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領主様の一人娘は不治の病で虫の息

「ええい!クサツゲ達はまだ戻ってこないのか!?」


主人様(あるじさま)、これ以上は危険です。すでにクサツゲは落命したと思われます。我々にクサツゲ以上の手練れはいません。日が暮れる前に撤退の許可を!!」


「・・・。ああ、神よ、何故、後少し、あともう少しというところで・・・。あともう少しでエンジュの病が治るというに!!!」




トーヤコを見下ろす小高い丘の上、5名ほどの護衛に囲まれた主人と呼ばれた男は自らが乗る馬の上で祈るように、そして恨むように天を仰いだ。その時、エンジュと呼ばれた娘が馬車の陰から弱々しい声で父に呼びかけた。


「お・・・お父様・・・ごめんなさい・・・私・・・」






「いいんだエンジュ!お前が悪いことなんてなにもない!大丈夫だ後少し、あと少しで!」








「違うの・・・私・・・本当はー」




エンジュは言葉を言い終わらぬうちに、突然声を失い、辺りに沈黙が訪れた。



「エンジュ・・・エンジュ!どうしたのだ!?何か言ってくれ!エンジュ!!」



男は崩れ落ちるように馬を降り、服が乱れるのもかまわず幌をめくった。



「そ、そんな・・・石化が・・・石化がもう顔にまで・・・。」



エンジュの病は石化の類だった。服で隠れてはいるが、すでに首より下は鈍色の燃え尽きた線香のような色になっている。おまけに、ところどころが衝撃により崩れ、愛らしい顔に不釣り合いな痩せ細った体つきになっていた。



「私が先陣を行く。皆はエンジュだけを守ることに専念せよ。行くぞ!!」




「主人様・・・。」




一行は夕暮れに染まる丘の斜面を脱兎のごとく駆け下りた。











****************











「ふが!ふがふが!ふんがー!(あった!やっぱりさっきの人間も相当な手練れなんだろうな!この弓とかすごい達人のそれっぽいよー!)」



丘の下、温泉の辺りから暫く山間にいった場所では今しがたまで戦闘が繰り広げられていたのであろう。一帯の土が隆起し草が根こそぎ禿げ、血が飛び散った場所で散らばった布や荷物を漁っていた。




「ふんが!ふんが!ふぐぅ?(このカードどう見ても純金だよな!冒険者のギルドカードっぽいし、あの冒険者も”S級”とかなのかな!ドラゴンとかゴブリンとかぶっ倒して・・・いやでもおれの母さんに負けるんだから大したことないのかな?)」




 1匹のトロールは無残にも力で強引に切り裂かれたであろう金属や皮の装備の中から、比較的無傷だった濡羽色のマントを羽織った。元の持ち主はアーチャーだったのだろう。落ちている弓を手に持ち、近くに落ちていた矢を拾って試しに打ってみた。相当な強弓であったが、腐ってもトロール、力はそこそこ強く矢を放つ程度なら問題なかった。



「ふんが・・・(でも僕、トロールなんだよなあ。。。)」



トロールは肩を落とすと、近くに散らばるバラバラになった装備のうち、不思議な石の嵌められたネックレスの残骸や、引き裂かれた金属の黒いガントレット、ひしゃげた腕輪を拾った。数本の薬瓶が散乱しているが、これはもう使えないだろう。




「ふが!(よし今日も大漁大漁!)」



トロールは一通り漁り終わり、あたりを見回した。



「・・・んご?(・・・あれなんだろう?)」



 丘の上、目の良いトロールには黒い5つの点と、四角い箱のような物体が近づいてくるのが見えた。それは徐々に大きくなり、人だと気づく頃には、先頭の男の杖から光が徐々に大きくなるところだった。


「・・・流れでる泉・・・白昼夢・・・かの者を拘束せよ・・・白華鎖縛(はっかさばく)!」



「ふが!(生きてる人間だ!)」


トロールが気付いた時には時すでに遅く、トロールを中心に半径1mが白色の光に包まれ、草や土、ガラスや金属の表面・・・そしてトロールの体は継ぎ目のない綺麗な半透明の白色の結晶に包まれていくところだった。



「ふんが!(こ、これが魔法か!)」



 トロールの前方20mまで接近した人間の群れは、手に手に獲物を構えると、即座に攻撃陣形に移った。前方で小ぶりの盾と剣を持った騎士、その後ろに並び槍を構える戦士、そして更に先の魔法使いと馬車を囲む2人の後衛職。御者である女性は馬の手綱をぐっと引いてとっさの動きに備えているようだった。



「会敵!鑑定内容報告!種族・・・トロール!武器適正・・・なし!魔力耐性・・・土!保有魔力・・・微量!スキル・・・物理耐性、超回復、・・・ッ!そのほか、判別不能!加護・・・判別不能です!」




「ふがふが!?(なにそれ鑑定スキルですか、そうなんですね!?)」




 先頭の騎士が即座にトロールを解析している間、後衛の2人が同時に魔法を発動する。一人は強化魔法、残りのもう一人は何らかの回復魔法のようだった。その隙に槍の男が突撃してくる。トロールは力づくで白色の結晶を壊そうとするも全く歯が立たたず、それどころか少しでもかけたところはすぐに再生するといった始末だった。


「ッ!その服装!トロールごときがふざけやがって・・・クサツゲの仇!・・・戈儀:壊心(かぎ かいしん)!」



馬に乗った男の槍がまっすぐトロールの心臓を目掛けて迫る。その動きには一切の無駄がなく、槍は白色の結晶にまっすぐに突き刺さったかと思うと、嘘のように止まった。


「ふが?(なんかカッコつけたセリフの割に止まったけど?)」


一行はすでに警戒を解いて、武器を持つ手を下ろしている。


「ふぐぅッ!?」


トロールは突然の胸の痛みに襲われて、動かない口の中で悲鳴をあげた。何を隠そう槍が突こうとした位置、すなわち心臓の位置にあった組織を中心に体が粉々に砕けたからだ。


「報告!心部粉砕確認!行軍続けます!」


再び、一行が動き出すと、後に人型の結晶とその中で呼吸一つしないトロールの残骸だけが残った。



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