考えろ (アナ vs クロエ)
―― わたしは何で合格したのだろう?
自分がここまで来れるとは思わなかった。
誰かに認められるとは思ってなかった。
そんな想いがアナの小さな胸の内に潜んでいた。
特に身体能力や魔力が高いわけでもない、特殊な技能があるわけでもない、戦闘訓練を積んできたわけでもない、商業都市で盗みをして暮らしていただけのストレートチルドレンだ。
そんな自分が二次試験を合格できた理由がわからなかった。そしてその疑問は三次試験のエルザとの面談の時にぶつけられていた。
「たしかに他の受験生達の中にはあなたよりも強い子は何人もいたわ」
「じゃあなんでなんだ? あたしみたいなそこいらにいる汚いガキに見込みなんてあるわけないだろう?」
エルザは「ふぅ」と小さなため息をつく。
「そんなに自分を卑下するのは関心しないわね。それこそあなたを見込んだ人たちに失礼よ」
「わたしは今まで盗みをしてきた罪人だよ。自信なんて……あるわけないよ」
「……『自信を持て』なんて言っても持てるわけないわよね……シンシア先生たちとも話し合ったけど、あなたには『考える』っていう力があるのよ」
「考える……力……?」
アナの眉が八の字を描く。
「そう、力を鍛えたりするのは誰でもできるけど、考えるってことはなかなか鍛えることができないのよ。それはあなたが今まで常に頭を使って生きてきたってことなんでしょうね。今のあなたにはわからないかもしれないけど、戦場に出て生き残るには考えて咄嗟の判断ができるかどうかが重要になってくるの。それは自分だけでなく、時には仲間も助けることのできる大事な能力なのよ」
アナの顔はさらに難しいものになっていた。エルザの言葉を一生懸命消化しているのだろう。
「そんなの、自分では意識したこともないぞ。あたしは今までやれることをやってきただけだ……だけど信じてみるよ。あんたの言ったこと……あたしのこと信じて合格にしてくれたんだもんな」
そして現在、アナの目前には無数の髑髏が蠢いていた。相手は死霊魔術師のクロエだ。
<考えろ、どうすればこの状況を打破できる?>
髑髏一体一体はさほど強くもないが、脅威となるのはその数である。一体でも不気味な髑髏、数十体に囲まれ戦意を喪失しないものはそうはいないだろう。
だがそんな中でもアナの思考は活路を見出そうと頭をフル回転させていた。
アナには広範囲を攻撃できる武器も魔法も無い。手元にあるのは両手に持っている短剣といくつかの煙玉だけである。
「さぁ皆、いってちょうだい」
クロエのボソッとした号令と共に髑髏たちが一斉に襲い掛かる。
「こりゃあ三十六計逃げるに如かずだね」
土ぼこりをあげ迫りくるアンデッドの大群にさすがにたじろぎ、逃げ惑う。
「この組み合わせ、さすがに無茶があったんじゃないですか?」
「そうかもな……わたしもそう思うんだけどな」
観客席にいたユノは隣に座っていたミコトに尋ねると、困ったように答える。
「でも、窮鼠が猫を噛む事だってある。これは実戦じゃないんだ。どこまでやれるか、その可能性を見たいんだよ」
アナは逃げながらも観察をやめていなかった。
「逃げてばっかじゃジリ貧だな。そろそろ少しは数を減らさないとね」
髑髏の大群の中に煙玉を投げ込み、辺りに煙を充満させ、その煙の中に飛び込む。
「この煙の中じゃ、同士討ちが怖くて攻撃できないでしょ? でもこっちはあたし一人だから誰をどう攻撃しようがお構いなしってね」
アナは両手の短剣を手当たり次第に振るう。もろい髑髏たちは次々に崩れ落ちてゆくが、不思議なことに髑髏たちは同士討ちをすることはなく、確実にアナを狙って攻撃してくるのである。
<煙の中じゃあたしの姿を見つけるのは困難なはずなのに……>
その時何かに気がついたのか、アナの表情が一変する。すぐに煙の中から出てくるとクロエのいる方向へと駆け出してゆく。
当然クロエの周りにも護衛用の髑髏が数多く残っている。それらを無視し、クロエに煙玉を投げつける。
「思い違いしてた。髑髏一体一体に意思があるんじゃない、あくまで指示者はクロエなんだ。だから遠くから煙幕を見てて、唯一動いてるあたしに攻撃を指示していたんだ。だったら直接術者の視界を奪えば髑髏たちは無効化されるはずだ!」
「うっ、何も見えない……」
クロエは煙の中でオロオロしていると護衛の髑髏をすり抜けてきたアナに押し倒され、刃を首筋にあてられた。たとえLPが満タンでも致命傷だとLPは0となってしまうのだ。
「これであたしの勝ちだね。早く降参しちゃいなよ」
「……影操作」
クロエは押し倒されても全く動じた素振りも見せず、魔法を使った。
「な、なんだ? 体が動かない……」
「相手を操る魔法……」
次第に煙が晴れてゆき、髑髏がまわりを取り囲む。クロエはアナを操り自分の上からどかせるとゆっくりと立ち上がり服についた土を払う。
「もう、勝ち目なんて、無い。降参して……」
「だれがっ! 降参なんてしてあげないんだから!」
舌をべーっと出し、せめてもの抵抗をみせる。いくら頭を働かせても体が動かなければ意味は無い。本当にそれは弱弱しい最後の抵抗だった。
クロエは「そう」といい、手首を振り合図をすると髑髏の群れが一斉に襲いかかる。
アナのLPはあっという間に尽きてしまった。




