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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
学園生活
36/92

新しい生活

 カシシュミナ学園内にある学生寮の一室、同じベッドの上にリズとクロエは腰掛けていた。


 リズ達にとって今日から新たな学園生活が始まる。

 今二人がいるのは、その学園生活の基盤となる自室として与えられた部屋だ。扉と逆側の壁には窓が三つ、ベッドが三つ並びその間に机が三つといった感じで並んでおり、扉側の壁にはタンスが三棹と本棚が一台置かれていた。

 この部屋には三人一組で住むことになる。


 コンコン


 扉からノックをする音が聞こえる。リズが「どーぞ」というと三人目の住居人となるモモが扉を開け入ってきた。


「やっほー、久しぶり」

「久しぶり。元気だった?」


 モモは挨拶をすると横にいたクロエの存在に気づく。


「この二週間一緒にいたんだっけ?」

「うん、そうだよ」


 「ふーん」といいながらクロエに冷たい視線を送ると、その視線に気づいたのか、クロエはそそそとリズの影に隠れる。モモは荷物を下ろすとリズのすぐ横に腰をぴたりとつけるように座る。


「ねぇ、リズって肉食系と草食系どっちが好き?」

「えっ、いきなり恋バナ? んーどうだろうあまり考えたことないからなぁ」


 突然ふられた話題にあわあわしながら答える。


「そっかー、リズはなんでも受け入れてくれそうだから肉食の方があってると思うけどね。それに『にぶちん』っぽいし……クロエはどうなの?」

「わ、わわわわたし、ですか? え、えー」


 話題を振られると、びくっと体を飛び上がらせ、しばらくもじもじしていた。

 どうしようかとあせっていたクロエの脳裏に浮かんだのは普段は物静かだが、鍛錬を欠かさず常に健康的な汗をかいていた記憶の中の父親の姿だった。


「し、しゃべらない、動かない……く、臭いひと……」

「えっ……」


 モモとリズが固まる。二人の頭の中には死体愛好家(ネクロフィリア)が連想されていた。

 クロエは自身ではうまくしゃべれたとにやけていたが、リズはその肩にぽんと手を置くとまじめな顔で首を横に振る。


「クロエ、それだけは駄目だと思うよ……」





「うまいな、これ」


 ユノが作ったケーキを口いっぱいにほお張りながら耳をピコピコと動かしていたのはウルだ。


「いや、本当にこのケーキは絶品ですぞ、紅茶にもよくあう」

「うふふ、おかわりもあるわよ、あなたもどう?」


 コリンも満面の笑みでケーキを平らげ、紅茶をすすっていたが、一人だけ席に着かず壁に寄りかかり立っていたオウルにユノが声をかける。


「いや、わたしは施しは受けない」


 ここはウル、ユノ、コリン、オウルが四人で生活する共同部屋である。リズたちより一人多い分、部屋も広く真ん中にはテーブルが設けてある。部屋の中にはケーキの甘い香りがほんのりと香っていた。


