貝の騎士
「すごい、一瞬で百……や、もっと多くの魔物をやっつけた」
初めての戦陣で戸惑っていたエマは唖然としていた。
「おかげでほとんどの魔力つかっちゃたけどね、エマも私以上に魔力高いんだからこれぐらいできるようになるわよ」
「わたしにも?」
「そうよ、魔法はイメージ力と反復して使うことで強くなっていくから、最近訓練始めた今のあなたじゃ難しいかもだけどね」
「うん、いっぱい練習する」
一面凍り付いた海の上に魔物たちがぞろぞろと上がってくる姿が見えた。
「ふむ、海の上なら遠慮なく攻撃できますな。小さき石たちよ、うねりをあげろ、岩石嵐」
コリンが両腕を上げると小石が渦を巻き集まってくる。その渦は術者の腕の動きにあわせ氷の上にいる魔物たちを襲う。
小さな石は魔物の肉をえぐり、致命傷にならずとも広範囲の敵にダメージを与える。その動けなくなった敵の首が鋭利な刃物で切られたように切断される。
「死神の小鎌」
黒い蝶のような羽を生やしたクロエが空中から魔法を放っていたのだ。
魔物たちも反撃しようと〔水鉄砲〕などの魔法を放つも、速度の落ちる空中に向けてでは回避するのも容易であった。
そんな中、クロエの魔法を跳ね返す一体の魔物の姿があった。
「やれやれ、一方的な展開だな」
さざえなどの貝殻と同じ素材の凸凹した鎧に身を包んだ騎士のような見た目で人の2倍ほどの大きさの魔物だ。
その魔物は手に持った槍――これもまた螺旋を描いた長い巻貝のような代物をクロエ目掛け思い切り振りかぶり投げつけてきた。
そのスピードはすさまじく羽に槍が当たってしまう。羽は弾けるように砕けちりクロエは落下してしまう。
「きゃあああ!」
「くっ、いけない。出てこい平竜」
ガルシアはとっさに瓶を取り出し開けると、その中から平べったい全身を羽毛で覆われたジンベイザメに似た竜が姿を現した。すぐにその背に飛び乗るとクロエ救出に飛び出す。
徐々に氷上が近づき、もう駄目だと誰もが思った瞬間、寸でのところで竜の背で見事キャッチすることに成功できた。
「あ、あ、あ……ありがとぅ」
「いーえ、せっかく助かったとこ悪いけどしっかりつかまっててね、ちょっと過激なドライブになるから。さぁ、フラット、やってくれ!」
平竜は口から音波を発すると、複数の魔物が突然ふらふらし始めた。
「なに、したの?」
「エコロケーションさ。普通は自分や障害物なんかの位置を特定するために使われるものだけどフラットのは相手の方向感覚や距離感を狂わせて混乱状態を引き起こす効果があるんだ」
「……ふぅん」と空返事をするクロエの表情から察するに、おそらく理解はしてないのだろう。
方向感覚を失った魔物たちは見当違いのところに魔法を放ったり武器を投げたり同士討ちをしていた。
そんな中、宙を飛ぶ平竜を睨みつける姿があった。先ほどの騎士のような魔物だ。その手には先ほど投げたはずの槍が再び握られていた。
「厄介なことばかりしてくれるな、だがこれまでだ」
魔物の持つ槍がパキパキと音を立て成長してゆき、平竜の飛ぶ高さまで伸び続けた。
その槍を思いきり振りかぶり平竜の顔面を真正面から殴りつけ、背中に乗っていた二人は衝撃で宙に放り出されてしまう。
「くっ、フラット、瓶の中に戻れ!」
ガルシアは宙に放り出されながらも竜を瓶の中に戻し、氷の上に落下してしまった。そこは敵地の真ん中である。
落下の衝撃で体中にダメージが広がり身動きの取れない二人は敵に囲まれてしまった。
「ようこそお嬢さん方。海の楽園へようこそ」
ようやく身を起こしたガルシアとクロエを貝の鎧に身を包んだ騎士が見下ろしていた。




