少女は紅く照らされる
「君のお名前は?」
「……ジョゾ」
リズは膝を折り、発見した子供と同じ目線の高さで名前を聞いていた。
「そっか、ジョゾ君っていうんだね。お父さんやお母さんは?」
ジョゾは黙って首を振る。いないということを示しているのだろう。
「じゃあ……お姉ちゃんと一緒に探しに行こうか?」
手を差し伸べるが、警戒しているのかしばらく困った顔で見つめていたが、リズがにっこりと微笑むとおずおずとその手を握りしめた。
小さな手……きゅっと握りしめたら壊れてしまいそうなほど頼りない手……もうすぐ沈んでしまう夕日に照らされ、人気のない街中を小さな手を引きながら歩いているリズの頭の中には八年前の光景が浮かび上がっていた。
「年はいくつ?」
ジョゾに尋ねると手をパーの形に開く。
「そう5歳なのね」
あの時のわたしの弟は3歳だった。きっとあの頃のリックよりは少し大きいはずだ。それでもこんなにも小さく感じられるのはきっとわたしの手が大きくなったからだ。
「この子は絶対に守らないと」という愛おしさが湧いてくる。
だがその気持ちは絶望のデジャヴとともに打ち消されることとなった。
曲がり角から大型の魔物が現れたのだ。大人の2倍ほどの大きさで、厚い鱗に覆われた二足歩行の鰐のような魔物だ。リズ達の存在に気が付くや近づき歩み寄ってくる。
リズの体内に流れる血が急速に駆け巡る。先ほどまで抱いていた愛おしさが使命感に変わる。
大丈夫、あの頃の泣いて逃げることしかできなかった小さなわたしじゃない。手も大きくなって守れるものも増えたはず。
剣を引き抜こうと繋いだ手を放そうとするとジョゾの小さな手は慌ててリズの右手を握りしめた。
「ちょ……」
手を離さないと戦えないと一瞬振り解こうとしたが、自分の手をしっかり握りしめ震えてるジョゾを目にしてはそんな考えは吹き飛んでしまった。
守るしかない——
その決意を固めると同時に魔物は手に持ったバトルアクスを振り下ろしてきた。
斧を盾で受け流すと、その行先は地面をえぐり舗装された道路の破片がはじけ飛ぶ。地面にめり込んだ斧がゆっくりと持ち上がると、今度は斜めに振り下ろされてきた。右手が塞がったままでは態勢を整えることもままならないが、これもなんとか凌ぐ。
右手に繋いだ小さな手がやたら重く感じられる。普段ならたやすく受け流せる攻撃もギリギリだ。
誰かを守ることがこんなにも難しいものだとは思わなかった。
更に加えられる追撃も何とか回避する。盾で受け流し、身をひるがえし、ジョゾを抱え転げまわり、かすり傷を負いながらも紙一重でかわし続ける。その度に汗が噴き出る。
このままじゃ長くは持たない。誰でもいい、この子だけでも……
「誰か、助けて!」
鰐のような魔物が斧を振り上げる。だがリズたちは地面を転がり態勢が整ってない。
もう駄目だ——
ジョゾを抱きしめ、思わず目をぎゅっと閉じる。そして鈍い音とともに斧が地面へと落ちる。
グギャっという鳴き声が聞こえ、恐る恐る目を開けると手に矢が刺さり斧を落としていた魔物の姿があった。次の瞬間、リズの目の前で魔物は肩から腰にかけて斜めにバッサリと斬られ、血を吹き出し崩れ落ちた。
その背後にいたのは桃色の髪の少女だった。巨大な愛剣を肩に担ぐとモモは笑みを浮かべる。
「大丈夫、リズ?」
その姿はいつぞやの英雄のように夕日に照らされ、紅く輝いていた。




