ルルティア
「これは不吉な……」
生まれたばかりの赤子の長い耳を見たエルフの産婆は思わず言葉を漏らしてしまった。
エルフの住む大きな集落は3つ、人間と協力し共に魔王軍と戦っているシルフスロー、魔王軍と手を組んでいるバラドリガ、そして人間や他の種族とは滅多にかかわりを持たず独自の文化を守るエルフの故郷ともいわれるアルフヘイムがある。
ルルティアが生まれたアルフヘイムは特に保守的で信心深く、長い耳を持って生まれた子は「不吉の象徴」として忌み嫌われデック(醜いエルフ)と呼ばれていた。
ルルティアの母親は出産がきっかけで我が子の顔を見ることもなく亡くなってしまい、3年後優秀な狩人だった父も魔物に殺されてしまったため、それらの不幸はまだ幼かったルルティアに向けられてしまい里でも有名な嫌われ者となっていた。
「あっデックが来たー」
「呪われるぞー、みんな逃げろー」
道を歩いていただけでも同年代の子たちからはこのようにからかわれる始末である。
幼いルルティアはそれでも必死に周りから認めてもらおうと弓も勉強も人一倍努力し、優秀な成績を収めていた。
しかしそれが裏目となり同い年の子供たちからも浮いた存在となり更にいじめられることも多くなり、抵抗しやり返すと「デックのくせに!」などと言われ、大人のエルフからも迫害を受けてきた。
ルルティアには心を許せる者も、居場所もどこにもなかった。
アルフヘイムのしきたりで里の外に出れる年齢は十三歳からとなっていたが、さすがにその年齢から身寄りのアテもない外にでて生活しようとするものはいない。
しかし、居場所のないルルティアは半ば追い出されるような形で、十三歳になりすぐに外での生活を余儀なくされたのだった。
「わたしは今までどこにも居場所がなかった。でも外に出て、ガルシアさんに出会ったとき『かわいい耳だね』って言ってもらって嬉しかったんです。それからみんなに出会えてパジャマパーティーなんかもして本当に楽しかった、初めて自分の居場所ができた気がしていたんです。だからこそ余計……嫌われるのが怖いんです」
「馬鹿だなぁ、ルルティアは……」
ルルティアの心臓がすこしだけ高鳴る。
「十三年もたった一人で闘ってたんでしょ? わたしなんかよりずっと強いよ。それに私たちがあなたのこと嫌いになると思う? こんなにまじめで一生懸命でかわいい妹をさ……逆にこんな頼りない姉たちに愛想つかさないか心配なくらいだよ」
ピンク髪の姉はルルティアの頭をなでながら微笑むとルルティアの目からは涙がこぼれくちゃくちゃの顔になる。
「やめて……やめてくださいよ……優しくされると、不安になります」
「え~、やめないよ~。わたしはかわいい子見るといじめたくなっちゃうタイプだからねぇ」
モモは頬をすり合わせ、妹を抱きしめると長い耳が額に当たりこそばゆく、ほのかにハーブのようないい香りがした。
「こんな、いじわるな姉なんか嫌いだょぉ……」
〈嫌われるのが怖い、か……本当に馬鹿なのはわたしだなぁ……〉
そう心の中でつぶやくモモの胸にはちくりとした痛みが広がっていた。




