氷を溶かす太陽 (モモ vs ベルトーシカ)
「ようやく出番がまわってきた、一回休みだなんてひどいよ」
「いいわね……代わりにわたしが休みたかったわ」
グラウンドには対称的な二人が並んでいた。戦いに胸躍らせてるモモとうなだれた表情のベルトーシカだ。
「わたしはあなたと戦ってみたかったよ、ベルトーシカ」
「そう……わたしは別になんとも思ってないわ。……氷結の牢獄」
早く勝負をつけようと、開始と同時に早速お得いの氷魔法をぶっ放す。が、氷は現れない。
「……どうなってるの? 魔法が……」
「残念、わたしに魔法は効かないよ」
モモの持っている巨剣は魔法を吸収する能力を持っている。そればかりか吸収した魔法を発動し相手に跳ね返したり、魔法剣としても使用できるのだ。そのことはリズとシンシアしか知らない。
魔法が発現しないことに動揺したベルトーシカだが、すぐに対策をこうじる。
「霜寒なる騎士の矛よ、わが身を守れ氷の槍」
無数の氷の槍がベルトーシカのまわりに形を成し、モモを狙っている。
「あなたも反魔法かなにかをもっているの?」
「反魔法とはちょっと違うけどね、それよりもやる気なさそうな口ぶりの割りには戦う気満々だね」
ベルトーシカは観客席にいるコールマンにちらりと目を向けた。
「ここで結果を出さないと家族がどうなるかわからないのよ……」
「なにか訳有りのようだね、わたしはベルトーシカと戦えて嬉しいけどね」
「……なんであなたは戦うの? わたしは戦いは嫌い」
モモは方眉をひそめる。
「そうだね……わたしの場合は戦った先に求めるものがあるから、かな」
「……ずいぶん抽象的ね。わたしは戦った先にも求めるものが見出せない」
「ふぅん、戦いは嫌いだけど、家族のために戦わなきゃいけないってことか。でもみんなそうなんじゃないかな?」
片方の眉は髪に隠れていて見えないが、今度はベルトーシカが眉をしかめた。
「どういうこと?」
「仕事だってそうでしょ。生きていくため、家族を養うためには嫌でも仕事をしてお金を稼がなきゃいけない。でもその仕事を嫌々やるか、やりがいを見出すかなんてその人によるよね? わたしがパン屋さんだったら嫌々パンを焼くよりも、人においしいって言ってもらえるようなパンを焼けるように努力するよ」
ベルトーシカが納得していないことはその表情からも読み取れた。
今までは冷静な口調だったが、少し大きく、うろたえるような声になっていた。
「それでも誰かが傷つくんだよ。わたしはそんなの……見たくはない」
「わたしだってそうだよ。誰かが傷つくなんて嫌だけど、誰かが戦わないとより多くの人の血が流れるんだ。血を見るためじゃない、誰かを守るために戦うんだ。まぁこれはほとんどリズの受け売りだけどね」
『誰かを守るため』
その言葉に兵士達を守り亡くなったという母の姿を思い起こした。
「そう……確かにそうよね。ありがとう、少しやる気が出てきたわ」
「うん、お礼は全力で戦ってくれればそれでいいから」
モモは二カっと歯を出し笑う。
「それじゃあお言葉に甘えて!!」
身の回りに準備していた無数の氷の槍が一斉にモモを襲うが、それをいとも簡単に斬り落とし突破する。
近寄るモモに危機感を覚えたのか、精霊を呼び出した。
「ウンディーネ!!」
「おっ待ってたよ」
巨剣が水の精霊を捉えようかというその瞬間、ウンディーネから発せられた水流がモモを捕らえ空中に流れてゆく。
その水流は一箇所に集まり大きな水の球体となり、モモはその中に捕らえられてしまう。
「水球牢、その中に取り込まれたが最後、脱出はできないわ」
その言葉通り、宙に浮かんだ水球の中でモモはあがき苦しんでいた。
