聖母(モモ vs ユノ)
トーナメント一回戦目のトリを飾るのはモモ対ユノだ。
巨剣を傍らに準備体操をしている余裕の表情のモモに対し、ユノはいつもの格好ではなく、髪をまとめポニーテール、ショーツに短パンとノースリーブシャツと動きやすい格好で現れた。
「モモちゃん、遠慮は要らないから全力でかかってきてね。でないと―」
細い目をうっすら開き言葉を繋げる。
「すぐに終わらせちゃうから」
「ミコト先生、この対決は差がありすぎるんじゃないのか?」
一人でコリン、オウル、クロエを倒してしまうモモと、神官であるユノでは戦闘能力に差があるように見えるのは仕方の無いことだ。少なくとも質問をしたウルにはそう見えているらしい。
「んー確かにモモの実力はまだ底知れないものがあるが、ユノだってまだ底を見せたことはないんだぜ。『聖母』って言われるほどの異名を持つユノだ、ひょっとしたらモモを食うかもしれんぞ」
ウルは眉をしかめ、信じられないといった表情でさらに尋ねる。
「『聖母』ってなんでそう呼ばれるようになったのだ?」
「ああ、それはな ―― 」
ユノが怒涛のラッシュでモモを攻め立てる。
スポーツテストではいい結果を残せなかったユノが、パワー、スピード共にモモを圧倒しているのだ。もちろんこれは身体能力を向上させる補助魔法のおかげだが、驚くべきはその身のこなしだ。
モモが重力を感じさせない剣の使い方をするように、右へ左へ、縦や真正面に回し蹴りと重力を感じさせないような多次元的な蹴り技のコンビネーションを見せる。
「くっ、普段そんな格闘なんて出来る素振りなんて見せなかったのに……」
「そうよ、強い女の子なんて女子力低そうじゃない……ってのは冗談。わたしね、訓練するときはいつも補助魔法をかけた上で訓練してるの、子供の時からずっとね……でもその訓練をしすぎちゃって能力が高い状態のほうに頭が慣れちゃったのね、平常時だと意識した動きと身体のバランスが合わなくて上手く動かせなくなっちゃったの。よく転んじゃうのもそのせい。戦闘時においてはこっちが本当のわたしなのよ」
胸を大きく揺らしながら反撃の隙を与えずに攻め立てる。まさかの格闘術に先手を取られたモモは反撃の機会を見出せず、ためらっていた。
「子供の時から? そんなに昔から魔法が使えるようになったの?」
「モモちゃん、『昔から』って言い方にとげがあるわよ」
ユノはジャンプし、身体を宙に浮かせた。半身をひねり強烈なソバットをクリーンヒットさせると、モモは地面を転がり倒れこむ。
「わたしね、物心ついたときから魔法が使えるの。神官の使う神聖魔法はね、教会が光属性の子供たちを集めて訓練してようやく使えるようになるのに、わたしは最初から何の苦労もなく使えちゃった訳ね。そのおかげで『聖母』なんて呼ばれて祭り上げられちゃったのよ。子供なのに『母』なんて失礼しちゃうわよね」
蹴り技主体ならではの構えなのだろう、スラリと長い片脚を浮かせモモを見下していた。
「ユノさん、ちなみに聞くけど拳は使わないの?」
「回復はね、手の平を介してでしか使えないの。誰かを癒すこの手を、誰かを傷つけるために使いたくないのよ」
言い終わると同時にユノは思い切り踏み込みモモを踏みつける。
それをバク転してかわすと、巨剣を取り反撃に転じる。右足を大きく前に踏み込み、下段から斬り上げる。勢いを乗せた一撃は空を切り裂く。ユノは空中で一回転すると、かかと落としを放つ。今度はモモが身体を回転させ避けるとそのままの勢いで剣を振るう。
そのような一進一退の攻防が続けられる。
五分ほど時が過ぎただろうか、モモを圧倒しLPを削っていたユノの動きが徐々ににぶくなってきた。
「どうしたのユノさん? 息が上がってきたよ」
その問いには答えず、ぜいぜいと肩で息をするようになってきた。
「……やっぱりそうなんだ、そのチートな能力向上も魔力制限があるんだね」
その言葉に動揺したのか一瞬の隙が生じる。
その一瞬を見逃すモモではなかった、ユノの脚を払い転ばせると巨剣を突きつける。
「……続ける?」
「いいえ、わたしの負けだわ、ほんとモモちゃんって強いのね」
「ユノさんこそ強いよ、正直楽勝だと思ってたのに、これじゃ『勝負に負けて試合に勝った』状態だよ」
手を差し伸べユノを起こす。
モモが言うとおり、立っているモモのLPは半分ほど減っていたが、倒れたユノにはほとんどダメージはなかったのだ。
「そんなことないわよ。さっき言った通りこの戦い方には魔力制限があってね、身体能力を向上させればさせるほど戦える時間は短くなるの。魔力を使い果たしちゃうから魔物との戦闘時にはほとんど使えない戦い方だけどね、けが人が出ても回復できなくなっちゃう」
コロコロと笑いながら言葉を紡ぐ。
「いわばドーピングのようなものだからね。それだけやってもしとめきれなかったモモちゃんの実力の方が断然上よ。魔法も一切使わなかったし、まだまだ実力を隠してるみたいだしね」
「買いかぶりすぎだよ、わたしは常に全力投球だから全然余裕なんてないよ……」
モモは「あーお腹すいたなー」と踵を返す。
「あら、丁度朝に焼いたシフォンケーキが席にあるわよ。食べる?」
「いただきます。ユノさん、マジ聖母!」
目を輝かせ、振り返ったモモの口元からはよだれが垂れていた。




