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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
カシシュミナ学園、入試試験
6/92

オークとの戦闘

 人の姿が見えない村の中、入り口を正面に迎え、装備を整えたリズは一人で立っていた。


 村の外に見える平原から大きな影が迫ってくる。


 潰れた鼻、とがった牙、豊富な脂肪を貯えてはいるが筋肉質のアンコ型の体形、二メートル近い体躯を持ち力も強い、知能こそ低いが並みの兵士では一対一で勝つのは難しい魔物だ。そのオークがちょうど十体、僅かな異臭を放ち入り口を超え村へと入ってきた。


リズの姿を確認するや、立ち止まり様子を伺うと、たどたどしい言葉を発する。


「お前だけ、か? ほか、人、いない……」

「ああ、わたしが相手だ! もし、わたしに勝てたらこの身体、お前たちの好きにしてもいいぞ」


 ゴブリンやオークは知能が低い分、欲望に忠実で女とみれば他種族でも平気で交わう性欲の強い魔物だ。リズの言葉を理解するや、下卑た笑みを浮かべ、我先にと駆け寄ってきた。


 一番先頭にいたオークが棍棒を振り降ろす。

 リズの盾はそれを受け流し、すれ違いざまに脚を斬りつける。立て続けに襲い来る醜い獣の攻撃も盾や剣で回避しながら全て避けきり、最初のオークと同じように脚にダメージを与えていた。

 十体いるオークは呻きながら転げまわるか、膝をついていた。


 この『後の先(ごのせん)』こそがこの八年で身につけたリズの基本戦術となる。

 誰かを守るためにと盾術を磨き、敵の攻撃を受け流すことにかけては達人クラスとなっていた。


「今!!」


 リズが大声を張り上げると、家の屋根や物陰から弓矢や農具を持った村人が一斉に姿を現す。そして急に現れた村人たちに動揺するオークを集団で攻め立てる。


 勝負は一瞬だった。相手は少女一人と侮ったオークたちは突如現れた村人に撲殺されてしまった。


「やった、勝てた……誰も傷つかずに倒せたぞ!」

「君のおかげだ。ありがとう!」


 村人は無血勝利で終わった戦いにそれぞれ歓喜の声を上げ、リズにも感謝を述べる。


「いやぁ流石にわたしだけじゃこれだけのオークを仕留めるのは無理でした。皆さんの協力があってこそです」


 握手を求められ、照れながらも応えていたリズ。その様子を遠くから見ていたモモの姿があった。


「ふうん、あの子ああいう戦い方をするんだ……自分とは全然違うんだなぁ」


 村を見渡せる木の上に立っているその少女の姿は血にまみれていた。


 




 同時刻、場所は変わり村から少し離れた街道に商人が青ざめた顔をして立ち尽くしていた。


「な、なんじゃあ、こりゃあ……」


 オークの腕や足が飛び、巨大な体躯ですら真二つに斬り裂かれ、辺りにまき散らされたおびただしい量の血と肉塊。臓物が木の枝に引っかかっていたりと、まるでミキサーにかけられたかのように無残な状態だった。

 その量から推測するに百体近くのオークの死骸を求め、カラスと野犬が集まり死肉をむさぼっている。


 どうやったらこんな殺され方になるのか商人にはまるで想像もつかない。その日常とかけ離れた地獄のような光景に、胃の中の物を全部吐き出していた。





 場所は再び村へと戻る。

 村へと戻ってきたモモの姿を見つけるや否や、リズが大慌てで駆け寄ってきた。


「大丈夫っ!? その恰好、どこか怪我したの?」

「いいや、わたしは大丈夫。だけどもう見た通りベトベトだよ。洗濯とお風呂入りたーい!」


 モモは頭から血を浴びたかのように、全身血だらけだった。


「どこもケガしてないの? そっちもかなり大変だったんだね?」


 リズは知らない。モモがどれだけの数のオークを倒し、どのように戦ったのかを。


「まぁね、疲れたしお腹もすいたけど、今はお風呂が先決だよー」

「それなら宿に水浴び場があるから、そこを使えばいい」


 馬車の老人に教えてもらうなり、モモは足早に向かっていった。

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