学園へ向かう馬車の中で
村で一晩の宿をもらったリズとモモは、次の日の朝にはカシシュミナ学園に向かう馬車に乗っていた。
本来なら昨日のうちにもっと近くの街まで行っている予定だったが、オークの襲撃に時間をとられ、今は時間と闘っている。学園の入試試験にはそこまで時間は残っておらず、遅刻寸前なのだ。
焦っているリズは口をとがらせている。
「もう、時間ないってわかってるのにいつまでもごはん食べてるから!」
「だっておいしかったんだもん。それにせっかく村の人たちが用意してくれたのにもったいないじゃない」
そういいながらも、モモはもらった果物を食べていてのんきなものである。
「大丈夫、大丈夫、村の恩人を遅刻させるわけにはいかんからのぉ。ちゃんと間に合わせてやるけぇ。わしに任せんさい」
「そう、おじいちゃんはプロだから安心していーよ」
昨日はいなかったが、今日は小さな客が乗っていた。ララという六歳の女の子で御者を務めている老人のお孫さんだそうだ。
モモに加えこの小さな搭乗者のおかげでずいぶんにぎやかなものだ。
「おねえちゃんたちが村を守ってくれたんでしょ? お父さん言ってたよ、リズが作戦立てて囮になってくれたおかげで誰も怪我せずに済んだって。ありがとうね」
「ララちゃんも無事でよかったよ」
リズがララの頭を撫でていると食べ終わったモモが顔を寄せる。
「やっぱり作戦もリズが立ててたんだねぇ。わたしリズに興味しんしんだよ」
顔を間近に「興味しんしん」などと言われ思わず照れが出る。
「きょ、興味って……どこに?」
「わたしとリズって全然違うんだもん。考え方も戦い方も全然違う。でもそれって面白いことじゃない?」
「そ、そうかな? 確かにわたしはお腹すかせて倒れたりはしないけどね」
「それは忘れてー」
「モモおねえちゃんは食いしん坊さんなんだもんねー」
「あーララまでー!もー!」
女三人寄れば姦しい。天蓋の中は賑やかに馬車は目的地まで歩みを進め、そして学園に到着した。
学園の正門につけられた馬車の中からリズが飛び出し、駆け出す。
「ほらモモ急いで! もう時間だよ」
「うん、ちょっと待って、忘れ物はないね」
巨大な愛剣を取り出すのに多少手間取りながらモモもリズに続く。
「お姉ちゃんたちー、またねー!」
「がんばって合格するんじゃぞ」
大きくぶんぶんと手を振るララと老人に見送られ、リズ達も手を振りそれに応える。
「うん、ありがとー! いってきまーす」
そう言うと二人は正門の奥へと消えていった。