長い一日の終わりに・・・
リズの面談が終わった頃にはとっぷりと夜もふけていた。
部屋に集められた一同を前にエルザが立つ。
「これで三次試験を終わります。皆さんといろんなお話しできてとてもよかったですよ」
「えっとそれで面談の結果はどうなったんですか?」
「ええ、皆さん合格ですよ。これからマスタークラスとして学園生活を過ごしていくわけですが、厳しい訓練や近隣の魔物の討伐などを行うようになるでしょう。怪我をしたり時には亡くなってしまう生徒もいます。つらいことや悲しいことも起こるでしょうが、まだみんな若いんですから時には頑張り、時には遊び、集団生活を楽しみ青春を謳歌してくださいね。」
ガルシアが小さく手を挙げ質問するとエルザはにっこり笑り、これからの学園生活を暮らす生徒たちへの想いを伝えた。
その後、二人一部屋に割り振られていた各自の部屋に戻っての就寝となった。
ここからはその部屋内での様子――
・ウル&ヨハンナの場合
「おおっフカフカの布団なのだ!さっきの椅子といい、なんかフカフカなものがいっぱいなのだ」
「あれだけ動いてたのに元気だなぁ、ボクなんてあんまり体動かすことが少ないから今日だけで体がバキバキだよ」
部屋に戻るなり学園の用意した白いワンピースの寝巻きに着替え、ベッドに飛び込むウルの横にヨハンナはくたくたな様子で腰掛けた。
身体を使うことが得意で頭を使うことが苦手な者と、頭を動かすことが得意で身体を動かすことが苦手な者同士の凸凹コンビが同部屋となった。
「そういえば眼鏡の人、なんか光る棒使ってたけどあれは何なのだ?」
「眼鏡の人て……ボクはヨハンナだよ。あれはボクが作った電気の流れる棒だよ。受け止められても電気を流せばダメージを与えられるすぐれものだよ」
「電気……ふーん、よくわからないけど物を作るのが好きなんだな?」
「うーん」とうなりながらクビをひねる。
「物を作るのが好きって言うよりかは研究が好きって言った方が正しいかな?」
「研究?」
「うん、要は科学だね。新しいものを生み出したり、工夫を重ねて今ある技術を進歩させたり、科学っていうのは底無しで無限なものなのだよ! それにチャレンジすることが錬金術師としての本懐であり生きがいなんだ! この電光棒だって―」
一人でぺらぺらと熱弁するヨハンナの横では、褐色のけもの耳の少女がすでに丸くなりくーくーと寝息を立てていた。
・モモ&ルルティアの場合
「わたしモモよろしくね」
「わ、わたしはルルティア・アロートです。最近エルフの里から出てきたばかりでわからないこともありますが、よろしくお願いします」
深々とお辞儀し、丁寧な自己紹介をするルルティアにクスリと笑ってしまう。
「な、なにか変でしたか?」
「ううん、まじめな子だなって思っただけ、ごめんね」
ルルティアは反応に困ったのか、少しうつむき照れてしまった。
「それじゃ今日は疲れたし、もう寝ようか?」
「そうですね」
そう言うと二人は就寝の準備を始める。すでに寝巻きに着替えていたのにモモはなぜかそれすらも脱いでパンツ一枚だけの姿になってしまう。それを見たルルティアは顔を真っ赤にし、慌て始める。
「ななな、なんで服脱いでるんです? な、何をする気なんですかー?」
「何って……わたし、寝る時は裸で寝るタイプなんだよ」
「服脱いで寝るんですか? 人間の女の子ってしゅごい……」
ルルティアが勘違いしてると悟ったのだろう、慌ててフォローに入る。
「あぁ、全人類の女の子の名誉のために言っておくけど、そういう人もいるってだけで女の子がみんな脱ぐわけじゃないからね」
「そ、そうなんですね……わたしてっきりおそわれ……な、なんでもないです。そ、それじゃおやすみなさい」
「お、おやすみ……」
言葉の途中、何を想像したのか顔と耳を真っ赤にし慌ててベッドにもぐりこんでしまった。
・アナ&コリンの場合
「あー、今日はよくがんばったなぁ」
「ほんとに、あの双子との戦いは見事なものでしたぞ」
おもいっきり伸びをしたアナの前でコリンは大きな酒甕を両手で持ち、酒をぐびぐび飲んでいた。その様子をじとっと見つめると、その視線にコリンが気づく。
「ぷはー、この酒が入用ですかな?駄目ですぞ未成年が酒を飲んでは」
「いらないってそんなもん。ってかお前何歳だよ?わたしより年下だろ、そんなん飲んでていいのかよ?」
アナの言うとおり、コリンの見た目はどう考えても十歳程度の見た目である。身長もアナよりだいぶ低い。その見た目でチョビ髭を生やし、酒を飲んでいる姿はどう見ても異常だ。
「ふむ、今年で二十と五になりますな」
「二十五!嘘でしょ!わたしより十以上も年上なの?」
「がはは、多分みんなの中で一番の年長者になりますな、だから酒を飲んでてもいいのですぞ。それにしてもアナ殿はてっきり不良娘なのかとおもっていたら案外まじめなのですな」
「なっ、まじめじゃねーし、知った風なこと言うな!」
「ははは、その口の悪さは治した方がいいですぞ」
慣れないことを言われ思わず否定したアナの顔は珍しく照れているようだった。
その後も見た目は幼くても精神的にはるか年上のコリンにいいようにからかわれるのであった。
・ガルシア&エマの場合
「ん、なんだい?」
「……いろいろおっきくていいなっておもって」
