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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
カシシュミナ学園、入試試験
9/92

弱き者と強き者

 森の中を歩く二人の姿があった、リズとモモだ。


 高段差があまりなくほとんど平坦の地形に短い草が生い茂り、そこまで木の数も多いわけでもなく散歩するにはちょうどいい森だ。そのような森で気持ちのいい木漏れ日が差し込んでいるためか、はじめは急いで走っていたが今は緊張感を感じさせず、まるで街中を歩くかのように歩を進めていた。


「うーん、なかなか出てこないね」

「そもそもこの森ってどれだけ広いんだろうね? かなりの広さっぽいけど……」

「下手したら全く出会わないまま試験終了してたりしてね」

「えー、それはさすがにご勘弁だよぉ」


 などとたわいも無い会話をしながら歩いていると茂みからがさがさと音がする。二人はとっさに武器を身構える。


 ガサァ!


 一際大きな音と共に何者かが転がり込んできた。




 一本の矢が飛ぶ。


「くっなかなか捕らえられない……」


 そう呟くのは緑色の民族衣装をまとい、弓をかまえた金髪の耳の長いエルフ族の少女だった。

 その目線の先には木々の枝を跳ね回る小さくすばやいゴーレムがいた。土で出来ているため茶色く所々に魔術的な模様を施し、楕円形に手足と落書きのような目と口をつけたようなまぬけな姿だ。

 先ほどから追いかけつつも狙いを定め矢を放つが当たらずにやきもきしていたところだ。


 バシッ!

 

 衝撃音が響きゴーレムの動きが止まる。その隙を見逃さず矢がゴーレムを射抜く。


「やった!」


 エルフ少女の顔にぱっと明るい笑顔の花が咲いた。

 今まで動いていたゴーレムは崩れ、中からピンク色の魔石が出てきた。その魔石を拾い上げながら〈でも一瞬動きが止まったのは何でだろう〉と思考をめぐらせた時、一人の女性が現れた。


「やあ、君かい、そのゴーレムを追いかけていたのは?」


 ショートヘアで男性的な印象も受ける声質ではあるが、ぴちぴちの黒い皮のボディスーツに包まれたその身は引き締まっていて筋肉質、しかしウエストは細く、胸は大きく大人の女性らしい色香を漂わせている。


