入園試験
受験生が集められたのは広いグラウンドのようなところで、目の前には広大な森が広がっていた。受験生の前には朝礼台があり、その上に一人の女性が立っている。
目つきの鋭い、紺色で地味だが上品さのあるワンピースを着た年配の女性だ。
「本日はおこしくださいましてありがとうございます。わたしはエルザ・レインストーン、この学園の学園長を勤めております」
見た目と役職通りお堅い印象、だが物腰は柔らかくスキがない。年齢を考えるとずいぶんキレイな声をしている。
「これから行われる試験は全部で三次試験まで行われます。ご存知かと思いますが、本学園には一般兵を育てるスタンダードと英雄候補を育てるためのマスターの2つのコースがあります。一次試験突破でスタンダードコースでの入園が確定、マスターコースへは三次試験突破で合格となります」
続いてこの2つのコースでの違いの説明が始まる。
「授業の内容が違うのはもちろん、大きく違うのはその先の進路です。スタンダードコースでは街や城の守衛などが主な仕事になり、マスターコースになると各国の戦の指南役やナンバーズの討伐依頼を受けることもあります。それから……」
「うーん、カスタードとパスターってのはわかったけどナンバーズってのはなんなのだ?」
そう言葉を発したのはこんがりと日に焼けた健康的な肌の獣耳亜人の少女だった。
その健康的な肌を見せつけんといわんばかりの肌面積の多い部族衣装をまとった少女が、隣にいた猫のぬいぐるみを両腕に抱えた背の低い少女に話しかけたのだった。
「スタンダードとマスターね。どっちも食べ物になってるじゃない」
呆れているのか、少女は特長的なジト目を更に細めじろりとにらみつける。そんな目線などお構いなしに獣耳少女が笑いながら答える。
「なははは、そう、それそれ」
「ナンバーズっていうのはね、魔族の親玉である魔王の眷属のこと。全部で666体もいて、それぞれが魔物の軍を率いてるリーダーみたいなもの」
「666! そんなにたくさんいるのか?」
驚く獣耳少女にジト目少女が冷静に返す。
「ううん、この八百年も続いてる戦争の中ですでに四百体以上の討伐が確認されているから、残っているのは二百前後と言われているの」
「ふーん、それでもまだ多い気もするけどな……それよりお前物知りなんだな。ちっこいのにえらいのだ」
「お前呼びとかちっこいとか失礼!」
獣耳少女はあっけらかんと笑いながら言うと、ぬいぐるみに顔を埋めぷくーっと頬を膨らませ不快感を表す。そのしぐさも可愛らしい。
「ウルの名前はウルなのだ。お前いい奴だから友達になるのだ」
「な、何を言い出すの突然! あんた馬鹿なの、試験中なのよ!?」
突然の申し出にジト目を見開き顔を真っ赤にすると、ウルは先ほどまでピンと立っていた耳が垂れ、あからさまにがっかりした表情になる。
「駄目なのか?」
「うっ……別に駄目じゃないけど、いきなりだったから……わたしエマ・オルセン。……よろしく」
新しい友情が芽生えている間に学園長のエルザは後方に控え、違う女性が前に出てきていた。
「続きまして第一試験の内容について説明させていただくシンシアよ。この学園で主に魔術関連の教鞭をとっているわ」
とても教員とは思えないほど破壊力抜群なダイナマイトなボディ。
服……といっていいのだろうか、その危険物を隠す気すらない、大事な部分だけがかろうじて隠れているような衣装の女性に見ている受験生たちの方が赤面した。
「これから受けてもらう一次試験ではこの先の森に入って私の作ったゴーレムと戦ってもらうわ」
そう切り出した試験の内容をまとめると次のとおりだ
・ゴーレムの中にはコアとなる魔石があり、それをもって戻ってくる
・ゴーレムは九十六体しかいない
・ゴーレムの種類は様々で、近距離、遠距離、パワータイプ、防御タイプ、魔術タイプ、スピードタイプと様々なタイプがいる
・倒せないと判断した場合、怪我した場合などは棄権を認める
「まぁ命の危険は無いと思うけど、怪我したら医療班がいるから遠慮なくいってね。それでは、はいスタートォ!」
唐突にスタートと言われ一同にざわざわと動揺の声が上がる。
「ほら、始まったわよ。早くいきなさぁい」
シンシアが両手で追い払うような仕草をすると受験生一同が一斉に動いた。
「九十六体しかいないってことはなるべく早くにしとめないといけないってことか?」
「どう見ても受験者が二百から三百人くらいはいるからね」
パーティーを組んでいる受験生だろう、説明が終わるなり相談する声が聞こえてくる。
するとリズの隣にいたモモが話しかけてくる。
「人によって得手不得手があるからなるべく自分にあったゴーレムを探さなきゃだね」
「うん、わたし遠距離なんて出来ないから近距離タイプでないと難しいかも」
リズも答えると、モモから提案がされる。
「ねぇ、わたしたちパーティー組まない?」
内心同じことを考えていたのでリズは驚き軽く目を見開き返す。
「わたしでいいの?」
「もちろん。それじゃあ、今からわたしたち友達だね」
「うん、嬉しい。実は同じこと考えてたんだ」
お互い少し恥ずかしそうに笑いあい、森へ駆けていった。