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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
ヴァーロでの戦い
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新しい召喚獣

 ガルシアの作戦はスティンの鎧を壊し中の軟体に直接炎を流し込むというものだった。鎧が魔力を跳ね返すものなら、中身は無駄なくこんがり焼けるだろう。 


岩棍棒(ロッククラブ)!」


 エマとケットシーが岩を具現化しスティンの鎧を壊そうと叩くが、破損しひび割れたくらいではすぐに修復してゆく。


「ははは、そんな岩に殴られたくらいじゃ全く効かんぞ」


 エマを狙い槍を突き出すが、石化した猫の妖精(ケットシー)がそれを受け止め、はじく。


「埒が明かない、シー君どうしたらいい?」

「どうもなにも一撃で粉砕できるダメージを与えないとにゃあ」

「わたしこの魔法しかできない……シー君は何かないの?」

「ボクも基本的にはサポートが主流だからにゃぁ。新しい子召喚してみたら? エマの魔力が一発で空っぽになるような強い子」

「新しい召喚獣……」


 召喚獣を呼び出すためには精霊との契約が必要となる。


 通常は世界各地にいる精霊たちと出会い契約を交わすのだが、これにはちょっとした裏技があり、他の術者の召喚した獣とも契約ができるのである。つまり、世界を旅したことなどないエマが様々な召喚獣を扱えるのは師匠にあたるギリーの呼び出した召喚獣たちと契約を交わしていたからなのである。


 その中にはエマの魔力を超えるほどの力を持った獣たちもおり、ギリーからはいざという時にだけ使うよう口酸っぱく注意されていた。


 その「いざ」は「今」のことだ!! そう覚悟を決めたエマが魔力を発動させると、巨大な魔法陣が現れる。


「わたしの魔力がからっぽになるくらいの……さっきベルが放ったような一撃を!! いでよ、ティターン!!」


 エマが魔力を行使すると巨大な魔法陣が現れる。


「な、なんだ?」


 地面にあらわれた巨大な魔法陣にスティンはおもわず尻込み、陣の外へと避難する。

 大きな手、大きな足、ひげもじゃの顔でずんぐりむっくり体形の30mはある巨人が魔法陣から現れた。


「な……なんだぁこの巨人は……」


 表情は見えずとも驚いているのがわかるスティン、ガルシアとクロエも唖然としている。

 3人だけではない、突如として現れた巨人に人間も魔物も戦いの手を止め、その存在に驚愕していた。


「さぁティー君、やっちゃって!!」


 ちゃっかりティターンの肩に乗っているエマがさっそく指示を出すとティターンはしゃがみ込み、スティンをまじまじと眺める。


「お、お……おおおぉぉ!! くらえぇニードルショットォォ!」


 蛇ににらまれた蛙のように怯えていたスティンは勇気を振り絞り攻撃に転じるが、巨人にとっては蚊に刺されたようなものだ。

 ちくっとした痛みはあったのだろうか、むっとしたティターンは両手で挟むようにパァァァン! と空気が震えるのが身で感じられるほどの大きな音を立てスティンを叩き潰した。まさに虫扱いである。

 両手を開くと中からはすりつぶされ原型をとどめてないスティンの無残な姿があった。


「ガルシア、鎧壊した。どうするの、これ?」

「え、え~と、これとどめ差す必要ない……かな?」


 ガルシアは苦笑する。ほんとは炎魔法を流し込み蒸し焼きにする予定だったのだが、ものの見事なオーバーキルである。

 指揮官を失ったからか、ティターンに恐れをなしたからか魔物の軍勢は一目散に逃げて行く。死傷者をほとんど出さずヴァーロ側の圧勝であった。


「ティーくん、ありがとね」


 ミコトたちに続き凍り付いた海に下り魔物と戦っていた兵士たちが歓喜に沸く一方で、ティターンを還したエマはぐったりとしていた。

 さすがに魔力を消費しすぎたのだろう。よろめくエマをガルシアがお姫様抱っこをして抱える。


「わわっ、何何? 降ろして!」

「ふふ、ふらふらじゃないか? いいから甘えるときは甘えなよ、仲間なんだからさ」


 ガルシアはキラッと光る八重歯を輝かせニカっと笑うと、エマは頬をピンク色に染めながら毒づく。


「このたらしめ……」

「それはそうと、エマちゃんの魔力をため込む体質って特殊だよね? それって特殊能力(スキル)なのかな?」

「スキル?」


 エマは小首をかしげる。


「ああ、たまにねその人にしか使えない、魔法とはまた別の能力を持った人がいるんだ。それを固有スキルっていうんだよ」

「ふぅん……自分のがそうなのかはわからない……けど……」

「そっか……なにはともあれお疲れ様。今日の英雄さんは間違いなくエマだ」


 エマはびっくりしたような顔をガルシアに向ける。


「わたし活躍できた?」

「相手のボス倒したんだから当たり前でしょ」

「……うん、うれ……しい」


 そういい心底嬉しそうに微笑んだエマは魔力を使い果たした疲れからか、すぐに腕の中で小さく寝息をたてるのだった。

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