「あっ、はっ……はい」


 思わずどぎまぎしながら答えるエルフ族の少女。ひらひらした服装ではあるが胸の辺りがだいぶ寂しい、本人も気にしているのだろう、とっさに腕で胸を隠してしまった。


「余計なことをしてしまったかな?姿を見かけたのでとっさに攻撃してしまった」


 そういう彼女の手には鞭が握られている。先ほどゴーレムの動きが止まったのもこの鞭での攻撃が当たったためだろう。


「いえ、助かりました。なかなか攻めあぐねていたので……」

「そっか、それならよかった」


 微笑むその笑顔にエルフの少女はまたもやどぎまぎしてしまうと、女性は片手を上げ立ち去ろうとする。


「それじゃ、わたしは他のゴーレムを探しに行くよ。」

「あ、あの……助けてもらったのでわたしもお手伝いしてもいいですか?」

「本当?うん、それならありがたい、わたしの名前はガルシア・セレクレア、よろしく頼むよ」


 そういって片手を差し出す。


「わ、わたしはルルティア・アロート……み、見てのとおりエルフ族です」


 差し出された手を握り、長い耳を真っ赤にさせ自己紹介をすませる。緊張のせいなのか耳がピコピコと上下に揺れる。


「ふふっ、かわいい耳だね。ルルティアか……じゃあ『ルル』って呼んでいい?」

「か、かわいい? ……は、はい……」


 ガルシアがまるで王子様かのようにキラキラと輝いて見えていたルルティアは、今度は顔中真っ赤にさせ頭が沸騰してしまった。




「ご迷惑おかけしましたっす!」


 大声でそう叫んだのは先ほどリズとモモの前に転がり込んできた人影だった。イノリと名乗った少女は何者かに襲われ逃げてきたのだという。

 そこでリズとモモが様子を見に行ったところ、出てきたのは狐だったという顛末(てんまつ)である。


「てっきりゴーレムに襲われたかと思ってつい逃げてしまったっす」

「あははは、何事もなくてよかったね」


 そう答えたのはモモだった。


「自分もお二人と行動を共にしていいっすか? 今度ゴーレムにあったら自慢の剣技をお披露目するっす!」


 基本的にイノリの声は大きい。その申し出にリズとモモは顔を見合わる。


「……うん、いいけど」

「やったっす。この二人がいれば今度こそ……」


 そういった矢先、三人の近くで火柱が上がる。


「ひゃぁ!」

「魔法タイプのゴーレムか?」


 イノリが悲鳴を上げ尻餅をついた横でリズが身構え、敵の姿を確認すると左腕につけた盾を前に身構え突進していく。


「たぁ!!」


 次の魔法を使われるより先にリズの剣がゴーレムに届く。しかし腕を切り落としただけで、痛みを感じないゴーレムは躊躇なく口から火の玉を吐き出してくる。


 その火の玉がリズに直撃した ― かのように見えたが、間一髪盾で防いでいた。


 熱気が肺まで届きむせるのを我慢し、剣を握った右手を振り上げ渾身の一撃をゴーレムの頭に加える。

 切り裂かれたゴーレムはボロボロと崩れ、ただの土くれに戻ってゆく。


「よし、魔石ゲットー!」


 モモとイノリに向かってピースサインし、笑顔を向ける。


「…………」


 モモも笑顔で答えたがイノリは先ほどの火柱に驚いて尻餅をついたままだった。


〈い、今のはいきなり火柱なんて立つからびっくりしただけ、次こそ……〉


 イノリが心の中で自身に言い聞かせてるとバキバキという音が聞こえてくる。


「な、何か来るっす」


 バキバキという音はリズたちのいる方向へ近づいてくる。

 そして木々をなぎ倒して現れたのは八メートルはあろうかという巨大なゴーレムだった。


「な、何だコイツ。こんなの聞いてないっす」

「君は闘わないの?」


 イノリは動揺を隠しきれずガタガタと震えている、そのイノリにモモは尋ねる。その表情からはなんの感情も読み取れない。


「こんな大きい奴無理っすよ。に、逃げるっすよ!」

「ふーん、やらないならわたしがもらうね」


 にこっと微笑み、身の丈ほどもあろう大剣を構える。

 そして瞬時にゴーレムまでの距離をつめ、攻撃をしかける。その動きはまるで巨剣など持っていないかのように身のこなしが軽い。


 ゴーレムに大きな傷をつけるが、その大きさゆえに致命傷とはならないようだ。

 続けて斬りこもうとするがゴーレムは太い腕を振り下ろし反撃する。とっさに狙いを変え腕を斬りおとし、一旦距離をとる。


「巨体なのに意外とすばやいなぁ……」


 一旦距離をとったのが仇になった。ゴーレムの口から先ほどのゴーレムよりも大きな火の玉が吐き出される。


「うわっ」


 とっさに巨大な剣を盾に身を隠す。


「えー魔法?てっきり攻撃か防御に秀でた近接タイプかと思ったのに」

「うーん、いろんなタイプが混ざってるのかもね、わたしも助太刀するよ」


 いつのまにか隣にリズが立っていた。


「うん、助かるよ、一人じゃ厄介そうだ」


 にっと笑いながらそう答えると、攻守を入れ替えはじめての共闘とは思えないほどの連携でゴーレムを攻め立てる。



〈すごい、この二人なんでこんな大きい奴に立ち向かえるっすか? 自分だって……自分だって必死に剣の練習してきたのに〉


 イノリはぐっと唇を噛んだ。



「なんだか手ごたえがないね」


 再び距離を置き一息ついたリズが言った。


「うん、見て」


 モモはそう言って先ほど斬りおとしたゴーレムの腕を指差した。

 リズが目を向けると、いつの間にか腕が元に戻っている。よく見ると他の傷もどんどん塞がっていく。


「えー、どういうこと?」

「どうやらこのゴーレム自動で修復する機能までついてるみたいね」

「うわー、それは卑怯だよー」


 しかめっ面をしたリズだが、どこか余裕を感じさせられる。その表情を見てイノリは決心した。


「じ、自分も闘うっす!」


 そう言うや否やイノリはゴーレムに向かって突進していき思いっきり剣を振り下ろした。


 ずぼっ


 鈍い音と共にゴーレムの身体に剣が食い込む。


〈あの二人は簡単に斬り裂いてたのに……〉


 イノリの顔に動揺が広がる。その隙にゴーレムの腕がなぎ払われる。


「あ、危ない!」


 リズがイノリの前に飛び込み盾で防ぐが、巨体から放たれる攻撃を受け止めきれず二人は吹き飛ばされ、近くの木にたたきつけられてしまう。


「リズっ!」


 モモが叫ぶ


「いつつ、わたしはなんとか大丈夫。だけどイノリが……」


 リズは一緒に吹き飛ばされたイノリを抱え、起き上がりながら応じる。イノリに動きは無く、どうやら気絶してるようだった。

 その様子にモモの目の色が変わる。


「やってくれたな」


 そう言うと構えた剣に炎が宿る。


 再度ゴーレムに向かい駆け出すモモ、そこにまってましたといわんばかりに再度火の玉を吹き出した。

 その火の玉をくるりと身をひるがえし斬り裂き、距離をつめゴーレムの身体に刃を突き立てる。すると剣に宿っていた炎がゴーレムに移ってゆく。

 剣を引き抜き、炎が大きな身体を包み込むと乾き、白くなって音を立てて崩れていく。


「これなら自然回復も間に合わないでしょ」

「すごーい、今のって魔法剣だよね、はじめて見た」


 イノリを抱え近づいてきたリズは目を輝かせて言った。


「うん、まぁね。……この剣は特別でね魔法を吸収して扱うことができるんだ」

「そっかー、だからこんなに大きくなっちゃったんだね」

「いや、大きさは関係ないんだけどね……」


 モモが頬をかきながら苦笑いをしてるとイノリが目を覚ました。


「ん……」

「目が覚めたんだね、大丈夫?」

「……うん、大丈夫っす」


 先ほどまで無駄に大かった声に全く張りが無く弱弱しい。


「魔石どうしよっか?イノリちゃんいる?」

「自分にはもらう資格なんてないっす。しゃしゃり出て迷惑かけただけでリズさんにまで怪我させてしまって……」


 燃え尽きたゴーレムの土くれの中から魔石をとりだしながらモモが尋ねると、ぶんぶんと大きく頭を左右に振り断る。


「わたしのお父さん、魔物に殺されたっす。その仇を討ちたくていっぱい、いっぱい練習もしたはずなのにぜんぜん……実力不足だったし勇気もなかった。二人を見て痛感できたっす……」


 イノリの目から涙がこぼれる。


「自分は棄権するっす」


 イノリが一呼吸置いてからそう告げるとリズが言った。


「そっか……他の家族はいるんでしょ?その人たちを大切にしてあげて」

「うん、ありがとうっす」


 そう言ったイノリの顔は妙にスッキリしていた。

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