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009:蒼空色の少女

「あ、あのう……なにをしていらっしゃるんですか?」


 美咲ちゃんとギンコがまだ後ろでじゃれ合う最中、気弱そうに問いかける声が聞こえ、俺は声の主を探す。


 すぐに声の主は見つかった。


 俺たちがまだノックしていない家のドアが開き、今まさに一人の少女が外に出てくるところだった。


 快晴の空のように澄んだ蒼いショートヘアと新雪のように清く白い肌。髪色と同じ蒼い瞳を持った少女は、黒地に赤いリボンのセーラー服の上下に似た服装で革の靴を履いていた。


 年齢はたぶん、十四歳くらいだろうか。

 整ってはいるが、まだ幼さが残る顔立ちだ。


 使い古された言葉で言うなら、あれだ。

 お人形のように可愛い娘だった。


 美咲ちゃん待望の美少女である。


 どこか神秘的な印象の少女は、やや緊張した様子で、ゆっくりとこちらに近付いてくる。


 そして、彼女はもう一度繰り返した。


「そ、その、なにをしていらっしゃるんでしょうか? あの、その、し、下着っ、見えちゃってますよっ?」


 ちらりと後ろを振り返る。


 なんか楽しくなってきたのか、もはやスカートやワンピースが捲れることなど気にせず、互いの身体をくすぐり合っている幼馴染と神様の姿がそこにはあった。


 一瞬振り返っただけで、ふたり分の下着が結構がっつり見えた。


 なんつー格好してるんだ、この娘たちは。


 そんなふたりは、まだ蒼髪の少女に気付いた様子すらない。


 俺は片手で頭を抱えながら、蒼髪の少女へと声を掛ける。


「えっと、ごめん。ちょっと待っててもらってもいいかな?」


「は、はい。構いませんが」


 よかった。言葉通じた。

 しかも、いい娘そうだ。助かる。


 円滑かつ友好的にコミュニケーションが取れそうなことに一安心した俺は、もう一度ふたりの方に振り返り、言う。


「そろそろやめろよ、ふたりとも!」


 今度は白々しくなかった。

 マジのやつだった。



 ◆ ◆ ◆



「やぁやぁ、どーもどーも! はじめまして! あたし、美咲! よろしくね!」


「は、はい、美咲さんですね。よろしくお願いいたしますっ」


 こほん、と一度だけ咳払いをし、何事もなかったかのように元気よく、蒼髪の少女へと挨拶する美咲ちゃん。


 すげぇ。


 とてもさっきまでパンツ丸出しだったとは思えない堂々とした振る舞いだ。


 彼女のこういうメンタルの強さは、昔から素直に尊敬している。


「次はオレだな」


 おや、珍しい。


 わりと人間嫌いなところのあるギンコが自分から自己紹介する気みたいだ。


 ここ数年、俺たちと過ごしている内に、彼女なりに心境の変化があったのだろうか。

 友達として喜ばしい限りである。


「オレはギンコ。神だ」


「ちょっと待ちなさい、そこの銀髪幼女」


 がしっ、と後ろからギンコの両肩を掴む俺。


 不服そうに神様は俺を見上げた。


「なんだ、文句あんのか。オレ、今回はちゃんと名乗っただろ」


「ああ、うん。名乗ってんだけどさ」


 異世界で早々に神様ってワードを出すのは、さすがにどうなのさ。


 ほら、ファンタジーっぽい世界って宗教とか信仰とかデリケートな感じじゃん?


 嫌だぞ、俺。

 いきなり魔女裁判的なトラブル発生とか。


 恐る恐る蒼髪の少女のリアクションを待つ俺だったが、すぐに無用な心配だと悟った。


 蒼髪の少女は、軽く膝を曲げてギンコと目線を合わせ、微笑む。


「――ギンコさんは神様なのですねっ。凄いですっ。あ、ギンコさまとお呼びした方がよろしいですか?」


 ああ、小さい子の相手に馴れてるんだな、とわかる慈愛に満ちた対応だった。


 初対面の子供の自尊心を、万が一にでも傷付けないように配慮しているのがわかる。


 俺が昔、仮面ライダーに憧れていた頃に近所のおばあちゃんに向けられた視線とよく似ていた。


 想護ちゃんならきっとなれるよ、と言ってくれたミヨ婆。元気だといいなぁ。

 

「……おい、そうご。コイツ、なかなかいいヤツだぞ」


 この反応は予想してなかったのだろう。神様は少し動揺していた。


「それには同意するけど、初対面の人をコイツって呼んじゃいけません」


「いえいえ。気にしないでください。ちゃんと自分のお名前を言えるお利口(りこう)さんじゃないですか」


 なにこの娘。超大人じゃん。


 しかも、目付きの鋭さのせいで同年代の女子に怖がられることの多い俺にも笑顔を向けてくれている辺り、相当な人の良さだった。


 正直、異世界人とのファーストコンタクトが盗賊とか人さらいってパターンもあり得ると想定していたところに、これは感動すら覚える。


「えっと、そういやまだ名乗ってなかったよな。俺は秋葉想護。想護って呼んでくれると嬉しい」


「はい、わかりましたっ。想護さんっ」


 すっ、とそこで蒼髪の少女は立ち上がる。


 そして、彼女は膨らみかけの胸に片手を当てて、ゆっくりと名乗った。


「――申し遅れました。わたしは、アイリス・クーガーといいます。どうぞ、アイリスとお呼びくださいねっ」


 腰を曲げて頭を下げるアイリス。


 余所者の俺たちにずいぶんと腰が低い。


 最初は気弱な感じだったが、こちらに害意がないことを把握してくれたのか、あるいは女子供もいるからか。


 すでに警戒の様子はないように見える。


 むしろ、なんだろう。

 あまり感じたことのないタイプの視線を俺たちに向けているような……?


「あのう……もしかして皆さんは、その、別の世界からいらしたのでしょうか?」


「うん。そうだよ。あたしたち、地球の日本ってとこから来たの。アイ、フロム、チキュウノニホン」


 アイリスの問いかけに、ふざけてんだか真面目なんだかわからない感じに答える美咲ちゃん。


 すると。


「『チキュウ』……! 『ニホン』!?」


 アイリスは、なぜか少し興奮した感じで華奢な右手を差し出してきた。



「――あのあのっ! ファンですっ! あ、握手してくださいっ!」



 そのあまりに意外な発言に。



「「「……へ?」」」



 俺たち地球組は、三人仲良く間抜けな声を漏らすのだった。

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