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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
部活に入ろう!
88/92

『内気功』「外気功」

 パイは持てる格闘技術を使いローレムを圧倒していた。


「上級生の実力はこんなものアルか!?」

「生意気言ってられるのも今のうちだ!」


 ローレムの大振りがパイの鼻先をかすめる。


「お前の能力はガルシアから聞いてるアル。ダメージを受けると力が強くなるって、でもそんなの当たらなきゃ意味ないアルな!」


 捻じらせた拳がローレムの腹にめり込む。


「かはっ!!」


 あまりの衝撃に胃液が漏れる。

 しかしローレムは倒れることも、膝をつこともなく、口を拭う。


「けっ、確かに武道家だけあって大した技術だよ。オレじゃ勝てそうにない……」

「ずいぶんあっさりと負けを認めるアルな?」


 パイは拍子抜けしたようにキョトンとしてしまう。


「誰が負けを認めたよ? 今のオレじゃ勝てないってことだよ」

「今の? 何を言って……」

「おおおおぉぉぉぉ!!」


 パイが言いかけた時ローレムが唸り声をあげ、様子が急に変わる。毛は逆立ち、目が獣の目になる。身体が大きくなり、髪と同じ雪のように白い毛が生え揃い、ところどころに黒い虎模様が浮き上がる。


「これは……」

「ああ、ウルの時と同じだ」


 ローレムの変化に目を見開き、言葉を漏らしたのはアナとオウルだ。ヴァーロでの戦闘の際、獣化して暴走してしまったウルの姿はまだ記憶に新しい。

 その姿を思い出すやアナは咄嗟に声を荒げてしまう。


「まずい! 暴走するぞ!!」

「しねーよ、暴走なんかな」


 答えたのは変化したローレム本人だった。


「自分の能力ぐらい自在に扱えるさ、じゃなきゃこんなところで獣化なんてするかよ」

「なんだかよくわからないアルが、これからが本番ということアルな?」


 パイは果敢に攻め込む。しかしローレムはガードもせずに受けきる。回し蹴りが首筋にクリーンヒットするも、痛がるどころか口角を持ち上げ不敵な笑みを浮かべた。


「そんなものか、全くダメージねぇな……」

 



