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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
カシシュミナ学園、入試試験
30/92

アルカディアの系譜

 ウルからはじまった面談も終盤を迎え、一番最後はリズ・ホワイトの番だった。硬い表情のままソファで背筋を伸ばし固まっているとエルザが緊張を解こうと話しかける。


「気楽にしてね、面談って言ってもただおしゃべりするだけだから」

「は、はい」


 「気楽に」といわれてもまだ固まってる様子のリズを見て苦笑する。


「試験はどうだった?」

「はい、とても大変でした。えーわたしは特にこの学園の―」

「面接じゃないから気楽にね・・・本当は二次試験合格でマスタークラスはほぼ確定してるのよ。ただ相手の素性や人柄も知っておかないとたまに魔物のスパイなんかが紛れてたりするからね」


 意外な事実を知らされ、まるで企業の面接でも受けにきたかのように固くなってたリズの緊張が緩んだ。


「スパイなんているんですか?」

「ええ、人間に変化して参加してた魔物が前にいたのよ、この学園、特にマスタークラスからは何人もの英雄が出ているから、魔物たちにとっても目障りなんでしょうね。それ以外にも魔法研究所や武具やアイテムの開発を行ってる施設も近くにあるのよ。魔物たちに対抗する要の地点のひとつと言ってもいいわね」

 

 伸びていた背筋が更にピンと張るような感覚を覚える。

 考えていた以上に重要な場所へ来たんだという認識を与えられ、リズの心には自身が気づかぬうちに子供から大人への階段を昇るために必要な責任感が芽生え始めていた。


「そんなに大事な場所だったなんて知りませんでした」

「ふふっあまり気負わなくてもいいわよ・・・そうそうこれは聞いておかないとね、リズは何を求めてこの学園に来たの?」


 リズは静かに息を吐くと、考えをまとめ質問に答えた。


「わたしは小さい頃、ユリ・アルカディアに命を救われたことがあるんです。彼女は強くて優しくて、まさにわたしにとっての英雄でした。そんな彼女のようになって誰かを守れるようになりたいんです」


 『ユリ・アルカディア』の名前を聞いた途端、エルザの目が一瞬大きく、そして細くなる。


「へぇ、アルカディアに・・・目標はとても高いわね。彼女が『人類の希望』と呼ばれる大英雄ってことは知っているわよね?」

「はい、そしてこの学園の卒業生だということも」

  



 アルカディアという名前は八百年続いた戦争の歴史と共に語られるべき重要な名前だった。

 その名は戦争が始まったとされる年からおよそ百年ほど経った頃から現れる。


 魔王の眷属であるナンバーズが確認され、人類はその存在になす術をもたなかった。

 それというのもその脅威は強さや知性だけでなく『呪い』にあった。それまでもいくつかのナンバーズを仕留めたという報告は上がっていたが、倒しその鼓動が止まった瞬間にその呪いが発動するのである。


 時には視覚・聴覚などの五感を奪い、時には辺り一面の地形を毒の沼に変え、時には死に至ることもあり、その呪いの種類は多岐にわたる。しかも受けてみるまではどんな効果があるのかもわからず、望んでナンバーズと対峙するものさえいなくなった時に対策を編み出したのが初代のアルカディアなのである。


 それ以降も代々、数多くのナンバーズを倒し、その名を歴史に残してきたまさに『大英雄』の系譜なのである。

 その末裔で現『人類の希望』と呼ばれるのがユリ・アルカディアなのである。




「ただこの学園に来ただけでは『人類の希望』になれるわけではありません。英雄と呼ばれるようになれる人物も一握り、ましてや彼女のようになるには並大抵のことでは務まりませんよ?」


 リズの反応を確かめようとエルザはわざとキツイ言い方をすると、間髪容れず熱意のこもった大きな返事が返ってきた。


「はい。少しでも彼女に近づけるように、わたし強くなります!」

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