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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
ヴァーロでの戦い
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窮魚人を噛む

 アナは大きい針とも細長いナイフともとれる刃物を腰に付けたポーチから取り出すと、細めのロープを括り付けなにやら細工をしていた。


「そんなものなんに使うんだ?」

「うーん、釣りかな?」

「釣り?」


 アナの行動の意図が読めず、オウルは思ず顔をしかめる。


「あいつらさー、同時に倒すのが条件なら近づかれるの嫌がるんだろ」

「……だろうな」

「じゃあ多分あいつら遠距離攻撃しかできないと思うんだ。だったらとりあえず空にぷかぷか浮かんで泳いでるフグを一体捕まえる。もう一体をオウルが倒したらいつでもとどめが差せるだろ?」

「……なるほどな、じゃあオレはもう一体を引き付けておく」



 アナとオウルが家から出てくると二体のプラゴは嘲笑っていた。


「おっ、ようやく出てきたよプラゴ」

「死ぬ決心がついたのかなぁプラゴ」

「余裕ぶっこいてろよフグ野郎。黒箱(ブラックボックス)


 オウルが魔法を使うと、一体のプラゴが黒い箱に閉じ込められる。


「プゴー、なんだこの箱? 大丈夫かプラゴ?」

「プゴー、真っ暗! 助けてプラゴ」


 先ほどまでにやにやといやらしいニヤケ顔をしていたプラゴたちは一転、驚きの表情をさらしていた。だがあわあわと黒い箱に触れると意外にもその箱はいとも簡単に壊れてしまった。


「プゴッ……あっさり……」

「そんなのただの目くらましさ、もっと魔力を込めたら閉じもめておくこともできるけどな」


 油断が生じたその瞬間、アナが先ほど作っていたナイフを投げつける。


「捻じれ貫け! 螺旋(スパイラル)


 覚えたばかりの魔法を唱えるとナイフは回転し勢いを増し、一体のプラゴを貫く。


「プゴォ! いたいぃぃぃ! なんだこれ抜けない!」


 自身の身体を貫いているロープを手繰りナイフを抜こうとするが、ナイフには釣り針のような「かえし」がついていてなかなか抜けない仕組みになっていたのだ。


「っせぇぇぇぇい!」

「プゴォォォ!」


 醜い魚がかかるとアナはそのロープを思いっきり引っ張り、地面に叩きつけた。


「プラゴォ!」

「おっと片割れの心配してる余裕があるのか?」


 再び空に浮かんでる方の背後をとると今度は爪でその小さな体を貫いた。口から血の混じった赤い泡を吹き、絶命は免れないだろう。


「今だ、アナ!」


 オウルが合図を送ると、地面に打ち付けられたプラゴにとどめを刺そうとナイフを振りかざす。

 その刃が振り下ろされようかというその刹那、今までおちょぼ口だったプラゴが大きな口を開き、牙をむき出し襲ってきた。「窮鼠猫を噛む」ならぬ、「窮魚人を噛む」である。


「ぐあぁぁぁぁ!」

「うひぃ、何なんだコイツ急に!!」


 さっきまでのニヤケ面の面影はなく、涎を垂らし襲ってくるその形相と変化ぶりに驚きとまどうが、寸でのところでナイフで牙を受け止め防いでいた。

 すごい形相で襲ってきながらも先ほどと同じように背中からこぶが盛り上がってきている。


「くっそ、このままじゃまた分裂される……」

「俺のことを遠距離主体の臆病者だと侮っていただろう? これでも一部隊をまかせられてるんだぞ、そんなヤワなわけないだろう」

「ずいぶん必至だなぁ。言葉遣いも変わってるぞ」


 憎まれ口を返すが、追い詰められていたのはアナの方だった。つかまれた腕に爪が食い込み血が滲み、小さな手ながらも力が強く骨が折られそうだった。

 その間にもこぶは大きくなり、ついに分裂してしまうと助けに駆け付けていたオウルに襲い掛かった。


「くそっ、また振り出しか!」


 オウルは同等に戦っているが、アナは尻もちをつき、ついに押し倒されてしまう。プラゴは短い腕を振りまわしアナの腕を傷つけてゆくと、痛みに耐えきれずついにナイフを手放してしまった。


「しまった!」


 好機と見るや大きな口と牙がアナの血肉を食らおうと迫ってくるが、プラゴの身体が突如蹴り飛ばされる。未だに身体を貫いたままのナイフが地面と擦れあい、キキィーと嫌な金属音を鳴らしながら引きずられる。


「大丈夫か、アナ?」

「ああ、助かった……ありがとう」


 アナの窮地を救ったのは迷子になり彷徨っていた褐色肌の亜人種、ウルだった。

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