エマにじっと見つめられ何事かたずねたガルシアはたしかに女性にしては長身だ。そのことを聞かれたのかと思い、答える。
「ああ、わたし背が高いからね、よく男の人にも間違えられるからそんなにいいものでもないよ」
「背だけでなく胸も」
「胸かい?」
自分の胸とエマの胸を見比べ、たははと苦笑いを浮かべる。
「エマだってそのうち大きくなるよ」
「わたし十七だから身長はもう無理かなって諦めてるの。だから胸だけでもって思ってるんだけど、これから大きくなるって望みあるの?」
「うん、胸ならまだまだ大きくなるよ」
エマの表情がぱっと明るくなる。
「何食べたら大きくなる?」
「うーん、わたしは特に変わったものは食べてないと思うけど……コカトリスのトマト煮とか、カルキノスの身をほぐしたパエリアとか好きかな……」
明るくなった表情が一気に曇る。
「えっ、コカトリスもカルキノスも魔物だよね? 魔物って……食べられるの?」
「うん、おいしいよ。ほらわたし魔獣使いだから魔物の類に関しては特徴、弱点、味、毒がないか、食べられるかどうかとか、いろいろ調べてるんだよね」
「そうか……魔物食べれば大きくなれる、でも魔物……胸、魔物……」
エマはぶつぶつ呟きながらうなだれた、深い悩みのループへと引きずり込まれてしまうのだった。
・オウル&ユノの場合
「ねぇオウルちゃんお菓子食べる? わたしが作ったのよ」
そういってユノが差し出したのは小箱に入ったクッキーだった。だがオウルはその小箱に手をつけようとはしない。
それは暗殺者時代に「人から物をもらうな」というジンの教えによるものだった。
「食事なら先ほど済ませたばかりだが……」
「うん、だから食後のデザート、的な」
「デザート……だが何故それをオレにくれる? そんなに飢えてるようにでも見えたのか?」
予想に反してなかなか受け取ってくれないオウルに困った顔をする。
「うーん、同じ部屋になったおすそ分けかな? わたしの作ったお菓子をおいしーって食べてくれたらわたしも嬉しいよ」
「自分のしたことで相手が喜ぶと自分も嬉しい……ってことかよくわからないな」
<食べてくれないのかな>とユノが諦めかけたとき、オウルの手が小箱へ伸びた。
「甘いな……」
「そうだよー、女の子はみんな甘いものが大好きなんだから」
「ああ、たしかに……うまいな」
一つ、二つとクッキーを口に運ぶ様を見て、ユノの顔にも笑顔が浮かぶのだった。
・ベルトーシカ&パイの場合
「わたしはパイ・リー。よろしくアル」
「わたし、ベルトーシカ。よろしく」
ベルトーシカは読んでる本に釘付けでパイには一瞥もくれずに挨拶を交わす。その後も本に没頭し続け、パイが一方的にしゃべり続ける。
「これから一緒のクラスの仲間アルな。困ったことがあったらわたしに相談するヨロシ」
「それはどーも」
「どんな授業内容になるか楽しみアルな。わたし魔法は使ったこと無いけどすごい素質をもってるかもしれない、そんな予感がするアル」
「そう……」
「いやー、それにしてもマスタークラスに入れるとは我ながらよくやったものアル。いや実力的には当たり前だけど、このままとんとん拍子にナンバーズも倒して英雄になるのも時間の問題アルなー」
「……」
終には返事すら返さなくなったベルトーシカをにらみつけ、パイもだまってしまった。
「…………ひぐっ」
異変を感じ取ったベルトーシカが視線をパイに向けると、ベッドの上で体育すわりをし、目をウルウルさせ頬を膨らませていた。
「ど、どうしたのよ?」
「だって……何にも答えてくれないアルから。わたしはただ仲良くしようとしてただけなのに……」
「あぁ、本に集中してたから……ごめんなさい」
「もっとわたしにかまうアル、ちやほやしてほしいアルー!」
相手が謝るや否やパイが堰を切ったようにわめきだす。
「あ、あなたね一体いくつよ?少しは自制心を……」
「ベルトーシカはわたしのことが嫌いなんアルな~?だからそうやって意地悪するアルー」
「……わかった、わかったわよ。お話すればいいんでしょ?別に嫌ってないから……」
ベルトーシカは眉を八の字にさせると、諦めたようにため息をつきながらぱたんと本を閉じた。
・クロエ&リズの場合
リズは冷や汗をかいていた。
先ほどからずっとクロエに見つめられていたからだ。リズの動きに合わせて顔を向けじっと見てくる。トイレに行こうと廊下に出た時など部屋の扉を少し開け、そこから覗くように見つめられていたのである。
「あ、あの、なにか用があるのかな?」
リズから声をかけてもじっと見つめられるだけで何も答えない。
「そ、それじゃわたしもう寝るね」
リズがそう言うとクロエも大人しく布団の中に入る。
それを確認すると明かりを消し、リズも布団にもぐりこむと一日の疲れのせいか、すぐに睡魔に襲われ眠りへと落ちた。
それからどのくらい時間がたったのだろうか。
頬をなでる気配にリズの目がうっすらと開く。おもむろに顔を上げると、そこには真っ黒な髪をたらしこちらを凝視してるクロエの顔が間近にあった。
「ひぃぃぃー」
リズは思わず悲鳴を上げ飛び起きる。
「なな、何何?何がしたいの?」
顔を青く染め、半べそをかきながら壁にすがり付いてると、クロエが更に距離を詰めてくる。
「わ、わたしのそそそ、相談、のって……もらえませんか?」
「へっ? 相談?」




