悪あがき (コリン vs クロエ)
「前は一緒に戦った仲だが、今回は敵同士。お互い全力を尽くしましょうぞ」
コリンは片手を差し出し、クロエに握手を求める。
その手を凝視し、おずおずと手を伸ばすとコリンの方からその手を掴み取った。
「相変わらずしゃべらんのう……意思疎通は大事だぞい」
黒髪の死霊魔術師はぶんぶんと大きく振るコリンの手を振り払うとそそくさと距離をとる。
「やれやれ」と重戦士のドワーフは棍棒を構えると、クロエは十八番の髑髏たちを呼び出し並べ立てる。
「そのパターンも想定通りだのう。そんな雑魚をいくら呼び出そうとわたしは倒せませんぞ」
話を聞いているのかいないのか、無表情のまま髑髏をけしかける。コリンは飛び掛ってくる髑髏三体を棍棒一振りですべてなぎ払ったとき異変は起こった。
粉々に飛び散る骨のかけらに混じって、黒い球体が宙を舞う。
「なんだこれは?」
「使い魔蝙蝠」
その球体から羽が生え、牙の生えた口が開きコリンに噛み付く。しかし、フルアーマーに身を固めたコリンの身体にはその牙は届かない。
「ちと驚いたが残念だったのう」
鎧に噛み付いて離れない蝙蝠と化した球体を素手で握りつぶす。その直後、緑色の死神がコリンを背後から抱きしめる。
「爛れた霊魂、それは鎧じゃ防げない……」
「おおおお」
コリンのLPがみるみる減っていく。この死神が本命の攻撃で、髑髏や蝙蝠はめくらましのフェイクだったのだ。
「くっ、根よ」
大地から伸びた根が死神を捕らえコリンから引き剥がしてゆくと、宙に分散するように消えていった。
「……戦い方が今までと違うな。なにか心境の変化でもありましたかな?」
「うん……今までわたしはこの力が嫌いでなるべく使いたくはなかった……だけど、こんなわたしでも人の役に立てることだってある。そう教わったから……わたしも強くなるためにがんばる!」
自分の心の内を話すクロエにコリンは目を丸くした。
「がっはっはっ、なんだ、お主普通にしゃべれるではないか。そんな心意気があったとは!」
「へっ……?」
当の本人はすらすらしゃべっていたことに気がついていないのかポカンとしていた。
「なら、はじめに交わしたように全力を出しませんとなぁ、 大地の手」
コリンが魔法を唱えると、大地から土が盛り上がり、巨大な人の腕の形を成してゆく。その腕はまるで虫を潰すかのように手のひらでクロエを叩き潰そうと迫りくる。
「えっ……」
クロエは死を覚悟した。正確には魔力障壁が張ってあって死にはしないが……
同じ闇属性でもオウルのような影移動の魔法は使えず、瞬時に避ける術は持っていない。
そして手の平が大地にめり込む。おせんべいのようにぺちゃんこにされたと思ったクロエだったが、運良く指と指の間に立っていた。
「ずいぶん器用な避け方をするのう……」
ただ立っていただけだが、どうやらコリンは避けたと勘違いされてしまったようだ。
無表情なのでわかりにくいだろうが、本当は漏らしそうなほど怯えていたところを、コリンの勘違いのおかげで正気を取り戻せた。
<そうだ、ぼーっとしてる暇なんかない。どうやったら倒せるか考えなきゃ>
クロエが思考を巡らせている間に巨大な腕は再び押しつぶそうとする姿勢をとる。
「黒き羽よ、我を大空に羽ばたかせよ、黒蝶」
クロエの背中に黒く大きな蝶の羽が現れると、その翼を使い空へと舞い上がる。
巨大な腕よりも高い位置まで来ると、腕はにょきにょきと伸びその姿をどこまでも追ってゆく。
「汎用性高い術を多く持っておるが、しかしそう簡単には逃げられんぞ」
「死神の大鎌」
クロエは宙を飛んだまま、魔力を込め腕を振るうと黒い大きな刃が放たれる。その刃は土の腕を一太刀で断ち切った。そして続けざまに魔法を放つ。
「死神の小鎌」
今度はさほど魔力を込めずに小さめの刃を連発する。狙いはもちろんコリンだ。
棍棒を盾に、刃を受ける。
「空飛びながら攻撃とかズルイですぞ! こうなったら……重力落とし」
コリンが呪文を唱えるとクロエにかかる重力が増し、羽による浮力よりも強い力に引っ張られ、落下し 地面に激突してしまう。
クロエのLPが大幅に減少し、かつ重力に押しつぶされ身動きができず、LPもさらに減少してゆく。
「これで勝負有りですかな?」
重力に押しつぶされ、天然のポーカーフェイスもくずれ苦悶の表情を浮かべる。
その姿に油断し近づいてきたコリンに影が伸びる。
「影操作」
クロエの影とコリンの影が重なり、コリンの自由が奪われた。
一回戦でもアナにこの呪文で自由と勝利を奪った、一対一では無敵とも思える魔法である。
しかし、コリンの顔にあせりの色は微塵も浮かんでいない。
「ほっほ、やはり使ってきましたな」
地面から根が伸びコリンの周りを球体状に包み込むと、影の重なりは解けてしまい、コリンは自由を取り戻す。
「そ、んな……」
「身体の自由は奪われても魔法は使える様ですからな、試させてもらいましたぞ」
地べたに這いつくばっているクロエに止めを刺そうと棍棒を構える。
するとコリンの周りの地面から骸骨が次々に這い出てくる。もちろんクロエの魔法によるものだ。
「……悪あがき、ですな。以前のおぬしなら諦めていただろうに、やはり変わりましたな」
にっこりと微笑むと周りの髑髏を一掃し、勝負の決着をつけた。




