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騎士団とトロールの湖畔の攻防((

 彼女は生まれた時より不思議なスキルを持っていた。それは最初に鑑定が行われた生後1週間の時のこと、鑑定スキルを持つものが、彼女を鑑定しようとすると突然それを辞めてしまうのだった。何度繰り返しても鑑定士はその瞬間にだけ意志を失い、彼女を鑑定することができなかった。その噂は新しいスキルの証拠として噂になった。

 


 そしてエンジュが5歳のある日、それは起こった。


「エンジュ様、お着替えを。」


「いーや!!」


給仕の女性が手に持っていたのはこの国では正装のような意味合いを持つ常盤色のローブだった。


「今日は名士様がいらっしゃいます。お嬢様にも是非お会いしたいそうですから・・・お分かりいただけますね?」


「わかるけどぉ・・・わからない!その服はいや!!」


「これを着るようにと主人様の言いつけです。」


「いやなのぉ!」


エンジュが嫌がる中、給仕はエンジュを押さえつけて上からローブを無理に被せようとした時のこと、振り払われたローブの裾が給仕に触れた時、生地そのものが肌と一体化した。皮膚の下、筋肉と癒着し、一才の継ぎ目なく、布が埋め込まれている。


「え?」


「いやったらいや!」


給仕の手をするりと抜けたエンジュがベッドに潜り込むのと、給仕が右腕の一部になったローブを見て意識を失うのは同時だった。そしてその日から、エンジュの石化が足先から進行し始めた。




**************




「エンジュ!もう少しだ!」


今となっては目だけが本来の輝きを保っているエンジュは返事もできずにただ瞳を閉じた。それがせめてもの返事だからだ。



「前方、およそ3kmで目標地点に着きます!平原、および泉の中に大型のトロール、1、2、3・・・・13体です!全部を敵に回すことは能いません!私が囮になります!!主人様はお嬢様を連れて泉に!!」



「・・・すまない・・・。」


馬車とエンジュの父である男を追い抜いて、騎士の一人が先行する。それに続いて後衛職の魔法使いが追いかける。先頭の騎士がトロールを引きつけると、食事とばかりに4m近いトロール達がそれらを血眼で追いかけはじめた。”ヌルマユ”に浸かっているトロールまでもが湯から上がり、こちらに向かってくる。それは誰の目にも絶望的な状況だった。




「大気に轟き、閃めくは炎の精、爆ぜよ、炎燦!」




{ジーーーーズドォォォン}




魔法使いは大型の爆煙で、攻撃と同時にトロール達の視界を奪う。肉を焼いたような匂いが漂う中、一同の耳にキーンという耳鳴りが響く。土煙の中を騎士が先行していくと眼前に現れたのは、表面が少し焼けた程度のトロールの群れだった。




「ふぎぎ〜。」



「やはり、ここのトロールは格が違うか・・・だがしかし!!」



 騎士をはるかに見下すトロールが伸ばす手は、裕に人一人を覆う大きさだった。騎士は刺突の形でそれを切り崩す。手応えが全くないものの、付与した腐食の魔法で、トロールの手がみるみる崩れていく。騎士は即座に前方を見やり、より多くのトロールの注意を引く方向へー


「ふぎ!ふぎ!ふぎ!!」


「なッー」


進むことはできなかった。並の魔物であれば腕はおろか、体まで腐らせる腐食の斬撃は脅威的な回復力でもって、すでにほぼ元通りになっていた。かすかに少し欠けた指が馬の後ろ足をつかんだ。馬から落馬した騎士は、即座に体制を立て直すものの、通常は動きの遅いはずのトロールがすでに眼前にまで迫っていた。


「逃げる・・・少しでも時間を稼がねば!!」




すでに10体ちかくのトロールに八方を塞がれているため、この状況で馬もなしに逃げ切ることは能わない。それでも騎士は必死で走る。後方から続く魔法使いが周囲に閃光の魔法をかけると、トロールはほんの数秒だけ動きを止めた。




「く・・・助かる!!主人様は!!」



 エンジュを連れた一団はトロールの合間を抜けて、すでに湖の手前まで迫っていた。湖から上がったばかりの数体のトロールが近づけば白魔法で拘束した。しかしそれも数秒程度で崩され、馬車の行く手を阻んでむ。つづいて槍の戦士が近づくトロールへ一撃ごとに渾身の力を加える。それでもまるで刃が通らず、間をすり抜けるのが精一杯であった。先のトロールにお見舞いした技も、動く大型のトロールに試みるのは自殺行為と言って過言ではなかった。そして馬車を守る後衛職の魔法使いは、必死に自信が届く範囲の仲間に身体強化の魔法と疲労回復の魔法を連続でかけ続ける。

 


 ある意味で一方的な攻防が数十分ほど続いた後、夜の訪れと合わせるようにあたり一帯は静寂に包まれた。




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