脱出しようと真下へ泳ぎ進むも、この球体の中で常に中心に引き寄せる水流があり、なかなか前に進むことが出来なかった。
それに加え外側から氷の槍が飛び込んできて脱出の邪魔をする。動きの鈍くなる水の中、巨剣を振るい応戦する。
<息が……>
激しい動きに息も待たず勝負あったかとおもったその時、水球が真っ二つに断ち斬られる。その中心にいたのはもちろんモモだ。
「光の斬撃。ぷはっ、死ぬかと思った」
「やるわね……でも」
真っ二つに斬られ地面に落ちかけていた水が再び元の球体へと戻る、もちろんモモもまだ捕らえられたままだ。
「水が駄目なら、凍らせてあげる!絶対零度!!」
水球はモモを捕らえたまま瞬時に凍りついた。
「おいおい、これはさすがにまずいんじゃないか……」
「待って、もう少し、もう少しだけやらせてあげてください」
すぐさま中止させようとしたミコトを制したのはリズだった。
「でもこれじゃ、下手すりゃ即死だぞ」
「……モモは絶対に負けない」
「もう勝負ついたでしょ、いい加減終わらせないと本当にまずいわよ」
なかなか勝負の中止が言い渡されず焦っていたベルトーシカの頭に雫が垂れる。ふと上を見上げるとカチコチに凍り付いていたはずの氷の球体が溶けはじめていた。
「な、何が起きているの?」
完全無欠だと自信をもっていた精霊との複合魔法への異変にベルトーシカの心は更に乱れた。
球体にヒビが入り、割れ始める。その中にいたのは巨剣を掲げたモモだ。
「太陽!!」
剣は光と熱を放ち、氷を内側から溶かしていたのだ。
「わたしの氷が……モモの太陽に溶かされていく……」
モモは崩れかけの氷の中からひらりと舞い降りる。巨剣が放つ光が砕けた氷に反射し、後光が差しているような神秘的な様子をかもし出していた。
ベルトーシカはその姿に見惚れ、攻撃することを一瞬忘れていたほどだ。
「おおおおおっ!」
剣を振り上げ、雄たけびを上げ迫り来るモモの姿に我に返り、魔法を詠唱する。
「氷よ、鉄より硬い強度をもって侵入を阻め、冷徹なる壁」
ベルトーシカとモモの間には分厚い氷の壁ができる。しかし、巨剣はその鉄よりも硬い壁を打ち砕く。
その先に待っていたのは、氷の槍を手に構えたベルトーシカだった。
壁が砕けると同時に雄たけびを上げ、槍を突く。
モモは身を翻し回転しながらその槍を避け、そのまま回転の勢いを利用して巨剣をウンディーネとベルトーシカに叩き込んだ。
ウンディーネは水に戻り地面を濡らし、ベルトーシカの身体は吹き飛ばされた。LPは一撃でゼロになっていた。
ようやく大地に降り立ったモモは大きく息をついた。モモのLPも残り僅かだった。
「ふふっ、ははは、あははははははははははははは!!」
仰向けに倒れていたベルトーシカが突如大きな声で笑い出す。
「まさかわたしが全力出してやられるなんて……あはははは……あー、気持ちいい!」
「えっ、どうしたの突然? 打ち所が悪かったかな?」
モモはやりすぎたかと、焦った表情を浮かばせる。
「ははは、いや……思えば今までこんなに全力出して戦ったことなんて無かったなーってね。何かを全力でやりきる事ってこんなに気持ちのいいことだったんだね」
モモはちょっと呆れたような微笑を浮かべる。
「なんだそんなことも経験したことなかったのかよ、温室育ちめ」
わざといたずらっぽく罵る。
「うん……そうだね。わたしはもう少し視野を広げるべきなのかも……おかげでもやもやしたものが吹き飛んだよ。ありがとうね、モモ」
「どーいたしまして、わたしも楽しかったよ。またもやもやしたらぶっ飛ばしてあげるから」
そして二人は大きく笑いあうのだった。




