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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
実技トーナメント
54/92

激流 (リズ vs  コリン)

 トーナメントもいよいよ準決勝となり、終わりが近づいてきた。

 続いての対戦はリズ対コリン。どちらも防御に徹した戦い方を得意とする二人である。さすがに今回はリズも剣と盾を持参している。


「以前のグループ戦では戦えませんでしたからな、楽しみですぞ」

「わたしは正直あまり戦いたくなかったなぁ……」

「ふぅむ、弱気になっているのですかな?」


 コリンはニヤリと笑みを浮かべる、自分が有利なことを理解しているのだろう。

 純粋に攻撃防御に秀でているコリンに対し、あくまで柔術ベースの受け流すリズは相手の勢いを利用してのカウンターを得意としている。腕力だけで攻撃を仕掛ける体重の重いコリンはさしずめ重戦車、さすがにリズも戦車を受け流すことは出来ない。

 魔法で戦おうにもコリンの方が多くの魔法を使え、魔力も高く熟練している。属性も水と土で相性もコリンが有利だ。

 もちろんリズも自分が不利であるということは理解しており、どう戦うべきか算段がたたないでいた。


「ま、やれることをやるだけだよね」


 リズは飛び出していった。

 そう、唯一勝ってるものがあるとすれば速さである。コリンを翻弄し手数で責めるしかない。


「まぁそうでしょうな。大地の壁(アース ウォール)!」


 突進してくるリズの両脇に壁ができる。まるでリズとコリンを結ぶ一本道が出来上がったようだ。その道を棍棒を大きく振りかぶったコリンもドスドスと駆け出す。


「まずい!」

「もらった!」


 二人が交わる丁度のタイミングで棍棒が振り下ろされようとしていた。左右に避けるスペースなど無い。巨大で重い棍棒を受け流すこともできない。


激流(ジェットストリーム)


 魔法を唱えるとリズの背後から突如、一本道を大量の水が押し寄せる。

 その流れに乗りリズの勢いが増し、棍棒が振り下ろされる前にコリンに一撃を加える。


 二つの壁の間から大量の水が流れ出す。その中には押し出された二人の姿もあった。




「開始序盤から派手だねぇ」

「ガルシアさんはどちらが勝つと思いますか?」


 観客席ではガルシアとルルティアがどちらが勝つか予想をしていた。


「うーん、やはりコリンじゃないかな?地力の差が出てくると思う」

「わたしもそう思います。重戦士かと思いきや、なにげに高度な魔法も使ってるんですよね」

「オレはリズが勝つと思う」


 後ろの席にいたオウルが突如会話に加わってくる。


「あいつには意外性があるからな、きっとなにかやらかしてくれる」




 グラウンドではずぶ濡れの二人が起き上がるところだった。

 勢いを乗せた一撃でもコリンのLPはあまり減ってはおらず、リズはげんなりとした。一撃を加えるだけでも一苦労なのに、その労が報われない程度の結果しかでない。逆にコリンの腕力なら2~3発くらっただけでLPはなくなってしまうだろう。


「まるで小さな巨人だね……攻略の糸口がつかめないよ」

「嬉しい例えをしてくれますな。しかしこちらも油断はしませんぞ」


 今度はコリンの方から攻めてくる。


(ルーツ)よ!」


 コリンお得意の魔法戦術でリズの足を絡め取る。しかしそのリズの姿は水となって地を濡らし、シミをつくる。


「水の虚像か!」


 虚をつかれたコリンの隙を狙い、壁の影に隠れていた本物のリズが一撃を加える。


「ぐむ……」


 頭に攻撃を受け多少よろめくコリンに、この機を逃すまいとリズは立て続けに連激を加える。その連激に耐え棍棒を振るが、それを器用にかわしながらもリズの攻撃の手は緩めない。


 このままコリンのLPを削れるかと思った矢先、根がリズの身体に絡みついた。

 動きが止まったその一瞬を逃さず、コリンの棍棒がついにリズを捉える。横になぎ払われたリズの身体はボールのように飛ばされてしまった。


 魔力障壁が張ってあるとはいえ強い衝撃を受けたリズはしばらく動けないほどだったが、やがてふらふらと立ち上がった。

 リズもコリンもLPの残量はわずか、リズにいたっては魔力もほとんど残っておらず、どのように攻撃を仕掛けようかと考えを巡らせコリンの顔を見る。


 ん、何かがおかしい……顔のパーツが何か足りないと違和感をおぼえる。

 そしてはっと気がつく、そうだ髭がないのだ。ドワーフの命だと言い、いつも大切にしていた髭がなくなっているのだ。


「コ、コリンさん……」

「ん、なんですかな?」


 ゆっくりとリズに近づく足を止め、会話に応じる姿勢を示す。そのコリンに向かい両手で髭の形を表すジェスチャーを行った。

 はっとし慌てて鼻の下を確認するコリン。髭が無くなってる事に気がついてワナワナと小刻みに震えだした。


「お髭!お髭どこー!」


 まるで見た目通りの八つかそこらの歳の子どもみたいにかわいい声を出し、泣きながら騒ぎ出した。その姿にはいつものジェントルメンらしさは無く、リズおよび観客席で見ていた仲間達も目を丸くしていた。


「お髭ーお髭どこにいったのー」


 地面に四つんばいになり一生懸命探しているその姿に呆気にとられていると、リズの剣に髭がくっついていることに気がついた。


「あれ……これ付け髭……」


 リズが髭を持っていることに気がついたコリンはドスドスとリズに駆け寄る。


「お髭返してー」


 泣きながら駆け寄ってくる小さな女の子に愛らしさと同時に悪戯心が芽生え、コリンの身長では届かないよう髭を持っている腕を上に伸ばした。


「なんで? なんで返してくれないの? いじわるしないでお髭返してー!」


 着地の時のドスンという音はえげつないものはあるが、ぴょんぴょんと可愛らしく小さく飛び跳ね、付け髭を取ろうとする姿に癒される。


 しかし今は勝負中である。


「返してほしかったら負けを認める?」

「うん、負けでいいから、返してー!」


 この瞬間、リズの勝利は確定した。




 観客席では目を輝かせ、ルルティアに迫られているオウルの姿があった。


「オウルさんすごいです! このことを予期してリズさんの勝利を予想したんですね?」

「いやぁ……さすがにこの決着のつき方は予想してなかったぞ……」


 オウルは目を泳がせ、ばつが悪そうに頬をぽりぽりと掻く事しか出来なかった。

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