「まだ何か切り札を隠してるとは思っていたが、ここまでとは……」


 そう言葉を漏らすのはローレムと戦い負けたガルシアだった。獣化をしていない状態でも敗れた上こんな隠し玉まで持っていた事実に唇を噛みしめる。


 もう一人複雑な心境の者が呟く。


「こんなにも自在に獣化を操れるのか……」


 ローレムと同じ獣人のウルだ。怒りのあまり獣化し暴走した挙句、仲間を危険に晒した責任をずっと気にしていたのだ。

 悔しそうでもあり、希望を見出したようでもあり、素直な性格のウルは心境が表情にも表れていた。




 パイはひとまずローレムとの距離を置き呼吸を整えていた。


「全くダメージがないとは驚きアルな」

「ああ、獣化は身体能力を飛躍的にアップさせるからな、じゃあそろそろこっちもやり返そうかねぇ」

「待ちなさい」


 動き出そうとしたローレムを制止する声が聞こえる。その声の正体はアスカのものだ。


「これはあくまで部活紹介の一環です。これ以上はやりすぎになります」

「あぁ、オレは殴られただけじゃねーか。まだオレの実力は示してねーぜ」

「だからそれを示せばやりすぎになるといっているんです!」


 アスカが語気を強めるとローレムも面白くなさそうな顔をする。

 そんな一触触発的な雰囲気を壊すようにパイも口を開いた。


「勝手に決めないでもらえるアルか? わたしもようやくあったまってきたところアル」

「……本人がそう言うならいいでしょう。余計な口を挟み申し訳ありません」


 いつでも止めに入れるよう、手合わせをしている二人に近寄っていたアスカだが踵を返し周りの者達の元まで下がっていった。


「だってさ、生意気な後輩でオレも嬉しいぜ……じゃあ続きを始めようか」


 ローレムが一気に詰め寄り拳を振るう、パイはそれを両腕でガードするが吹き飛ばされてしまう。

 だがローレムの追撃は止まず、膝を腹にめり込ませると、今度はパイが胃液を吐いてしまい膝をついてしまう。


「おいおい、さっきまでの元気はどうしたよ?」


 台詞だけを聞くと完全に悪役である。ローレムはさらにパイのお団子頭を掴み無理やり立たせると今度は頭突きを見舞う。


「くっ!! 調子に乗るなアル!!」


 まだ頭を掴まれたままのパイは顎を蹴り上げ、自由に動けるようになると、再び距離をとる。


「ほんとにパワーもスピードも桁違いアルな……」

「だろ? ギブアップするなら今のうちだぞ?」


 ローレムは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「誰がっ! そのニヤケ面消してやるアル」


 パイは大きく息を吐くと、だらんと腕が垂れる。その様子を見てローレムは不審そうに眉をしかめた。


「なんか、様子が変わったか?」

「……わたしも変身したんだよ。まだ完璧に使いこなせているわけじゃないけどね」

「変身したって……しゃべり方が変わっただけじゃねーか!!」


 ローレムは飛び跳ね拳を振るうが、その拳は空を切る。

 その後も立て続けに何度も何度も拳を振るうが、パイの身体はまるで風に舞う木の葉の様にふわりふわりとぎりぎりのところで避け続ける。


「さっきとは動きが違うな!」

「……ああ、ミコトさんから教わった呼吸法だよ。身体機能と感覚が研ぎ澄まされる」


 パイの(てのひら)がローレムの腹部にぴたりと触れる。

 次の瞬間、ローレムの身体が吹き飛ばされ木に激突してしまう。


「くそっ、何しやがった!!」

「『気』をつかって押しただけだよ。内臓にダメージを与える危険技は禁止されているから本気は出せないけどね」


 ローレムは立ち上がり、腹を押さえている。


「……『内気功』ってやつか?」

「詳しいな……お前もかじっているのか?」

「ああ、ただしオレは『外気功』の方が得意だがな!」


 そう言うと同時にローレムの指から獣特融の爪が伸びる。その爪に気を込め、空を裂くと斬撃が飛ぶ。


虎の爪(タイガーファング)

「!!」


 意外な攻撃にパイの反応がわずかに遅れてしまう。それでも身を翻し直撃は避ける。


「驚いたな、まさか斬撃を飛ばすことまでできるなんて……」

「パ、パイさん胸、胸!!」


 突然外野からルルティアの叫ぶ声が聞こえる。

 何のことかとパイは自身の胸を見下ろしてみると、衣服が破け、形のいい右胸が覗いていた。


「なな、なんでアリュかぁぁ!!」


 パイはうろたえ慌てて胸を隠す。呼吸が乱れたせいか言葉遣いが元に戻っていた。


「そりゃ、さっきの斬撃がかすったから破けたんだろ? そんなことより続きやろうぜ!」


 もう戦いどころではないパイとは裏腹に、ローレムのやる気は全く衰えていない。


「バ、バカかお前は! こんな格好でやれるわけないアル!」

「バカはそっちだろ! 女しかいないのに恥ずかしがる理由があるか!! 戦え!」

「そういう問題じゃないアル! 無理アル!」

「乳ぐらいなんだ! おもしろくなってきたところだろうが! このままじゃ不完全燃焼だぜ!!」


 パンパンと手を叩く音が響く。

 言い争っている二人が振り向くとそこにはミコトが立っていた。


「気になって見に来てみたけど、もうその辺でいいだろ。あくまでこれは演習の範囲内のはずだ」


 ローレムはミコトを睨みつけ、低く唸る。


「あんたとは初めて顔合わせだな、新しい格闘の教員だろ? この晴れねぇモヤモヤ、あんたで解消してもいいんだぜ」

「ローレムだっけ? 聞いた通りの暴れん坊だな……こいよ。お前を大人しくするには実力行使が一番だってのも聞いている」


 挑発を返され、すぐさま反応した白い獣はミコトに襲い掛かる。

 爪を避け懐に潜り込むと一閃、ミコトの掌底が顎を撃ち抜くと白目を剥きローレムは崩れ落ちてしまった。

 その様子を見ていたパイは意気消沈してしまう。


「さ、さすがミコトさん……一撃アルか……」

「パイ、落ち込むことはないぞ、お前も十分強くなってるよ。この短期間で呼吸法を習得できるなんて大したもんだぞ」


 褒めながら頭をくしゃくしゃに撫でるとパイの顔がはにかむ。


「さて、わたしはローレムとパイを連れて戻るがお前たちは続けてくれ。格闘の部活にはわたしが顧問に就くから、こいつらみたいに『気』が使えるようになりたいやつは入ってくれよな」


 ミコトは意識を失っているローレムを担ぎ上げるとパイと一緒に校舎内へと戻っていった。

 

 その姿を見送るとモエがおどけた調子で前に出て呼びかける。


「さて、次はあーしが行こうかな。アイテム使うのオケマルな後輩ちゃんカムカムー」

「アイテム使いと聞いたら黙ってられないよね」


 そう言い歩を進めたのはヨハンナだった。

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