見た日、やはり彼は絶叫した。


「ぎぃぃぃぃや!(やっぱり、なんか目の前にトロールがいるんだけどぉぉぉぉぉお!)」



その日から彼はトロールの里、トーヤコでひねくれた生活を送ることになる。尋常じゃない獣臭さ、何の目的もなくうろつくだけの日々、恋は愚か友人さえ作らない希薄な関係性、なにより彼が気に入らなかったのは、生まれた時から食べさせられる獣や人間の生肉だった。ぬるぬるとした生温い感触や、鉄っぽさのある赤い液体、食べ終わってもつづくジワリとした甘さ、それはまるで身も心もトロールになるかのような錯覚を起こすものだった。


 トロールが見る夢は決まって、自分が楽しそうに身振り手振り口を動かし、友人や恋仲と思われる女性と一緒にいる夢だった。しかし悲しいことに、自分の声以外には誰のしゃべり声も聞こえず、口を動かしているのは自分一人で、そしてやがてみんなの目は気色を含んだものから徐々に冷たい視線に変わっていく。そして最後には気づけばみんなが肉塊となっているのだった。



「ねえ!ねえってば!」



『ーーーー。』



「僕は少しだけ嬉しかったんだ。何一つ取り柄なんてない人生だったけれど、もしかしたら今度は・・・ってそう思ったんだ。」


「ーーーーー。」



「でも僕はトロールだったんだ。わかるだろ?あの間抜けづらのトロールさ!」



「ーーーーー。」



「恋もしたかったさ!そうさ!僕だって・・・許されたっていいじゃないか・・・。」


「ーーーーー。」



「誰かの役に立ったり、尊敬されたり、褒められたいよ。いろんな仲間と笑いあって、明日に期待したりして・・・なのに、なのに・・・」



「・・・・。」



「トロールだぜ!!まるで・・・まるで・・・”お前はトロールがお似合いだよ”って、そう言われてるかのようじゃないか!!!。」



{グシャ・・・グシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャ}



「要らないよ!生肉なんて・・・要らないよ!!!」




一面が真っ赤な血飛沫に染まっていく中で、一人だけ人間のままの姿を保った誰かがこちらをみているのに気づいた。その人は顔にモザイクがかかったように光が乱反射していて、はっきりと誰だかわからない。そして何かを呟くように口を動かしていた。


「なんか言ってくれよ!頼むから・・・頼むからさ・・・。」


女性は立ち上がってこちらに近くと、その度に、周囲に白い波紋が広がり徐々にヒビが入っていくようだった。ひび、正確にはそれはバツ印の集合だった。トロールの目の前数10cmの距離に来た時、周りには二人以外には何もなく、世界をX(バツ印)が覆いつくした。


そしてその女性は不意にトロールの手を掴んで口を開いた。

確かに音を伴って、トロールの彼に届く声で。






「アスナロ!」



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