004:ともだちは神様
銀髪紅瞳の幼女、ギンコ。
五年くらい前まで、とある寂れた神社に封じられていた、人の姿を得た神狼。
そんな彼女は俺の友達だ。よく遊ぶ。
主に小学生男子が好きそうな遊びで。
具体的には、ベイブ○ードとか遊○王カードとかで。
だいたい俺が負けるけど。
ちなみにギンコという名前は、彼女の封印を美咲ちゃんとぶっ壊した後に俺がつけた。
ギンコと俺を出逢わせた師匠は《銀狼》と呼んでいたけど、女の子の呼び名としては可愛さに欠けるし、あんまりだと思ったからだ。
正直言うと、いまだに俺はギンコのすべてを知っているわけじゃない。
なんか色々凄いことができるのは知っているが、そのぐらいだ。
でも。
「んっ! そうご、んっ!」
なにかを期待するように、手のひらをこちらに差し出すギンコ。
外見相応の幼さを感じさせる、その表情に俺は改めて思う。
あの日、ギンコを封印から解き放ち、友達になったことは決して間違いではなかったと。
「なんだ、お菓子欲しいのか?」
「わかってんじゃねーか。ちょこだ、ちょこ。ちょこれいとを寄越せ。そしたら、知恵ぐらい貸してやんよ」
「へいへい。わかったよ、神様。ちょっと待ってくれ。今出すから」
「うむ。くるしゅーない、くるしゅーない」
神様としての威厳より可愛らしさが勝っていたが、そこには触れない。
どういう訳か、ギンコは俺の知らない情報を持ってそうだし、素直に好物のチョコレートを差し出すのが賢明だろう。
元々、ギンコにあげるために色々とお菓子を常備しているのだ。
貢ぎ物ってほどじゃないが。
えーと、確か……。
通学に使っているリュックの中に――
ん? リュック? あれ?
あれあれ?
俺の背中にはぐっすり寝ている美咲ちゃんだけで、本来あるべきリュックがないことに今更気付く。
……これは、うん。間違いないな。
「……神様、残念なお知らせだ」
「どうした、そうご。顔が悪いぞ」
「言い方ァっ!」
「ごめん。間違えた。そうご、顔色が悪いぞ」
素直に謝れるいい娘だった。
そんな彼女にこんなことを言うのは、凄く心苦しい。
「……荷物、最初の場所に忘れてきた」
「このアホめ!」
「すまん。返す言葉もない」
寝転がる時に邪魔だからその辺に置いて、ステータスオープンできないことに絶望した美咲ちゃんを励ましてる内に完全に忘れていた。
たぶん、美咲ちゃんの荷物もそこにある。
貴重な所持品をスタート地点に置いてくるとか、出だしからやっちまった感が凄い。
師匠がいたら、なにされるかわからん。
「取ってくるよ。さすがに無くしたままにするわけにはいかないし。数学の宿題も入ってるんだ」
「オマエ案外余裕あるよな」
「そりゃな。美咲ちゃんもいるし、ギンコもいるならなんとかなるだろ」
呆れ顔の神様に素直にそう答えると、ギンコは一瞬だけ虚を突かれたような表情になった。
直後、ぷいっ、と顔を背けて。
「ふふん、まー、そーだよな! オレ、神だからなー! 頼りになっちゃうからなー!」
なんか露骨に上機嫌になった。
別にご機嫌取りのつもりは、なかったんだけどな。
「しょーがねーな! オレが取ってきてやるよ! そうごはみさきと待ってな!」
「え、あ、おい! 場所わかるのか!?」
言うが早いか、サンダルの足でダッシュするギンコの背中に問いかける。
神様は振り返って、愚問だという風に笑った。
「オマエの汗の匂いでわかる!」
「だから言い方ァっ!」
普通に俺の匂いで良いだろうに!