「んもう、この間のクッキーは受け取ったのに……」

「まあまあユノ殿、あやつはなかなかの偏屈家なのですぞ、許してやってくだされ」

「お前、保護者ぶるな」


 保護者のように振舞うコリンにオウルがムッとする。


「施しとか言ってないで素直にいただいたらよかろう、相手の好意を無下(むげ)にするのもまた失礼な話しぞ」

「……そいつには前にももらってる。これ以上借りを作れない……」

「ユノのクッキー、ウルも食べたいぞ」

「ふふふ、また今度ね。じゃあ、このケーキ食べてくれたらクッキーの貸しは無しでいいわよ」

「……そんな馬鹿な話があるか!」


 オウルは納得がいかずついに怒り出すが、年上の神官は全く動じない。


「あら、あなたわたしに借りがあるのよね? 他にどう返してくれるの?」

「ぐぬ……」

「はっは! オウルの負けだの、ほれさっさと席に着かぬか」


 怒りの表情のままどかっと席に着き、ケーキを食べ始める。

なんだかんだ言っても食べるとおいしいと感じているようで顔がわずかにほころんでいた。


「なはは、最初から素直になればいいのだ」

「うるさい。これで貸し借りなしだからな!」

「わかったわ、はい紅茶もどうぞ」


 差し出されるがまま紅茶に口をつけると、ユノの口角が上がる。


「その紅茶の分は貸しね」


 オウルは途端、紅茶を吹き出すのだった。





 エマが部屋に入ると、中にはすでにガルシアとルルティアがいた。

 挨拶もそこそこにエマの両腕に抱かれている猫に話題が移る。


「そのにゃんこ復活したんだ?」

「うん、ほらシー君もあいさつして」

「これからルームメイトににゃるケットシーにゃ。エマからはシー君って呼ばれてるから君達もそう呼ぶといいにゃ」


 ケットシーが可愛らしく挨拶をすると二人は目を輝かせ顔を近づける。


「か、かわいい~。エマさん、この子エサ何食べるんですか? あげてもいいですか?」

「これが妖精……元々肉体もないって聞いてたけど、どうなってるんだろう?」


 二人はなでたり突っついたり、引っ張ったりまるで話を聞いてない。


「あのー二人とも?興味持ってくれるのは嬉しいんだけどね……」

「もっと近くで観察してみたいな」


 もみくちゃにされうんざりしていたケットシーだが、ガルシアに抱きかかえられ、胸の谷間に挟まれると態度が変わった。


<にゃ、にゃにー、これがおっぱいというものか……やわらかくていい匂いがするにゃ。これはエマでは味わえない感触……>


 柔らかな双丘に顔を埋め、その感触を堪能しているとエマの冷たい視線が飛んできた。


「シー君、今とても失礼なこと考えてなかった?」

「にゃ、にゃんのことかにゃぁ~?」

「ガルシアさんだけずるいです、わたしにも抱っこさせてください」


 目を輝かせ耳をピコピコさせてるエルフがせがむと、ケットシーはルルティアの胸元に移された。


「……」

「かわいいですね~、あれ、でもさっきより大人しくなっちゃった」


<固い……こっちの子はあんまりエマと変わらにゃいにゃぁ……>


 術士であるエマは先ほどまでピンと立っていたしっぽがたらんと垂れたのを見逃さなかった。


「シー君……消しちゃうよ?」





「今日からわたしがこの部屋のリーダーアル!」


 パイの突然の宣言にベルトーシカ、アナ、ヨハンナはあっけにとられていた。


「ちょっと待った、部屋にリーダーなんて必要なのか?」

「そりゃもちろんアル。チームパイ。いい名前アル」

「名前はともかく、リーダーって何をするの?」


 ベルトーシカの質問に言い出しっぺのパイも首をかしげる。


「リーダーって何するアルか?」

「いや、こっちが聞いてるんだけど……」


 はいはいと手を上げたヨハンナが発言をする。


「ボクのつくった薬の実験台になってくれる?」

「そ、そんなのリーダーの仕事じゃないアル! なんだ薬って、怖すぎるアル!」


 続いてアナが手を上げる。


「朝早起きしてあたしらを起こしてくれる」

「いいアルよ。わたし朝は早く起きてトレーニングしてるから一緒にやるアルか?」

「えっ、早いって何時?」

「四時半くらいアル」

「それまだ夜だよ。この話は無し無し!」

「それじゃ……」

「はいそこ、発言は挙手をしてからね」

「……なんの遊びよ……」


 話出そうとしたベルトーシカを指差し制したのはヨハンナだ、しかたなく手を小さく上げる。


「それじゃ私達と友達になる……ってのはどう?」

「ともだち?……うん、当たり前アル。もうとっくにそのつもりアルぞ」

「そう……じゃあ誰がリーダーとか上とかそういうのは無しでいいわね?」

「んんん、んー、たしかに……そう、アル……かな?」


 上手く言いくるめることができたとほくそ笑んでいたベルトーシカにヨハンナが抱きつき頬をすり合わせる。


「な、なにするのよ!」

「友達のスキンシップ~。クールなベルが『友達』なんて言うんだもーん」

「あたしもあたしも~」


 それを見たアナも飛びつくと、腑に落ちない顔をしていたパイもうずうずしている。


「わたしだけのけ者にするなアルー!」

「ちょ、ちょっとぉ! もう、余計なやつらまで調子に乗せちゃった!」


 三人に抱きつかれ、もみくちゃにされているベルトーシカは文句を言いつつも悪い気はしていないのだった。

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