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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
カシシュミナ学園、入試試験
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出会い

 パカパカと馬の蹄の音が子気味よく奏でられる馬車の中、リンゴの入った箱、酒の入った樽と共に紛れ赤い髪の少女は眠っていた。


 そでの無いオレンジがかった黄色のタートルネックのセーター、青いスカート、長かった髪は肩に届く程度にそろえられている。

 八歳だった少女は背丈も伸び、胸も膨らみだいぶ女性らしい体つきになっていた。

 その傍らには身の回りの荷物と剣と盾が置かれている。


 蹄の音が止まると共に、ウトウトしていたリズの目も覚める。


「おじいさん何かあったの?」


 (ほろ)の中からひょっこり顔を出し、手綱を握る老人に声をかけた。


「ああ、嬢ちゃん起きたかね? ()()、見てみぃ」

「アレ?」


 老人が指さす方に視線を送ると、誰か倒れている姿が目に飛び込んでくる。

 リズは慌てて馬車から飛び降りると急いで駆け寄る。


「ちょっと、ねぇ、大丈夫!?」


 倒れていたのは薄桃色の髪を赤いリボンで両サイドでフワフワにまとめている、かわいらしい女の子だった。

 年齢はリズと同じぐらいだろうか? あまりの無防備な姿に少しドギマギしてしまったのは肩が大胆にはだけた女の子の服装のせいもあるだろう。


 不可解なのは近くに落ちていた大きな剣のような武器だった。柄の部分が槍の様に長いが刃の部分もそれと同じくらい長く、巨大だ。


 こんな女の子がこんな巨大な剣を——?


 そんなことを考えていると、雷鳴の如く大きな音が鳴り轟いた。

 何事かと耳を澄ますと、それはかわいらしい女の子のお腹から響いてきていた。




「はー、お腹いっぱい! ご馳走様!」


 近場の村の食堂の中。薄桃色の髪の女の子は手を合わせ満面の笑顔を見せていたが、その反面リズの表情は唖然としていた。


 テーブルに並べられた皿、皿、皿、皿、皿の山。


 それらに乗っていた料理を目の前でペロリと平らげたのだ。リズよりも少しだけ小さな身体にこれだけの量の料理がどのように収められたのかとリズの表情は驚きを隠せなかった。

 そんな心情を知ってか知らずか、満面の笑みを浮かべ少女は手を差し出す。


「改めて、助けてくれてありがとうね。わたしの名前はモモ、よろしくね」

「わ、わたしはリズ。よろしくね」


差し出された手を握り、二人は握手を交わす。


「ねぇ、リズもカシシュミナの試験を受けに来たの?」

「やっぱり、モモもなの?」




カシシュミナ学園——


 八百年戦争と呼ばれる長きに渡る人類と魔族との戦争の真っ最中、戦場で戦えるだけの力を持つ戦士を育てるための学園。

 明日、その学園の入学試験が行われる。リズが馬車に揺られていたのも学園に向かっていた最中なのだ。


「あのおっきな剣見た時からもしかしてとは思ってたよ」

「ふふ、わたしも一目見てわかったよ」

「そうなの? 剣とか持ってなかったはずだけど?」

「んー、なんとなく? 筋肉のつき方とか見て鍛えてるってわかるもん」

「えー、わたしそんなムキムキかなぁ」


 リズは自分の二の腕やらを触り確認しているとバン! と大きな音をたて、店の入り口が勢いよく開けられた。


「大変だ! オークの群れが村に向かっているぞ!!」


 それは馬車で二人を連れてきた老人だった。ここはこの老人が住んでいる村らしく、一度家に戻ると、食堂の前で別れたのだ。

 慌てる老人にリズが話しかける。


「どういうこと? 何かあったの?」

「おお、君たちも早く逃げた方がいい。さっき傷だらけの商人が村に来たんだ! 何事か尋ねたらオークの群れに襲われたって……」

「群れって、数はどれくらいなの?」

「わからん。 群れが来ることだけは聞けたが気絶しおった。しかしこの村に戦える者などほとんどおらん、逃げた方が賢明じゃよ」


 リズとモモはしばし考えこむと同時に口を開いた。


「じゃあ村を守ろう!!」とリズが

「じゃあ打って出よう!!」とモモが言う。


 二人は思わず目を合わせる。


「打って出るって敵の規模もわからないのに?」

「来るのがわかってるなら奇襲をかけた方が早いと思うけど? それに規模がわからないからこそ村で待ち構える方が不利じゃない?」

「でも奇襲をかけるなら少人数になっちゃうし、規模が大きかったら勝ち目なんてないよ」

「オークだったら一人で大丈夫だよ。お腹いっぱいになったわたしは強いからね!」


 自信ありげにお腹をポンポンと叩く。


「そんなに自信があるからこそ誰かを守るために力を使うべきでしょう? あなたは何のために戦士を目指してるの?」

「ダレカヲマモル……ため?」


 モモはきょとんとし小首をかしげる。その仕草は本当にリズの言葉の意味が理解できていない様だった。


「あなたは違うの? じゃあ何のために強くなるの?」

「わたしは魔物を殺すためだよ……魔王を倒すのがわたしの背負った宿願だから!」


 魔王を倒す。


 それはもちろん全人類の願いだが、それを目標にするとはっきりと言い切る者は少ない。いるとしたら己の実力を過信した馬鹿かよほどの自信家だろう。それだけ八百年も戦争を続けてきた歴史は重いのだ。

 しかしモモという少女の言葉には得も言われぬ迫力と説得力があった。

 誰かを守るために強くなろうと決意したリズはそんな大それたことは考えたこともなく、押し黙ってしまった。


「じゃ、わたしはいくね」


 そう言うと薄桃色の髪の少女は愛剣を手にし、店を出て行ってしまった。


「そんな……一人じゃ、無茶だよ……」

「お嬢ちゃん、さっきの話じゃが、村のために戦ってくれるのかね?」


 老人の問いかけに、こくりと頷く。


「わしみたいな爺や女子供は避難するが、村を守ろうって連中もおる。戦ってくれるならやつらと話してくれるか?」

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