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017:幼女神は創造する

 俺たちがちょっとしんみりしながら洗い物を終えて、戻ってみると。


「オレのたーんだな。けけけ、みさき。オマエはこれで終わりだ」


「おいでよ、ギンちゃん。あたしがそう簡単にやられると思ったら、大間違い――」


「ほれ、こっちが当たりだろ。またオレの勝ちだぜ、けけけ」


「ノォォォォォォ!」


 幼馴染と神様がトランプで遊んでいた。


 ジョーカーを片手に握ったまま美咲ちゃんが敗北に震えている辺り、やっているのはババ抜きのようだ。


 しかし、一対一のババ抜きでよくそこまで盛り上がれるな。


 ふたりでやるなら、ポーカーとかスピードのがよくないか?


 ちなみに、ギンコは膝立ちで椅子に座ることで座高をカバーしていた。


 まあ、美咲ちゃんの膝に座ってたら位置的に手札丸見えだしな。


「おっ、戻ってきたね。ふたりともっ、お疲れ様でした!」


「オマエらもさっさと席につきな。雑魚の相手にゃ、飽き飽きしてたんだ」


「なんか今日ギンちゃん、あたしに当たり強くない!?」


 まさかの雑魚呼ばわりに、ショックを受ける美咲ちゃん。


 さっきまで俺が座っていた席はギンコに取られてしまったので、俺は美咲ちゃんの対面の席につく。


 俺の隣に座ったアイリスが、トランプを興味津々の様子で眺めていた。


「それは、地球のカードゲームですか?」


「そうだよー! ギンちゃんに用意してもらったの。ルール教えてあげるから、アイリスちゃんも一緒に遊ぼ! もちろん想護くんも」


「わぁ……! 嬉しいですっ!」


 美咲ちゃんのお誘いに目を輝かせるアイリス。


 よかった。元気になってくれて。


 まだまだ夜は長いし、のんびり遊んじまおうぜ、アイリス。


「けけけ。覚悟しな、オマエら。闇のげーむの始まりだぜ」


「やめろ、神様が言うと洒落にならん」


 ◆ ◆ ◆


 みんなでババ抜きをし始めてから、しばらくが経ったところで。


「――あっ、もうこんな時間なんですねっ」


 壁掛けの時計を見て、アイリスが少し驚いた様子でカードを置く。


 その手に握られていたのは、ジョーカー。


 今回のゲームは、彼女の負けで終わったのだ。


「まあ、結構な回数遊んだしな」


 俺も右に同じく時計を見てみると、夜の十時を少し回ったところだった。


 皿洗いが終わったのが八時過ぎだから、二時間くらいは遊んでいたことになるな。


 ちなみにアイリスに聞いたら、ウルドガルドも地球と同じで一日は二十四時間らしい。


 俺の左手の腕時計も、すでにこの世界の時計に時間を合わせ済みだ。


「そろそろ、お風呂に行きましょうか――みなさん、今日は泊まっていってくださいっ」


「……いや、さすがにそこまで甘えるのは――」


 アイリスの提案は、とてもありがたい。


 しかし、独り暮らしの女の子の家に初対面の男が泊まるわけにはいかないよ。


 そう言おうと、思ったのだけれど。


「お風呂っ!?」


 あ、ヤバい。

 美咲ちゃんがお風呂イベントに食い付いてしまった。


 美咲ちゃん、風呂好きだしな。


「それはあれだよね? アイリスちゃんも一緒に入るってことで、いいんだよね?」


「え、ええ……美咲さんがよろしければ、ご一緒させて頂きますけど……」


「yes! yes! yes!」


「美咲さん!?」


 リズムに乗って、三連続ガッツポーズを決める美咲ちゃんと戸惑うアイリス。


 それを横目に、こっそりとどこかに行こうとするギンコ。


「――じゃ、オレはこの辺で……」


「おっと、逃がさないよ。当然、ギンちゃんも一緒に入るんだからね」


「嫌だ! みさき、長風呂な上にベタベタくっついてくんだもんっ!」


 美咲ちゃんに、がしっと腕を掴まれ、捕獲される神様。


 まあ、ギンコの気持ちもわからなくはない。


 昔、俺も一緒に入ったことあるが、美咲ちゃん、確かにわりと身体寄せてくるんだよな。


 湯船の大小に関係なく。


 男の子的には複雑だ。


 ……というか、これ、完全に風呂入ったら、そのまま泊まる流れだよな。


 ……んー。


 ちょっとだけ考えて。


 ま、いいか。

 と、俺はお誘いに乗ることにした。


 アイリスの方から言ってくれているのだから、無理に断るのも逆に失礼だし。


 アイリスとふたりきりなら、ともかく、美咲ちゃんやギンコもいるのだ。


 感謝はするが、変に意識する必要はないだろう。


 正直、ちょっと眠くなってきたし。

 汗を流したい気持ちもある。


 それに。


 実は俺も案外、風呂好きなのだ。


 ◆ ◆ ◆


 アイリスの家を出て、少し歩いたところに露天風呂があるそうなので、そこまで移動する俺たち。


 立派な脱衣場もあるらしい。


 ちなみに着替えやらなにやらは、アイリスが支度している間にギンコに作ってもらった。


 説明しよう。


 なんか凄い神様であるギンコは、自分の髪の毛に神様パワーを注入することで、いろいろな物を創造できるのだ。


 俺は、ジャージの上下とかトランクスタイプの下着とかを作ってもらった。


 美咲ちゃんの話では、さっきのトランプも、これで作ったらしい。


 桶だとかタオルだとか、やけに充実したお風呂アイテムを見て、アイリスは「想護さんと美咲さんのカバンにはたくさん物が入るんですねぇ……」と感心していた。


 ちょっと罪悪感。


 ああ、一応言っておく。


 ギンコは、きちんとアイリスの分も作ってあげていた。


 さすが神様、優しい。


 アイリスは、大喜びでお風呂セットを受け取っていた。


 ◆ ◆ ◆


「では、想護さんはそちらの扉に入ってくださいっ。わたしたちはこちらですので」


「ああ、わかった。ありがとな、アイリス」


 案内してくれたアイリスに一言お礼を言って、男用の脱衣場の扉に手を掛ける俺。


 男女別でよかった。


 ウルドガルドは混浴が一般的とか言われたら、どうしようかと。


 主に思春期男子的な理由で。


「ねぇ、アイリスちゃん。中で繋がってたりしないの?」


「ちゃんと男女で別れていますよ」


「そっかー。混浴じゃないのかー……」


 なんで俺よりも美咲ちゃんが残念そうなんだろう。


「あ、想護くん。今日は覗いちゃダメだよ。アイリスちゃんいるんだし」


「……美咲ちゃん、俺が日常的に覗きをしているみたいな言い方はやめてくれ」


 不名誉極まりない。


 確かに何回か覗いてしまったことはあるが、あれは事故だ。


 俺の抗議に美咲ちゃんは、「ごめんごめん」と気安い感じに笑い、手をひらひら振った。


「冗談だよ。じゃ、後でね」


「想護さんも、ごゆっくり」


「ああ、のんびり入らせてもらうさ」


 美咲ちゃんとアイリスにそう返して戸を開くと、サッとそこに入り込む小さな影がひとつ。


「ほら、いこーぜ。そうご」


 神様、そっちは男湯だ。


「はいはい、ギンちゃんはこっちねー」


「ちくしょう、バレたか! 離せー!」


 ……頑張れよー、ギンコ。


 美咲ちゃんに脇の下を掴まれ、ずるずると女湯に引きずられてゆくギンコを見送って。


 俺はひとりで男湯に入るのだった。

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