ウル
ウルが通されたのは応接室だった。
壁にはいくつかの絵画や写真、棚には装飾品が飾られており他の部屋よりも豪華な内装になっている。部屋の中心には二人がけのソファが二つ、その間にあるこじんまりとしたテーブルにはいくつかの銀製の水差しとグラスが置かれていた。
「何か飲む?楽にして腰掛けてていいわよ」
「それじゃあミルクがいいのだ」
ウルはそう言うと遠慮なくソファにもたれる。
「わっ、もふっとするぞ」
オルカカ族という少数部族の出であるウルには面接やこういった部屋など初めてだろう、結局ソファの上に胡坐をかいて座っている。
その様子に気分を害することなどなく、エルザは微笑みながらあらかじめ用意してあった水差しからミルクを注ぐとテーブルの上に置き、腰掛ける。
「ウル、あなたオルカカ族の子よね?自分で字を書いていたようだけど、どこで覚えたの?オルカカの人たちは読み書きが出来ないはずだけど?」
「ああ、字か。それならウルのお母さんから教わったのだ」
「やっぱりそう……あなたのお母さん、リルカって名前じゃない?」
「お母さんを知っているのか?」
「……ええ、やっぱりそうなのね。わたしがはじめて受け持った生徒の一人よ。今のあなたよりはもうちょっと歳は上だったけど顔がそっくりだもの、一目でわかったわ。リルカは今どうしてるの?」
ウルの表情が暗く濁る。
「お母さんは……死んでしまったのだ」
ウルの家族であるオルカカ族は戦闘部族だった。けもの耳の獣人で人よりも身体能力が高く、狩りをしたり、傭兵として魔物と戦い稼ぎ暮らしていた。
その部族が2年前に大量の魔物に襲われ、部族の大人たちは狂戦士の異名に恥じない勇猛果敢な闘いをみせたが数に押し切られ敗北。その時にリルカも子供たちを守るべく闘ったが魔物たちに殺され、喰われてしまったのだ。
残った女子供も散り散り逃げ、誰がどこに行ったのかもわからず同胞を探すためにこの2年間、様々な街を捜し歩いていたのだ。
そして探し出せたのは全部で6人、全員子供だった。
部族の復興を目指すにしても子供だけでは何も出来ず途方に暮れていた時、母親がこの学園の生徒だったという話を思い出し、受験を受けに来たのだと言う。
「……そう、あの子は……」
エルザの目からは涙がこぼれた。
「あんなに明るい子が・・わたしより先に逝ってしまうなんて……ごめんなさい、わたしが泣いてしまうなんてね、何度もこんなことがあったけど慣れないわね……」
「ありがとう……お母さんのこと想っていてくれて」
ウルはエルザの手をとり、まるで母親がわが子を想うかのような慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「お母さんはどんな子だったのだ?」
「あなたにとてもよく似ていたわ。明るくて優しくて……この学園に来たのも部族の子たちにいろんなことを教えてやりたいって、字の読み書きもここで覚えたのよ。身体を動かす訓練では優秀だったけど、字を覚えるのに本当に苦労してね……ふふっ、周りの子たちからも教わってとても勉強熱心な子だったわ」
まだ涙は流れ続けていたが、昔のことを思い出しているのだろう。優しい笑顔がエルザの表情に宿る。
「そうか……お母さんはそんな想いをもってここにきたんだな……」
ウルは部屋を一度見回すと、握った手にぎゅっと力を込めた。
「ウルもお母さんのようになりたい!一族復興するのに何していいのかわからなかったけど……この学園でたくさん、いろんなこと勉強して今度はウルが『お母さん』になるのだ。たくさん子供つくってウルが勉強したこと、子供たちに教えるのだ」
「そうね、あなたが学んだことは将来その子たちの血肉になるわ。たくさんのことを学んでオルカカの母になりなさい」
いつの間にかエルザの表情は教育者の顔に戻っていた。
「オルカカの母……うん、そうだな。ウルがオルカカの母になって家族を、オルカカ族を復興していくのだ。そして子供たちが闘わなくていいようにこの戦争を終わらせるのだ」
ウルの大きな瞳は決意を秘め、きらきらと輝きを放っていた。




