003:自称神様の降臨
「……うぅ、異世界に来たのにステータスも開けないし、チート能力も貰えないなんて……これは詐欺だよ。やり直しを要求するよ、想護くん」
「そんなこと言われてもな」
「あたしは『サヨナラ男』とか『重い球』が欲しかっただけなのに」
「なんで真っ先に出てくるのがパ○プロくんの特殊能力なんだよ。普通にサクセスやれよ」
「球速も知りたかったのに」
「帰ったらスピードガンで計測しなよ。手伝ってあげるから」
ボケてるんだか本気なんだかわからないテンションの美咲ちゃんをおんぶしつつ、俺はのんびり歩く。
ステータスとかチートのことはともかく、ここがどこかは確かめる必要がある。
そのためにも、とりあえずは人を探して移動することにしたのだ。
「……想護くん、眠い」
「寝てもいいよ。しばらくはゆっくり歩くから。なにか見つけたら起こすし」
「うー、もうちょい頑張る……」
「別にそこは頑張らなくていいのに……」
おねむな美咲ちゃんは可愛いのだが、なんなら一回軽く寝て、早く覚醒して欲しい。
いつもの美咲ちゃんなら、もっと頼りになるからな。
……ただ、まあ。
美咲ちゃんがこんな状態だから逆に俺が冷静になれている部分もあるんだけども。
今更ながら下校中にいきなり草原にワープとか、なかなかの異常事態だからな。
今までもいろいろな事件やら騒動に捲き込まれてきた俺たちだが、さすがにこのパターンは始めてだった。
寝て起きたら外国にいたことはあったが。
そして、それは師匠の仕業だったけれど。
さすがに今回は違う気がする。
なんにせよ、背中でむにゃむにゃしてる美咲ちゃんの存在はとてもありがたい。
捲き込まれたのが俺だけだったら、もっと不安だったことは間違いないからな。
寝不足で若干幼児退行気味の幼馴染に内心で感謝しつつ、俺はゆっくりと前に足を動かすのだった。
◆◆◆
しばらく歩いたところで、ついに美咲ちゃんは可愛らしい寝息を立て始めた。
とうとう限界が来たらしい。
ゲームで目を酷使した上に授業中も寝ないように頑張ってたし、無理もない。休み時間にでも寝ればよかったのにと思わないでもないが、そこは彼女にも学校でのイメージというものがある。
仕方ない仕方ない。
できれば、早めにあったかいベッドで寝かせてあげたいところだが――不安がひとつ。
「……そもそも人に会えたとして、言葉通じるのかな」
『その心配はいらねーと思うぜ、そうご』
独り言のつもりだったが、反応があった。
美咲ちゃんじゃない。彼女はまだ寝てる。
それに彼女の声は、こんなには幼くない。
脳内に直接聞こえたその声の主に、少し驚きながらも俺は言葉を返す。
「……ああ、いつの間にか俺の中に入ってたのか、神様」
『おう、オマエが今朝起きる前にな』
「朝から姿が見えないから散歩でも行ってるのかと思ってたよ。俺の中でなにしてたんだ?」
『寝てた』
「……………………」
おまえもか。おまえもなのか、神様。
『みさきとゲームした後、眠かったからオマエが起きる前に潜ってな。オマエの中、静かだから寝やすいんだよなー』
「そうなんだ」
『おう。みさきの中はだめだ。ありゃ、うるさくて寝てらんない』
「言わないでやってくれ。悪い娘じゃないんだ。賑やかなだけで」
『知ってるよ』
「そっか」
『うん、そうだ』
「ところで、神様よ」
『うん?』
単刀直入に、俺は訊く。
「ここ、どこか知ってんの?」
『まぁ、検討はついてるな』
「帰れる?」
『すぐには無理だろーな』
「マジか。無理かー」
『けけけ。安心しろ、そうご。少なくともオレが知ってる世界なら、オマエでも言葉くらいはわかるはずだからよ』
そんな意味深な台詞と同時に、俺の胸の辺りから銀色に光り輝く球体が飛び出す。
光はすぐに小さな人の形を作り、数秒後には一人の幼女が俺の前で不敵に笑っていた。
腰まで伸ばした銀髪に、お伽噺に出てくる宝石のような真紅色の瞳。首には黒いチョーカーを巻いて、白いワンピースにサンダル履きの彼女は、八重歯……失礼。本人曰く自慢の牙を見せて、腕組みしながら薄い胸を張る。
いや、見た目八歳かそこらだから、薄くて当然なんだけど。
「――とりあえず、おはよう。ギンコ」
「おう。おはよー、そうご」
彼女の名前はギンコ。
自称神様で、俺の友達である。
推定異世界に自称神が降臨した瞬間だった。